プロローグ ジェイ編
「ジャスティン=シルバーランスの独り言」
ジャスティン、ジェイはリアの隣の家の長男で、リアとは同い年の幼馴染だった。
ジェイもまた、7月後半、夏休みの為帰省していた。
毎朝、毎晩の剣の鍛錬は家に帰っても欠かさない。
17歳、まだまだこれからだと思っているが、上級学校で出会う面々の強さに焦ってしまう自分もいる。いつまでたっても追いつかないような気がするのだが、久しぶりに会った嫁いだ姉から「あら、ちょっとは体つきがしっかりしたじゃない。背は、まあこれからよね」と言われて、悪い気はしなかった。
その功績から騎士「シルバーランス」の名を下賜された偉大なる祖父ダニエル。
小さな町の下級貴族ではあるが、自分も祖父のように正義を貫いて武勲を立てたいと思っている。
(そのためには、鍛錬あるのみ、だもんな!)
陽射しがきつい昼、一息つこうと裏の井戸に水をかぶりに行く途中、生垣の向こうの家をふと見上げる。
それはもう、体に染み込んでしまって意識すらしない動作。
『ジェイ!あんたも懲りないわね!』
「…リア?! …そんなわけ、ねえよな」
気のせいだ。アイツは、今頃、王都のなれない「お嬢さま学校」にいるはずなんだから。
長い赤毛をゆらして、強い眼差しの緑の瞳は、ほかの女子と違って真正面から自分をとらえて、そらさない。
対等にやりあう(手も足も出る)リアに「じいさんは女は守ってやるもんだって言うけど、アイツは例外だ!」とずっと思っていたが、いつだかの取っ組み合いで体の線の細さや柔らかさに気付いてしまった。それから、決して勝てない相手になった。
気遣いなしの本音でぶつかる、会えばケンカの腐れ縁だけど。
今年は、いないんだ。来年も、もしかしたら…ずっと。
生垣の向こうは、ずっと静かなままだ。
「…調子でねーんだよな」
ぽつりと口から出てしまってから、気付いて、ジェイは顔を真っ赤にさせた。
「何考えてんだオレ!稽古だ稽古!」
目指すは、来月王都で開催されるトーナメント。
ダニエルのように、親衛隊の騎士を目指すのに、余所見をしている暇はない。
ざばっと水をかぶって慌てて離れた。
隣家をじっと見て、急にあわてたと思ったら赤くなって、そそくさと歩き出すその姿。
「あからさま、なのにねぇ…」
2階の窓から、身重のため帰省している姉がニヤニヤして庭のジェイを見ていたことは、知らぬが幸いだった。
ジェイの本編に続きます。




