第四話
大坂城外の馬場で真田家の、ひいては豊臣家の命運を賭けた密談は続く。
「周りに不審者はいないか?」
「ここは大坂城の中枢です。そんな者は・・・」
「いないと思うのか?ここは大坂城、徳川の忍びも入りこんでいるし、味方と思っている連中もいつ裏切るのかわかったものでない。真田衆においても、三代前から仕えている者以外信用するな」
僕の言葉を聞いて二人の男が姿を消した。どうやら忍者らしい。たちまち、あちこちから断末魔の声がする。
「あなたの言う通りでした。乱破が潜んでいました」
どちらの勢力もいただろうな、多分。断末魔の声を聞かせたのは失敗かも。忍びを呼び寄せるだけかもしれない。だけど彼等に警戒感は醸成出来ただろう。
「まず皆さんは、関ヶ原と、先の大坂冬の陣での敗戦についてどう思ってます?」
一人が激昂した。
「敗戦?敗戦だと?我等は敗けてはおらぬ。関ヶ原では、上田城で徳川秀忠と戦い、三万人を遅参させるという成果をあげた。先の冬の陣でも、殿考案の真田丸で敵を寄せ付けず、こちらでも成果をあげている」
「小さい戦いで勝っても意味が無いんだよ。戦全体で見なくちゃ。上田で勝っても、九度山に幽閉されたら意味がないし、真田丸で勝っても、和議を結んだら潰されたし、外堀だけでなく内堀まで埋められたじゃないか」
「多分、大御所は一つ一つの勝ちなんて目指してないと思うんだ。全体として勝てばいい。戦の目的、何を目指して戦うのか、どこまでの戦果を出せば勝利なのか、はっきり決めているんだろうね」
「翻ってみて、我等が加わった側はどうだった?作戦の指揮系統が一本化されず、各部隊が好き勝手に戦っているだけじゃないか。これでは勝てる筈がない」
「この一連の戦いは誰の為の戦いなのか。誰を旗印にして戦うべきだと思う?」
「・・・豊臣秀頼さま」
「そう、その通りだよ。だけど実際は、関ヶ原の戦いでは石田三成が主導したし、今も大坂城で軍議にも参加しないじゃないか」
「だから、秀頼さまを表に出さない、出させようとしない勢力を排除したい、と思っている」
僕の言葉に皆同様している。そんなに怖いのか、秀頼の母親が。
「何を驚いているの?これは戦国の世ではありふれた事なんだ。太閤さまは母親を徳川に人質として差し出しているし、大御所も我が子を手にかけている」
「それがあなたの考える豊臣が勝てる策ですか?」
「残念ながら、これだけで勝てるとは思っていないよ。これにより状況が動き出す、きっかけに過ぎないよ。秀頼さまを一人立ちさせるきっかけを作る、次は軍の組織の立て直しだ」
「と言うと?」
「我が父である真田信繁は、皆さんも知っての通り優秀な武将だと思う。でも我等以外の浪人衆から見たら、ただの小大名の部屋住み、次男だ。命を預ける将として認められないだろう。浪人衆には土佐藩の元藩主までいるんだ、もっと石高の高い、戦国の匂いのする漢でないと、誰も従わないだろ?」
「そんな漢が今さら豊臣方につきますかね?」
「それは道理を解いて、説得するよりないだろうな」
「出来ますかね?」
「出来るさ」
僕は敢えて軽口っぽく言った。確かに彼等の言う通り、優秀な武将のスカウトなぞとてつもない困難があるだろう。だけど、彼なら来てくれる予感があった。ぼろぼろの豊臣家に、ぼろぼろだからこそ。
「それから敵勢力の弱体化を図りたい、と思っている。徳川方と言っても各大名の連合軍で、三河以来の徳川軍は約半分、残りの大名に豊臣恩顧の大名も少なくないんだ。戦局が少しでもこっちに傾けば、裏切る大名も出てくるだろう。だから調略によって、大名同士を疑心暗鬼にさせて、迂闊に戦えないようにするんだ。そうすれば、徳川と浪人衆を比べたら、数の上ふでは上回れるんだ」
「でもそこまでしても勝利には足らない、と思っている。考えてもみてくれ。相手は練兵された部隊に対して、こちらは素性も実力もバラバラな浪人衆。数が倍あっても勝てる気がしない」
「だから敵の装備の弱体化を図る。特に徳川軍の持っている大砲、あれが厄介だと思う。あれは大御所の陣地から天守を狙えるだろうから。もし敵の大砲を無効化出来たら、裸城である大坂城でもそれなりに持つだろう。ここまでして、やっと五分五分の戦いに持ち込めると思っている」
「なるほどね。確かにあなたの言う通り、一人の力では無理だ」
「じゃあ協力してくれるかい?」
「仕方ないでしょう。我等としても殿には、そして大助さんにも生き残って欲しいですからね」
「・・・その何と言っていいか、ありがとう」
「我等に仇なす者の謀殺に、大大名を味方に勧誘して、敵側の動揺を誘う調略活動に、敵の兵器の調査・・・これを同時に行うのは、正直厳しいですね」
「何を言っているの。皆さんがやる事をやらずにいたから、ここまで状況が悪くなったんじゃないか。自分達が生きる為にも、がむしゃらに働かなくちゃ」
「ハハハ・・・この不利な状況に陥ったのも、我等が怠けていたからとは、厳しい人だ。今の大助さんは」
「その言葉は甘んじて受け入れるよ。今までやっていた仕事に加えて、これらの活動を裏の仕事としてやる事になるからね。ちょっと見たら、裏切りと思われる内容も多い。くれぐれも用心してほしい」
全員が頷いた。
「そうだ。裏の仕事を行う際には、別の名前で呼び合う事にしよう。そうすれば、会話を聞いただけでは、誰の事なのかはわからなく出来る」
「どんな名前にするんです?」
「名前については僕に任せてほしい。400年先の世の中では、真田家の十人の漢達は子供でも知っている英雄なんだ。だから、その名前をあてはめる事にする」
僕は彼等一人一人からプロフィールを聞いて、名前のあてはめを行った。幸いにもその場にいたのは十名丁度であった。こうして真田十勇士が誕生した。
そして明日から僕の家庭教師として三好清海入道と三好伊佐入道が交代制で担当する事となった。僧形の方が誰かに見られたとしても怪しまれないだろう、という配慮であった。
大坂の戦いはここから豊臣方の巻き返しが始まる。




