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プロローグ  マックス編

「マックス=ウォルター(と名乗る男)のつぶやき」


「…はあ」

 夏の日差しもまぶしい広場の中心、噴水のへりに腰かけて、水筒の水で喉を湿らせば、しけったため息が口をついて出た。

 こののどかな町から馬車で3日の位置に王都がある。騎馬なら2日だ。

 出発した日はいつだったか。

 国中をめぐり、もう随分時間も経ったことを、くたびれ果てた旅支度が物語っている。

「ぼちぼち、帰るかな」

 とたんに渋面になってしまうのは、致し方なかった。


『どうしたら1週間の休暇が1ヶ月になるんです!』

 毎度のことだが、あの面倒見の良すぎる相棒が見逃してくれるはずがないから。

 やれ責任感をどこに捨ててきただの、腕っ節だけ強いトリ頭で王が守れるかだの、いっそ着る気がないならそんな礼服は売って国費の足しにしろだの言いたい放題説教してくるが、それでも、なまじっか付き合いが長いだけに、毎回あの堅物は、旅に出ることを止めることはない。

 腰に下げている、物言わぬ方の相棒、その馴染んだ柄を握る。

(まったく、俺はいつまでこのままなんだか)

 何よりこの剣は、守るべき相手に捧げるためにあるというのに。

 いまだに心を定められずにいるなど、そんなことは今の自分の立場を知る人間にはおよそ信じてもらえないだろう。

 王都を出てみれば分かる。いかに自分が小さな存在であるかなど。その自分は一体、何が出来る。

 いずれ何をか見出せるのか。

 わかってくれている人がいるから、だから自分は帰らねばならない。

(あれをサボるわけにゃいかんしな)

 そろそろ、毎年恒例のトーナメントがあるのだ。戻らねば、王国始まって以来の椿事になってしまう。

 帰り支度をするべく、噴水から腰を上げたそのとき。

「ミーカーエール~!!」

 よく通る高音の大声にぎょっとする。

 駆け足の馬車を、無謀にも少女が走って追いかけていく。

 年頃だろうに、なりふり構わず、膝までスカートがめくれ上がっている。

 素性を知る町の人間は別段驚かないのだが、いかんせんマックスはリアを知らなかった。

 そして、旅の途中のきな臭い噂も、気になっていた。

 …もしかしたら、もうちょっと寄り道できるか、とも、ずるい頭が考えたかもしれない。


 見失う前に、町の入り口で立ちすくむ後姿に声をかけた。

「おい、お嬢さん、何があった?」

 赤毛を振り乱し、ばっと振り向いたその緑の瞳のつよさにハッとする。が。

「…おじさんは、一体?」

「…」

 とっさに、反応できなかった。


「お、おじさんって、俺が?!」


 後に、何となく意固地になって年齢を隠し続けた、悩める男、マックスとリアの出会い。

この後は、マックス本編に続きます。

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