第33話:システム監査(強制捜査) ~プリンス、情け無用のデリート命令~
「不比等、海斗。よくぞ持ち帰った。これが地方の『バグ』の証拠か」
飛鳥の政庁。中大兄プリンスは、俺たちが古墳から命懸けでパクって……いや、回収してきた木簡を眺め、冷徹な笑みを浮かべた。
横に立つ鎌足さんも、いつになく目が笑っていない。
「……ええ。隠し田の総数、逃れられた租の量、すべて記録されています。これ、このまま公表しちゃっていいんすか?」
「当然だ。海斗、貴様が教えた『カケザン』で算出した被害総額も添えてな。……鎌足、例の豪族を呼び出せ。今ここで『アカウント停止(官位剥奪)』を言い渡す」
間もなく、縄を解かれたものの、顔面蒼白の巨根の翁たちが引き立てられてきた。
「皇子! あの古墳は神聖なる場所! そこで見つかったものなど、妖術師・海斗の捏造に決まっております!」
翁が必死に叫ぶ。だが、不比等がその前に一歩踏み出し、冷たく木簡を突きつけた。
「捏造、ですか。では、この木簡の裏に記された貴方の『署名(印)』も偽物だと? ……残念ですが、筆跡は嘘をつきません。貴方は民から奪った富を、国のサーバー(国庫)に返さず、私物化していた。これは明白な『反逆』です」
不比等のロジカルな追い込みに、翁は言葉を失った。
「翁よ。貴様ら旧勢力が、どれだけ古き慣習を叫ぼうと、新時代のOS(律令制)は止まらぬ。……これより、貴様の一族の土地はすべて没収し、直轄地とする。これに異を唱える者は、逆賊として処理せよ」
プリンスの宣告に、部屋の空気が凍りついた。
俺は横で見ていて、背筋が寒くなった。これが「改新」のリアル。なんとかなるっしょ、で済まないガチの権力闘争。俺たちが古墳で遊んでた(?)裏では、こんなに重たい「決断」が動いてたんだ。
「(……歴史の教科書だと一行だけど、実際はこうやって誰かの特権をぶっ潰して進んでいくんだな……)」
俺は少しだけ、不比等の握りしめた拳が震えているのを見た気がした。
【今回の学習ポイント:改新の政治闘争】
・官位の剥奪と再編:当時は「氏」という血筋だけで政治をしていたけど、大化の改新では「仕事ができるかどうか」の能力ベースに移行しようとした。今回のように不正をした豪族をクビ(官位剥奪)にし、空いたポストに実務能力のある人間を置くことで、中央集権化(トップダウン体制)を強めたんだ。
・公地公民の強制執行:「土地はすべて天皇のもの」という理想を、言葉だけでなく今回のような「強制捜査」と「没収」という実力行使で裏付けたのが、この時期の特徴。これによって、豪族たちが勝手に持っていた「軍事力」や「経済力」の根源を断ち切ったんだぞ。
・文書行政の確立:それまでの口約束や慣習ではなく、木簡(証拠書類)に基づいて罪を裁くスタイルが定着し始めた。不比等がやったように、「書類の矛盾を突いて相手を黙らせる」という現代的な事務処理能力が、武力以上に強力な政治的武器になった歴史的転換点なんだね。




