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第三十四話

「脱出路については、僕が担当する事に致します。理由と致しましては、大坂城から掘り進める場合は、やはり残土の処理問題が出ますので、落とし穴の作成を担当する父上と連携が取りやすいからです。何といっても親子ですから。それに主として内部での調整作業が主となりますから、僕の様な若輩者でも怪しまれずに出来ると思ったからです」

幸いな事に特に異論は出なかった。自分が楽をしていると思われない様に何かしなくてはね。

「それから、合戦を前にこれをしなくてはならない、という様な提案がありましたら、御提案いただけないでしょうか」

「敵の進軍を遅くする為に、交通の要衝となる橋を壊すというのはどうでしょうか?」

「悪くはない、と思います。・・・但し、合戦後に問題があります。豊臣勢が壊したという評判が立つと、治政の面で民の反発があるかと思います」

「ははは。・・・やはりお主は勝つつもりなんじゃな?」

「勿論です。負けるとわかっている戦はしませんよ」

英以江さんの問いに僕は簡潔に答えた。

「・・・他に意見等はございませんか?・・・なければ、本日の軍議は終わりにします」

六人がぞろぞろと退席してゆく。部屋に残っているのは四人のみとなった。

「お主もよく口から出まかせが言えるものだな」と英以江さんが呆れた口調で言った。

「おや、何の事でしょうか?」

「脱出路の件だ。信繁殿との連携が必要だから、なんていう理由はありえぬだろう」

「やはり、わかりますか」

「それはわかるさ。何人か気付いた者もいたと思うぞ」

「そうですか。ええ、勿論真実ではありません。脱出路ですから非戦闘員の避難はともかく、落城の危機等で城主達が逃げる為の通路ですから、経路に関しては秘匿しておきたいです。限られた人だけが知るものにしておかないと、土壇場で誰が裏切るかわかりませんからね」


部屋に戻ると、僕は佐助さんに来てもらうことにした。

別段、才蔵さんでも問題ないのだが、そこは慣れというもので、なにかと頼みやすいという事だ。

「大助さま、何か御用でしょうか」

「今日の軍議で僕が大坂城からの脱出経路の整備を担当する事になったんだ。勿論、僕一人で出来る事じゃないので、三、四人程忍びを貸して欲しいんだ」

「・・・わかりました。それでどの様な忍びが必要なのでしょうか?」

「女中・小姓の脱出用の経路を作りますので小柄な方を2名、秀頼公の脱出用経路の為に大柄な方で、別の仕事もありますので諸々苦にしない人物をお願いします」

「わかりました。ふさわしい人物を選定し、こちらに伺わせましょう」と佐助さんは了承した。

「宜しくお願いします」


しばらくすると、三人の男女が僕の部屋に入って来た。男性一人、女性二人で女性の一人は見覚えがあった。

「黒猫さん、二人を紹介していただけませんか?」

「はい。こちらが黒鷹、こちらが白兎です」

「黒鷹さん、白兎さん、はじめまして、真田大助です。不慣れな点もありますが、宜しくお願い致します」

「・・・白兎は大助さまと仕事するの、初めてじゃないよ」

「ごめんなさい。覚えが無いのですが・・・」

「大助さま、京で、将軍と・・・」

僕は改めて白兎さんの顔を見た。特に特徴のない平凡な顔に見える。しかし、それが忍びとしての適性なのかもしれない。

「おい、どういう事だ」

刺々しい口調で、白兎さんは黒猫さんに文句を言ったが、黒猫さんは軽くいなす。

「大助さまは、あなたの房中術に興味があるみたいなのよ」

白兎さんは値踏みする様な目で、僕の全身を眺めていた。ひとしきり確認が終わると、立ち上がり、僕の耳元で囁いた。

「坊ちゃん、房中術を知りたいのなら、今夜私が教えてあげるよ。今夜まで待てないのなら、今ここでもいいわよ」

「ダメ。大助さまの初めては私がいただくの!」

二人の口喧嘩を黒鷹さんは冷ややかな目で見ていた。

「黒鷹さん、この二人はいつもこうなんですか?」

「大助さま、あなたがお子様なのでからかっているだけですよ」

メンボクナイ・・・

この日は顔合わせという事で、実務は翌日からとなった。


まずは、大坂城にいる女中・小姓など非戦闘員の人数・体格等の調査し、避難計画を立案する。合戦が不可避となった時から二日以内に避難を完了させたい。坑道の大きさについては、避難者の体格に合わせたぎりぎりとする。工期の問題もあるし、残土処理の件がつきまとうからである。坑道には換気の構造が不可避だ。二酸化炭素が充満していくのもまずいし、幕府の間諜に見つかった際に変な薬等をまかれるのもまずい。更に非戦闘員に真っ暗闇の坑道を使って逃げろと言っても怖くて足が進まなくなるだろうから、ところどころに灯りは必要だろう。それから、非戦闘員をどこで地上に出すのか。徳川も彼等彼女等の命を取るような苛烈な事はしない、と思われる。だとしたら出口は谷町辺りの寺社に設けたらいいか。等と検討を重ねてゆき、坑道の工事計画まで落とし込む。

ここで対立が発生した。実際に坑道を掘る事になる人足の問題である。出来るだけ坑道の件を知る者が少なくなる様に、少数の専門の人材で掘っていきたい、と僕は考えたのだが、黒鷹さんの意見は異なった。坑道計画の全貌がわからぬように交代させながら掘った方がいい、と言うのである。確かに黒鷹さんの意見にも一理ある気がしたので、態度を表明していない女性陣二人の意見を聞く為、黒猫さんに尋ねた。

「私はどっちでもいい、と思っている。ごめんね、大助さま。あなたの味方にならなくて」

「それは別にいいのですが・・・白兎さんはどう思ってるでしょうか?」

「あの人の意見は、私にはわからないけど。旦那の意見に賛成なんじゃない」

「旦那って?」

「黒鷹よ。あの二人夫婦なのよ。知らなかった?・・・大体、房中術なんて生娘が習得出来る技術じゃないでしょ」

「じゃあ、黒猫さんも?」

「あら、私の房中術体験してみる?」

慌てて退散した。そっち方面に話題が変わってしまった事については反省しなくては。実際に白兎さんに尋ねると、黒猫さんの予測通り黒鷹さんの意見に賛成だった。

多数決により、黒鷹さんの意見に従い、施工の際の人足については交代制を採用することにした。今回の坑道については噂になっても、さしたる影響は無いだろう、と考えたからだ。但し、人足の生活ぶりを確認し、べらべらと話をしない人間を選び出す事にした。今後、秀頼公の脱出路を準備するとなると、口の堅い人間だけで仕事をしないと、大変な事になるからだ。

脱出路の整備についての検討はまだまだ続いていた。

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