第31話:隠しフォルダの秘密 ~古墳の中の機密データ~
「……あれ? 不比等くん、このエリア、地図(木簡)のデータと計算合わなくね?」
班田の区画を測っていた俺は、不自然に盛り上がった小山の前で立ち止まった。周囲は綺麗に開墾されているのに、ここだけ鬱蒼とした木々に覆われ、結界のような縄が張られている。
「ここは『触れずの森』。この地の豪族が代々守ってきた古い古墳だそうです。……ですが、海斗殿の指摘通り、この山の面積を引いても周囲の田の数が合いません」
不比等が鋭い目で山を睨む。計算の鬼である彼が違和感を覚えるということは、ここに何か「隠蔽された数字」がある証拠だ。
「これ、現代でいう『隠しフォルダ』か『二重帳簿』の隠し場所じゃね? ちょっと中、覗いてみようぜ。なんとかなるっしょ!」
「待ちなさい! 呪い(ウイルス)に感染しても知りませんよ!」
不比等の制止を無視して、俺は懐中電灯を片手に、崩れかけた石室の隙間から中へ潜り込んだ。カビ臭い空気の中、光が照らし出したのは、きらびやかな副葬品……ではなく、大量の「木簡」の山だった。
「……うわ、何これ。全部、周辺の村の名前と、獲れた米の量が細かく書いてある。不比等くん、これって……」
後から入ってきた不比等が、その木簡を一枚手に取り、顔色を変えた。
「……驚きました。これは国に報告されていない『隠し田』の記録です。この地の豪族は、古墳を隠れ蓑にして、税(租)を逃れるための裏データを保存していたのです」
「やっぱりな! じいちゃんたち、古墳を『物理的なセキュリティ(神域)』として使ってたわけだ。……あ、不比等くん、これ見て。一番奥に、もっとヤバそうな箱がある」
俺がその箱を開けようとした瞬間、石室の外から「ガサリ」と不穏な音が響いた。
「何奴だ! 聖なる御陵を汚す不届き者は!」
松明を持った豪族の私兵たちが、入り口を完全に塞いでいた。……やべ、不法侵入が見つかった。
「(……不比等くん、どうする? ここで捕まったら、俺たち『古墳泥棒』として処理されちゃうよ!)」
「……海斗殿。貴様のその『魔法の光(懐中電灯)』で、またハッタリを。……あとの『論理的制裁』は、私が引き受けます」
絶体絶命の石室(サーバー室)の中で、俺たちは「隠された真実」を手に、脱出の機会を伺った。
【今回の学習ポイント:古墳と地方豪族の権威】
・古墳: 本来はお墓だけど、地方豪族にとっては「自分たちの祖先がいかに偉いか」を誇示するパワーの象徴だった。大化の改新では「薄葬令」が出され、無駄にデカい古墳を作るのが禁止されたんだぞ。
・隠し田: 班田収授法から逃れるために、台帳に載せない田んぼを作ること。今回のように「神域」や「古墳」を言い訳にして、役人の調査を拒むのは、当時の抵抗勢力の常套手段だったんだ。
・薄葬令の狙い: お墓作りという「無駄な公共事業」に民を動員させるのをやめさせ、その労働力を「国のための耕作」に向けさせることが、中大兄皇子たちの真の狙いだったんだね。




