第34話:エラーログからの逆襲 ~バックアップ部隊の蜂起~
「――おいおい、マジかよ」
俺、海斗は、飛鳥の政庁の屋根から見える土煙に目を疑った。
中大兄プリンスが「アカウント停止(官位剥奪)」を宣告し、例の巨根の翁から土地も権力も全部没収デリートした。一件落着、あとは美味しい米でも食べてログアウト……なんて甘い考えは、一瞬で吹き飛んだ。
「海斗殿、何を呆けている。敵襲だ」
不比等が、いつもの冷静な、でも少し苛立った声で俺の襟首を掴んだ。
「いや、だって不比等。あのじいちゃん、さっき縄で縛られてドナドナされてったじゃん! なんで外でパーティー(軍勢)が組まれてんのさ?」
「……『一族』ですよ」
鎌足さんが影からスッと現れて、苦々しく言った。
「豪族は、トップ一人が消されても終わらない。地方にはまだ、彼らの『ミラーサイト(分家や私兵)』がいくつも残っている。翁の失脚を知った一族が、自分たちの特権を守るために最後のリブート(再起動)を図ったのでしょう」
政庁の外には、翁の息子や親戚たちが率いる数千の私兵が集結していた。彼らにとって、公地公民なんていう新OSの導入は、自分たちの貯金を勝手に国に寄付されるようなもの。そりゃあ、全力でウイルス(反乱)も撒き散らすってわけだ。
「プリンス、どうするんすか? あっち、数だけは無駄に多いっすよ」
中大兄プリンスは、腰の太刀を静かに鳴らした。
「……フン、想定内だ。だが、力任せに排除すれば、また新たなバグ(怨恨)を生む。海斗、貴様の奇策で、奴らの『サーバー(本拠地)』を叩かずに、戦意だけをシャットダウンさせる方法はないか?」
「え、俺!? ……うーん、あいつら、翁が不正してたって知らないで戦ってるんすよね? だったら……」
俺は懐にある、あの「裏帳簿の木簡」を握りしめた。これが、この泥沼の戦いを終わらせる唯一の管理者権限パスワードになるかもしれない。
【今回の学習ポイント:豪族の抵抗と一族支配】
・氏姓制度の根深さ:当時の権力は個人ではなく「氏」に紐付いていた。そのため、一人のリーダーを処罰しても、一族全体が「自分たちの既得権益を守るため」に団結して抵抗することが多かったんだ。
・私兵の存在:当時はまだ「国軍」が存在せず、兵士は豪族が自分の土地の農民を武装させたものだった。大化の改新の大きな目的の一つは、この私兵を解体して「国全体の兵」に変えることだったんだぞ。
・情報の非対称性:末端の私兵たちは、自分たちの主君が不正をしていた事実を知らされていないことが多い。この「主君」と「私兵」達との情報の格差が火種になることも多々あったんだぞ。




