第三十五話
それにしても残土である。残土をどこに捨てればいいのやら。前世の知識はこの件では役に立たない。21世紀の大阪なら、大阪湾に新たな埋立地を作るかもしれない。そんな技術はこの時代に無い。なにか大きな土木工事をする必要があるのではないか。出来れば市井の人間だけで出来る工事で、豊臣家としては費用面だけで助ける形式であって欲しい。やはり淀川の堤防工事くらいかな。暴れ川である淀川の南岸の堤防工事を実施し、大坂側への氾濫を防ぐ。堤防の土に関しては、川底の土砂を浚渫して利用する、という事で工事申請し、その中に残土をちょっとずつ混ぜていく。もしくは、残土を最初から淀川に捨ててしまうかな。これを幕府に届けたとして、許可されるのか?豊臣家のお金が無くなる案件だから許可される様な気もする。この届出関連は十勇士の皆さんのお願いするか。
第二段階として必要になるのは籠城時の物資搬入路であり、新たに非戦闘員となった者を城外で治療させる為の通路である。物資の搬入路としては、小さくてもいいが船舶で一度に運びたいので、淀川から水路で結びたい。熊本からその件に詳しい人材を引っ張って来れればいいのだが・・・。
重病人の搬出路に関しては、戸板に載せた重病人を四人の男で運び出す事を想定した坑道が必要になる。これも近い方がいいだろう。天満宮に例えば無料の病院の様な物を建てて、そこを出入り口にすればいい。
最終段階は落城寸前の際の秀頼公と千姫様の脱出路である。
「千姫様は非戦闘員として事前に城外に出すべきではないでしょうか」と白兎さんに尋ねられた。
「情けない話ですが、千姫様がおられると、徳川方は手加減するんだ。千姫様を傷一つ無く奪還したいんだろうね。だから、ぎりぎりまで天守にいてもらう。・・・それに、最後の手段として、降伏する際の使者として徳川へ行ってもらうつもりなんだ。恐らく帰って来ないだろうけど」
「ふうん。あの女にも利用価値があるのね。・・・でも秀頼様の脱出路なら、水路で淀川に繋がる経路を今から造るんじゃないの?それを使えばいいじゃない」
「その経路を徳川も察知する可能性がある。だから最低でも後2方向の経路を作っておこう、と思ってうるんだ。そのまままっすぐ西へ向かうのと、なんとか堺まで辿り着く経路を確立するよ」
「ここからは我々が関与するべき話ではないと思いますが、聞かせて下さい」と黒鷹さんが言った。
「僕に話せる内容であれば話しますよ。それで何を聞きたいのですか?」
「三つの経路を作るのはわかります。それで確実に秀頼公を逃がせられるのですか?」
「確実ではありません。どこまで策を弄しても、確率を高めるだけです。・・・だから、考えられる手は考え尽くします。実際に秀頼公を逃す際には、影武者を用意して三方向同時に脱出する事になります。秀頼公には、千姫様と浮田英以江さんが同行します。幸いにも僕は秀頼公と背格好も似ておりますので、秀頼公の影武者役は務まると思っております。後、才蔵さんと佐助さんには英以江さんの影武者役をお願いする事になります。影武者は後三人、男性一人、女性二人が必要です」
「・・・それが、我等が呼ばれた真の理由なのですか?」
「勘違いして欲しくないんですが、影武者だから死ぬとは限らない。・・・よく考えて欲しい。事前に準備していた場所で敵を迎え撃つ事になるんだ。負ける筈が無いじゃないか」
「それが理由なのですか?」
「そうです。佐助さん、才蔵さん、黒鷹さんや白兎さん、黒猫さんには、単に秀頼公の脱出だけでなく、自分達が勝つ為の策を施して欲しいのです」
「・・・わかりました」
後藤又兵衛さんは二人の男を連れて戻って来た。
肥後で見つけた人材、吉松と下松である。
僕は面接後、吉松さんを毛利勝永さんの許に送り、下松さんを僕預かりとした。又兵衛さんの話だと、二人共酒好きの借金持ちらしい。見ず知らずの土地で二人がつるむと、碌な事にならないと思ったので別々の部署への配属とした。今後、吉松さんには大坂城の強化、主に耐火能力の強化を担当していただく。下松さんには僕の所で淀川からの搬入路の設計・開発・施工を担当してもらう。合戦に勝利した暁には、成功報酬として正式採用となる、ということで合意にこぎつけた。
銃の整備と弾丸の確保に関しては、堺衆の協力が不可欠である。しかしながら、千利休さんを自害させたことでしっくり来ていなかった事は事実だ。
関係改善の為に手を打つ必要がある。そこで僕は堺に京と同じ噂を流していた。
『淀の方を毒殺した徳川は、責任を皇室に押し付けようとしている』と言うものである。
少しでも反徳川の気運が高まればいい、という期待からだ。その先にあるのは『敵の敵は味方』という考えである。敢えて豊臣の宣伝をしなくても、『親豊臣』の雰囲気を醸成したい、と僕は考えていた。
ここで、旧式の銃の整備と弾丸の確保を依頼する。堺衆はどう思うだろうか?『お金があっても銃一つ整備出来ない豊臣家』と判断されれば、判官びいきで『豊臣家を支援してやろう』と考える人間も出るだろう。
そして一つの結論に至る筈だ。徳川家と豊臣家が反目している方が、我々に利益が出る、と。
そうなれば、銃の整備と弾丸の確保は容易になる。
後は搬出と搬入の問題である。
今、大坂城内の糞尿については岸和田の農家に回収してもらっている。樽の底に整備前の銃を入れて運ぶか。それで樽の数を増やさずに、内容量を増やすにはどうすればいいか。直径とか高さを一寸とか二寸大きくして、底板を二重構造にしておけば、気付かれずに運べるか?それに荷車も改造を施しておけば、中間点での休憩時に出し入れできないものか。
いずれにしろ、準備を早く始めないと間に合わないな。僕は十勇士・三好青海入道さんに頼むことにした。岸和田の農家との伝手もあるので、何とかなるだろう。
そろそろ他の人の進捗も確認する必要があるな。遅れているところには、増援しないと・・・




