1章 老夫婦とみいちゃん
東京の郊外の閑静な住宅街、どの家も大きな庭があって、庭には手入れの行き届いた花や低木などが植えられている。
根元夫妻の家は、駅から徒歩5分というのに、家の横を通る車は1日数えても10台ほどの本当に静かな住宅地だ。
根本夫妻もその住宅地の中の角の小さな一軒家で二人暮らしをしている。
この辺の住人はほとんど60歳を過ぎた夫婦で、根本夫妻も他の住人と同じように60歳を過ぎている。
この住宅地、普段でも午後6時を過ぎたら通りを通る人はまばらになるが、今日は朝からひどい雨が降っていて、車ですら通る人は稀だ。
根本愛子は、夜9時を過ぎて先ほどまでひどい雨音を立てていたのが少し静まったなと思った。
だが、そんなときに子供、それも幼児の声が聞こえる気がした。
夫の達はちょうど自分で選んで見ていたテレビ番組が終わったタイミングで眠りから覚めたようであった。
達が起きたのを確認すると
「ねえあなた、さっきから玄関の方から変な声が聞こえてくる気がするんだけど…。」
達は玄関のほうに注意を向けたようだが、すぐにテレビのリモコンを操作しながら
「気のせいだろう。」
と元の体制に戻ろうとした時、玄関のドアの方でガタンという音がした。
愛子と達は同時に立ち上がった。
そのまま二人はお互いの顔を見ることなく玄関の方へ向かって歩いた。
達は用心して玄関引き戸の鍵を外しドア開けた。
するとそこに汚れた猫が1匹座ろうとしているところだった。
どうやら先の大きな音は、猫がよろけて、築30年ほどの根本家の玄関の戸にぶつかった音だったらしい。




