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第三十六話

本多正純は二通の密書を前に腕組みしている。

いずれも、豊臣家から伊達・上杉への調略の密書である。

さて、どうしたものか。二通の入手履歴はほぼ同じであった。

怪しい忍びが移動している、との連絡が入り、すぐさま撃退する様指示を出した。その結果、忍びを取り逃がし、密書を入手した。

怪しい。明らかに、密書をこちら側に見せる、敵方の企みのものである。主導しているのは真田大助で間違いないだろう。内容は、恐らく伊達・上杉への疑念を持たせ、夏に行う合戦に派兵させない様に誘導するものであろう。派兵しなかったら、加増とでも書いているのだろうか。

どちらにしろ、俺が奴の企みを見抜く必要があるな。

正純は密書を読み始めると、みるみる内に表情が曇る。ら

成程ね。こういう手に出るのか。

密書に書かれていたのは、大坂での合戦時に手薄となる江戸の攻略法であった。侵攻にあったての軍勢、兵站、侵攻路の計画、水戸藩への対応法等詳細に書かれており、この計画通りに実行すれば江戸攻略は十分可能な様に思われた。

だが、真田大助はこの計画を俺に見せた。という事は、奴はこの計画以上の成果を目論んでいる、という事になる。さもなければ、この計画など実現性もない屑だと判断している事になる。考えられるのは、伊達・上杉の調略が完了していない、と思わせたいという事だ。彼等戦国大名が、この様な机上の計画にほいほい乗るとは思えない。旗幟鮮明にしないのが常道だろう。だが、彼等の野心に火を点ける事は可能だろう。考えてみれば、真田大助の仕掛けにはある種の特徴がある。一つは確実な事を実行し、不確実な事については極力避け、それでも避けられない場合は不測の事態への万全とも思われる配慮をする。もう一つは、仕掛けによる犠牲を敵味方問わず徹底的に避けることだ。これらを考慮すると、江戸攻略はほぼ無いと判断していいだろう。

しかし、これを見させられた幕府としては、対応をせざるをえない。まずは裏切り防止として、各大名の妻子を人質に取る。それから、疑わしい大名については参戦を強制する。それから合戦での配置だな。最前線に置くべきか、それとも裏切りを予見して遠くに配置するべきか。

・・・とここまでは豊臣方も考えているところであろう。知恵比べとして、どう真田大助を上回れるのか。

真田大助の基本戦略としては、敵の勢力を可能な限り削ぐ事だ。そして動員数程の実力を出せない状態に持ち込みたい筈だ。即ち裏切りが予想される藩を戦場から遠ざけることを望んでいる。外様の雄藩の戦力を無力化出来れば、兵力差は一対三から一対二まで縮まるであろう。そして、彼等が裏切った場合は二対二の互角になる。こうなれば、更なる裏切りが出るのでは、と疑心暗鬼に陥る徳川方が不利になるだろう。では、確実に裏切らせる策と言うものが真田にあるのか?徳川に勝利した上で加増?現状徳川が圧倒的に有利な情勢で、敢えてそんな逆張りする大名がいるものなのか?豊臣に内通している事がわかれば、その藩は取り潰される、と思う筈だ。つまり、内通していないにも関わらず、徳川を裏切らなければならない状態になるという事だ。豊臣も人質を取ろうというのか?そんな事出来る訳もない。・・・いや、ちょっと待てよ。何も豊臣が新たに人質を取る必要はない。徳川が集めた人質を、豊臣方が奪ったとしたら?各大名の中で半分程度が裏切ったら、徳川は負けるのは必定だろう。では、幕府としてどの様な対応がとれるか。これは人質を豊臣から守るより他無かろう。この為に幕府として何千かの兵を江戸に置いておく事になる。紙切れ2枚で、幕府の軍勢を数千削るのか。

しかし、このままおめおめと真田大助の策略に乗ってやる必要はない。

「おい」

本多正純は忍びを呼んだ。たちまち目の前に二人の忍びが現れた。

「これを届けてやれ」

「・・・どちらへ」

「元の宛先の伊達と上杉に届けてやれ。豊臣方の密書としてな。くれぐれも幕府の手の者と気取られるな」

「御意」

たちまち二人と密書が視界から消えた。明日の夜には藩主の元に届くだろう。

さて、これで伊達と上杉はどう出るだろうか。恐らくは豊臣の発したものを、幕府が確認した上で届けられている事は簡単に見破る筈だ。その上で彼等は開封していない体で、幕府に提出するだろう。こんなものを後生大事に保持していたら、お取り潰しの理由にされてしまう。処分したとしても、同様だ。しかし、一度読んでしまえば、藩主を含む主力は大坂に派兵しながら、残存兵力で江戸を狙う事が可能か、検討するだろう。一藩だけでは成し遂げられないとわかると、彼等は連携を図ろうとするだろう。伊達、上杉、そして豊臣の間で表に出せない書面のやり取りが活発になる。それらの中の決定的なもの、それは恐らく豊臣から発せられるものだろう、を確保すればいい。

申し開きの出来ない証拠を掴まれると、あいつ等はお取り潰しを免れる為にも必死で豊臣と戦うだろう。なら、伊達と上杉は最前線に配置するか。

それに、伊達と上杉は誰から見ても反徳川であり、それを隠そうともしていない。つまり、情勢次第でいつ裏切るかわからない存在であり、真田大助も調略している事を晒して来た訳だ。しかし、これは他の藩への調略を隠す為に、わざと晒して来たのではないか。調略したい本命の藩が別にあるということになる。それはどこか?豊臣方は宇喜多秀家を軍師待遇で迎えた事もあり、関ヶ原で煮え湯を飲まされた藩を中心に調略するであろう。西軍で何も貢献できなかった毛利に島津、東軍で貢献しながらも親父に叱責された黒田、それから豊臣恩顧の大名で最大石高の前田、それに真田信繁の兄である真田信之、といったところだろうか。これらの藩に対する警戒を深めると共もに、既に調略を終えている可能性も考慮せねばならぬ。真田が密書を晒したという事は、既に調略を終えているという事なのだろう。島津に関しては、大坂の合戦においては無視してもいいだろう。鹿児島はあまりにも遠く、合戦に影響を与えられないだろう。真田信之については江戸の防衛に就いてもらおう。人質の防衛に手が足りなかったところだからな。前田については今更天下を狙おうという野心は無いだろうが、情で豊臣に協力するとなると少々厄介だな。幕府方の近くにおいて要監視というところか。毛利と黒田に関しては少々厄介だな。こいつらは旗幟鮮明にする事無く、合戦の妨害が出来る。下手したら大坂まで九州の大名は辿り着かないかもしれない。そうなれば、合戦の前提である圧倒的優位が崩れる事になる。

「おい」

「毛利と黒田の内情を探れ。至急だ!」

やってくれたな、真田大助。

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