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私と腹黒様の動物談義について

運動会をさせるつもりだったのに出来ませんでした。

でも主人公二人は、ちっとも羨ましくない残念な美形を目指していたので、それは出せたのではないかと思います。

 晩春とはいえ、昨今の温暖化の影響か少し汗ばむくらいの気温。空は雲一つなく晴れ上がり、レジャーには持って来いの休日。

 それだというのに何故、ゴールデンウィークの貴重な一日を使ってまで運動会なんてするのだろうか。そんな暇があるなら、私は家で思いっきりごろごろしたい。そうして普段見れない朝ドラとか、ワイドショーとか、サスペンスの再放送とかを見まくっていたい。

 何よりこういったイベントは苦手なのだ。ぼっちの女にとって、学校行事ほど辛いものはない。班分けとか、一人でお弁当を食べる惨めさとか。そこのところ教師陣は分かっているのかね。

 温暖化の影響を加味し、熱中症を避けるために今年は少し早めに行ったそうだが、それならばいっその事もう止めてしまえばいいのにとさえ私は思いますよ。


「なあ武東。お前も学校行事、嫌いだろ?だって傍から見てたらお前、なんか密林で雌ヒョウの群れに四方を囲まれたオカピみたいになるもんな」


 武東とは中学から同じだけれども、こいつはイベントとなると面白いくらいに人に囲まれる。仮に文化祭で連れとはぐれてどうしようとなった時でも、事前に武東君の50m前で待ち合わせねと約束しておけば大丈夫。一際に目立つドーナツ型の人ごみを目指せば必ず会えるだろう。それくらいに武東は目立つのだ。ただし間違っても人ごみに近づいてはいけない。特に武東に興味のない女の子なら走って逃げた方が良い。

 奴を囲む女共は正に肉食獣である。よだれをだらだらと垂らし、どうやって獲物を捕らえようかと画策して常にピリピリしている。そこにライバルになりそうな女が近づこうものなら、殺さんばかりの勢いで繰り出される様々な攻撃に遭うことだろう。

 かく言う私も一度だけ間違ってその群れに入ってしまったことがあるが、あれは精神をがりがりと削られる非常に不愉快なもので、攻撃してきた奴らの足の甲を一人も漏らさず思いっきり踏んづけてやったくらいだ。

 ちらりと周囲を見てみると、今日もいるわいるわ。沢山の女ヒョウがよだれを垂らしながら、私の隣に立つ武東をロックオンしている。

 しかし今日の女ヒョウ共は誰も狩りに成功することはないだろう。奴を狩ろうとするのには不向きなくらい、どいつもこいつも派手な姿をしているのだ。化粧に至っては、まるでオスの孔雀のように派手である。どうも武東は、ぐいぐいと押してくる人物は男女問わず苦手のようなのだが、派手な格好の女子は漏れなく押しが強い。

 入学してからの1ヶ月間。暇な私は女子に囲まれている武東を観察してみたが、奴を落とそうとするなら化粧は控えめがベストという結論を導き出したのである。同じように武東を狙う者でも、比較的ナチュラルメイクかすっぴんの子の方が、フルメイクの子よりも扱いが幾分か丁寧だったように思うからだ。

 つまり今まさに武東を食わんとする勢いの女ヒョウ共は、意中の彼を威嚇していることになるのだが、それに気付かずあの手この手でアピールをしている。

 ていうか武東よ。さっきまでフリーだったのに、いつの間に囲まれたのかね君は。女ヒョウ共の隙のなさには、私も驚きを隠せませんよ。

 いやはや、しかしながら滑稽である。武東に近付けば、近付くほど嫌われることになるというのに哀れなものだ。

 しかしながら私としては、是非とも彼女達にはそのまま己をアピールし続けて欲しい。そうして無意識で武東に嫌がらせをし続けて頂き、私はそれを見て普段の武東に馬鹿にされている溜飲を下げるのだ。うむ、我ながらなんと素晴らしい計画だろうか。


