前編
エリアナ・フェン・クロロヴィレは絶世の美女である。
だが、凛々しい顔立ちをしているがゆえに、周囲からは少々恐れられている。
そんな彼女には婚約者がいる。名は、ラスク・フルレス・グレアベル。年齢はラスクの方が二つ上だ。幼い頃に親と親が話し合って決めた婚約ではあるが、当人同士も小さい頃からよく遊んでいてそれなりに仲が良い。そのため、当人たちにも婚約の意思がまったくなかったというわけではない。
エリアナとラスク、二人は、美男美女ということでも有名であった。
二人が婚約しているということを聞くと、人は大抵「美男美女ですのぅ」だとか「ぴったり!」だとか言う。誰もが認める二人だった。
けれどもある時ラスクに近寄る女性が現れた。
ふんわりした髪、か弱そうな細い身体、おっとりした雰囲気の顔ーーエリアナとは真逆のような女性だった。
愛らしい雰囲気を四六時中撒き散らしている彼女の名は、マリアベル・ノノレア。
エリアナやラスクの家より下の階級にあたる家の末っ子。
ちなみに、彼女には十五人の姉がいる。その中で一番可愛いのは末っ子のマリアベル、というのは、世の男性たちの中では有名な話である。
マリアベルには、他者の男を奪うという趣味があった。
だが、そのことを知らないラスクは、まんまと乗せられマリアベルの毒牙にかかってしまう。
可憐な妖精のような異性に惚れられていると考えたラスクは、もはや、理性などというものを喪失しかかっていた。誘われるがままに、マリアベルという毒沼へ沈み込んでゆく。
いつしかラスクはマリアベルのことしか考えられなくなった。
朝から晩までずっと彼女に夢中。エリアナと二人でいる時ですらマリアベルの良いところに関する話を続ける始末。エリアナは怒りはしなかったが、内心かなり呆れていた。
そんなある日のこと、マリアベルが嘘を言いふらした。
ラスクと少し話していたのを目撃されてから、エリアナに虐められるようになってしまったーーそれがマリアベルの言い分だった。
もちろんエリアナは何もしていない。ラスクがマリアベル沼にはまってしまっていることは知っているけれど。でも、だからといってマリアベルを責めるようなことはしていないし、当然虐めたりなんかもしていない。
マリアベルの訴えは真っ赤な嘘。
けれども誰もそれを「嘘だ」と気づかない。
マリアベルの知人や友人のみならず、ラスクまでもがその言葉を信じ込んでしまった。そして、エリアナを責めた。なぜそんな心ないことをするのか、と。
溜め息をつくことしかできないエリアナ。
そんな状況がしばらく続き、やがて、ラスクとエリアナの心は離れてしまった。
エリアナは周囲からよく悪口を言われる。整った容姿を持っていることへの妬みも多少は混じっていたのかもしれないが。何にせよ、誰もがマリアベルの言葉を信じていた。




