第32話:霊界(ゴースト)ダイブ ~先祖、ノイズを撒き散らす~
「……不比等くん、ごめん。この状況、もう俺の『なんとかなる』をブーストさせるしかないわ」
石室の入り口は、松明を手にした豪族の私兵たちに完全に塞がれている。このままでは、隠し田の証拠ごと俺たちが「事故死」扱いされかねない。
「海斗殿、まさか……正気ですか!?」
不比等の制止を無視し、俺は懐中電灯を顔の真下から照らし上げ、さらにポケットから取り出した「ガムの銀紙」を顔に貼り付けた。白い光で顔色を悪く見せ、銀紙で不気味にギラつかせれば……。
「……うおおおおおっ! 我は先祖の霊なり! この地に隠された裏データ(不義の富)に、怒りのノイズが走っておるぞおおお!」
俺は石室の奥から、わざと声を震わせ、エコーをかけるように叫んだ。懐中電灯の光をチカチカさせ、さらに首を左右にガクガク動かす。
「ひ、ひぃぃぃ! 御先祖様のお怒りじゃああっ!」
「う、動くな! 動けば祟り殺されるぞ!」
外の私兵たちが、恐怖に震え上がった。暗闇で鍛えられたはずの彼らの視界は、俺のハッタリと懐中電灯の光で完全に混乱している。
「いいか! この裏データ(木簡)を都に届けぬ限り、この地の安寧は永久に保証されぬ! 貴様ら、我に道を開けい!」
俺は懐中電灯を振りかざしながら、ヨロヨロと石室の入り口へ向かう。豪族の私兵たちは、恐怖で腰が抜けているのか、一歩も動けない。
「(……くくく。単純な人間には『視覚的エフェクト』と『意味不明な呪文』が一番効くんだよな!)」
俺はニヤリと笑い、私兵たちの間をすり抜けようとした。その時。
「……お待ちくだされ、御先祖様!」
不比等が、なんと俺の腕を掴んだのだ。しかも、奴も顔の真下から懐中電灯を照らし上げ、真顔で続く。
「我は貴方の遠き子孫、不比等と申します。どうか、その『裏データ』、私めに託してはいただけませぬか? 必ずや都に届け、貴方の無念を晴らしてみせますゆえ!」
「……はぁ!? お、お前まで何やってんだよ!」
不比等は俺から木簡をひったくると、石室の奥に向かって深々と頭を下げた。
「(……まさか、不比等くんまでこのカオスな『演劇』にノってくるとは……! でも、これで信憑性、爆上がりじゃん!)」
「ひいぃぃぃ! 不比等様まで憑依されておられる!」
「これは本物じゃ! 早う道を開けい!」
私兵たちは完全にパニック状態に陥り、道を開けた。
こうして俺たちは、豪族の「私兵」を、まさかの「先祖の霊」で突破したのだった。
【今回の学習ポイント:古代の信仰と権威】
祖先崇拝と古墳の神聖視:当時の人々にとって、古墳は単なる墓ではなく、一族の守護神である「祖霊」が鎮座する場所。海斗が「先祖の霊」を装って成功したのは、当時の人々が「先祖を怒らせると一族が滅びる」という恐怖をガチで信じていたという宗教観がベースにあるんだぞ。
薄葬令の背景:大化の改新では「身分に応じて墓のサイズを制限する」というルールが決まった。これは今回登場した豪族のように、古墳を「自分たちの権力や隠し事の拠点」にさせないため、そして無駄な労働力を国(耕作)に向けさせるための、高度な政治的戦略だったんだ。
木簡の証拠能力:紙が普及していないこの時代、木簡は「書き換えが難しい公式記録」だった。今回見つけた隠し田の木簡は、現代でいえば「隠し口座の通帳」が見つかったようなもの。これが都に届くことは、地方豪族にとって政治的生命の終了(強制終了)を意味するほど重大なことだったんだね。