「…うん、色々言いたいことはあるけど。まず豹は群れを作らないし、何で僕オカピなの?例えるにはマイナーすぎるよね」


 何をしたのか分からないが突然、武東から女ヒョウが蜘蛛の子を散らしたようにわあっと離れて行った。何か多数の酷いと言う声が聞こえたように思いますけど。え、やだなに怖い。一体何を言ったんだね武東君よ。

 そろっと恐る恐る武東を見ると、奴は非常に不愉快ですと言わんばかりの顔をして私を軽く睨んでいた。


「なんか語呂がよかったから?だってトムソンガゼルじゃ長ったらしいし、あいつら女ヒョウだし。ライオンみたいに絶対協力なんてしないね。体よく群れてあわよくば私が武東君と、と言う感じで出し抜こうとしているに違いない」


「君ってさ、本当不思議だよね。自分が絡む恋愛のことは驚くほど何も知らないのに、そんな変な所だけは達観してるよね」


 武東は大げさに溜息を吐くと、君の頭どうなってんの?ちょっと開けてもいい?と言いながら、私の頭頂部を右手で掴み、左手は私の顎に当てると勢いよく捩じった。

 痛い、痛いって!ちょ、お前覚えてろよ!今度こそ校長の目安箱にあることないこと書いてぶっ込んどいてやるからな。それになんなの、オカピ嫌なの?森の貴婦人って呼ばれてるし、一見は上品そうな見た目の武東にぴったりじゃね?まあこいつの中身はご覧の通り、そんな可愛いもんじゃなくて獰猛な虎ですけどね!

 武東はもう一度溜息を吐いた後、私の頭から手を放した。くそ、いつかアイアンクローに加えてさっきの技も食らわせてやるからな覚えてろよ!


「なんだオカピ不満なのか?オカピいいよ?足だけゼブラでオシャレだぜ?」


「あれ、お洒落の為にそうなったわけじゃないよね?密林で隠れる為の保護色だよね?」


 ああ、もう。さっきから細かい男だなお前は。ただの例えなんだから、オカピいいよね嬉しいよとか言っときゃいいんだよ。保護色とか群れる群れないとかどうでもいいんですよ。

 痛む頭を両手で摩りながら、私は心の中で武東にそう言った。決して奴が怖かったからとかそういんじゃないから誤解はしないように。

 あ、でもそんな嬉しいよとか言う武東を想像したら、何だか悪寒が走ったのでやっぱそのままでいいや。あの胡散臭い笑顔でそんなことを言われたら、私はきっと体中に蕁麻疹が出来るのではないだろうか。ああ、やだやだ気持ち悪い。


「まあ僕がオカピだとしたら、君はモルモットかな」


「モルモット。何で?アフリカの自然にいないじゃないか」


「…選ぶ基準はそこなんだ。でも僕はモルモットがぴったりだと思うよ」


「そうなの?」


 そうなんだよ。そう言いながら武東はいつもの人が悪い笑みを浮かべた。あれ?何だか周囲から急に人がいなくなったような気がする。こんなにスカスカだったっけ?

 ふと視界の端にクラスメイトのハム子さんを捉えたのだが、何故だか彼女は小さく蹲って震えていた。どうしたのだろうか。

 ああハム子さんも近くにいたんだね。聞いてハム子さん、私モルモットらしいよ。ハム子さんはハムスターだから齧歯目でお揃いだね。え、違う?そんな暢気なこと言ってる場合じゃないって?うん。何か分からないけど気を付けとくね。

 まだ小刻みに震えながら立ち去っていくハム子さんを見送った後、武東の方を見ると今度は武東が蹲って小さくなっていた。何やら武東から死にそうなくらい苦しいという呟きが聞こえてくる。何だ、朝ごはんに良くないものでも食べて腹でも壊したのか?保健室に行くかと聞いたら大丈夫だと言うので、そのまま放っておくことにしよう。

 そういう感じで私、浅倉南美は動物に例えるとモルモットなのだそうだ。

 ちなみに本当の意味が分かった時、武東の背後からドロップキックを食らわせたことは言うまでもない話である。

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