第四十話
どうすれば、千尋ちゃんと二人きりで話せるだろうか。
その手段が思いつかないのだ。
まさか秀頼公に「奥方様と二人きりで会わせて下さい」と願い出る訳にもいかないだろう。
僕がやっている事に対して口を挟んでいないという事は、彼女の想定した歴史の流れなのだろう。
ここから先の戦においては即断即決、その場での判断が全てを決める事になる。
その中で千尋ちゃんは答えを知っていて、その通りになるように僕を見張っている訳だ。
この戦いで、もし僕が勝つのならどうやって勝つのか教えて欲しい。勝つ道筋を教えてもらい、その通りに実行する事が、お互いの利益になるのではないか。
だがこれは試験の前に先生に回答を教えて欲しいと頼む様な行為だ。千尋ちゃんはきっと軽蔑するだろうなぁ。
だけど、これは豊臣方の犠牲を減らす為にも必要な事だと、僕は思うのだ。
どうすべきか悶々としている僕に一通の文が届いた。
千姫様からだった。
二人きりで会いたい、という内容で、待ち合わせの場所と時刻が記してあった。
指定の場所・時刻に赴いた僕は、彼女が来るのを今か今かと待っていた。
暗闇の中、人の気配を感じた。だが、敵対する者の気配ではなかった。多分、千尋ちゃんだ。
「本当に来てくれたのね」
「千尋ちゃんからの御指定だからね、行かない、という選択肢は僕には無いよ」
「ふふふ。人妻に言う科白じゃないわね。旦那様に言ったら、あなた殺されるわよ」
「その時はそういう運命だと思って諦めるさ。・・・尤も君が僕を殺す為にわざわざ転生して来たとは思わないけどね」
「・・・そうね。私とあなた、必ずしも利害が対立しているわけではない筈よ」
「そうだね。僕は生き残る為に、豊臣を勝たせる為に歴史を変えようとしている。いや、違うな。僕は既に歴史を変えてしまったんだ。だから、僕には戻る世界が無いんだ」
「・・・違うのよ。あなたの知っている歴史と私の知っている歴史、この書き換えがいつ起きたのかわかる?わからないでしょ。恩人であるあなただから教えるけど、歴史の書き換えはあなたがタイムリープした瞬間に起きたのよ。その時点での、あなたの肉体は損傷は激しいものの、まだ生きていた」
「でも、僕の肉体はとてもじゃないが、回復出来るとは思えないな」
「当時の医療技術では、あなたを助ける事は無理だった。でもね、医療技術は日々発展するものよ。あなたの身体をコールド・スリープしておけば、必ず助けられる時代が来るのよ」
「じゃあ、僕は・・・」
「ええ。あなたが望むのなら、元の世界に戻れるわ。意識が戻るのは、ちょっと未来になるかもしれないけどね」
「でも、誰も知った人間のいない世界を生きるのは・・・」
「私がいるわ。ちょっとお姉さんになっているかもしれないけれど、今度は私があなたを守るから!」
「千尋ちゃん・・・」
「私はあなたと一緒に未来を歩みたいのよ・・・」
「ごめん、僕にはこの世界でまだやるべき事があるんだ。自分が生き残る為に、人殺しもしたし、多くの人の運命を変えてきた。その責任は取らなきゃいけない。まずはこの戦いに勝利して、豊臣が生き残れる状態を作る。自分の事は、それから先だよ」
「あなたはそう言うだろうと思っていた。・・・真田大助、必ず勝ちなさい。勝利の先にしか私達の未来は無いわ」
部屋に戻ると、佐助さん夫妻が控えていた。
「あれ、佐助さん、何かありましたか?この期に及んで、新たな仕事を依頼しようとは思っていませんから、安心して休んでもらってもいいですよ」
「いえ、私も特に用事は無いのですが、何となく大助様の顔を見たくなりまして・・・」
「ありふれた普通の顔ですよ」
「御冗談を・・・大助様、いよいよですね」
「ああ、いよいよだ」
「徳川の策略で内堀まで埋められた時、我々は絶望していたのです。その時、大助様が覚醒されて、我々に指示を出し、一同走り回って、ようやく徳川と対峙出来るところまで辿り着きました。・・・ありがとうございます。大助様がいなければ、徳川に何の抵抗も出来ず死ぬところでした」
「私は大した事はしていませんよ。私は何が何でも生きたい、死にたくないと考えて走り回っていた只の臆病者ですよ。でも、まだ終わってはいません。今度の戦いも勝って、皆さんと共に生きていたい、それだけです」
「そうでしたな。・・・まだ、次の戦いがありましたな。五分に近い条件で戦えることで、つい安心してしまいました」
「気をつけて下さい。我等の緩みは、すぐに部下の兵士に伝わりますから」
「はい・・・ところで、勝算はあるのですか?」
「軍師の立場から、勝算は無い、とは言えませんね。勿論、勝つ為に諸々の策を施し、罠を仕掛けている訳ですから」
「期待しております。・・・必ず勝ちましょう」
僕と佐助さんが話している時、黒猫さんはくんくんと辺りの匂いを嗅いでいる。彼女は一体何をしているんだろう?思わず声を掛けてしまった。
「黒猫さん、どうかしましたか?」
「大助さまから女の匂いがする。誰、誰なの?私という女がいながら、浮気するなんて!」
「待ってくれ。誤解だ。・・・黒猫さん、第一あなたは人妻じゃないか」
黒猫さんが嗅いだのは、千尋ちゃんの残り香。ある意味浮気なのかもしれない。千尋ちゃん、いや千姫様は秀頼公の奥方なのだから。
このように僕は大坂城での慌ただしい日常を送っていた。
そして、大坂夏の陣が幕を開ける。
<作者より>
ここまで拙作『真田大助、転生する』を愛読いただきありがとうございます。
この後、いよいよ大坂夏の陣に突入します。
ここで物語は分岐します。
大坂夏の陣で、大助達が野戦を選択する展開を希望する方は、引き続き『第四十一話』へ進み下さい。
大坂夏の陣で、籠城戦に持ち込む展開を希望する方は、『真田大助、転生するVer.2.00 第四十一話』へ進んで下さい。
今後共、『真田大助、転生する』を宜しくお願い致します。




