第三話
真田十勇士。
講談等で有名な真田幸村を守護する十名の豪傑達である。
猿飛佐助
霧隠才蔵
三好清海入道
三好伊佐入道
穴山小助
由利鎌之助
筧十蔵
海堂六郎
根津甚八
望月六郎
彼等の存在はフィクションとされているが、はたして実際はどうであろうか。
夜になった。
父の重臣たちに集まって欲しいと依頼すると、彼等から時刻と場所をして来た。
ここは敗色濃厚な大坂城である。誰が敵で、誰が味方なのかわかるものではない。親子で殺し合ったのが、悲しいが戦国の歴史だ。
僕は指定の時刻の半刻も前から、指定の場所に一人で立っていた。とにかく彼等の疑念を晴らす為にも、誠意を示す必要があった。
まずはとことんまで薄着にこだわった。武士なので、腰に差した大小は仕方無いが、武器を隠し持っていない事をわかって欲しかった。
指定された場所は天守から出た、馬の訓練場である。ここなら広いスペースで、塀や林といった障害物になるものもない。ここに一人で行く事で伏兵や罠を配していないことを示したつもりだ。
何しろ父に内緒で、父の重臣たちを集めようと言うのだ、父の重臣達を一挙に無きものとしようとしているのか、父から離反してこちらにつくように勧誘する勢力争いか、どちらに思われても仕方の無い事だった。
そろそろ時間かな。
いきなり殺気をはらんだ男達が僕を取り囲んでいた。
やっぱりこうなるよね。
僕は腰に差した大小を手前に投げた後、その場であぐらを組んだ。この時代で敵意が無いことを示す作法として正しいのかどうかはわからないが、少なくとも意図は通じた、と思う。
周囲を覆った殺気が弱まった様な気がした。
「ぼん、何ですねん。急に集まれって」
目の前の男が言った。暗くて人相はわからない。
「皆さん、はじめまして。真田大助です」
一同爆笑。
「ぼん、何言うてまんねん。あんさんが大助はんである事は、ここにいる皆知ってまんがな」
「そうではないんだ。僕は昨日までの僕ではないんだ。今の僕は400年先の世の中から来た真田大助なんだ」
「その400年先の大助はん、何でここにいてはるんです?」
「わからないんだ。罪の無い親子が死にそうだったので、助けようとしたら代わりに僕が死ぬ事になってしまって。気がついたら、ここにいたんだ」
「お優しい大助はんなら、そんな事があるかもしれんわね。それで、その大助はんが我等に何の用ですねん?」
「わからないかな。400年先の世の中から来たという事は、この戦いの行く末を知っているという事なんだ」
僕の言葉に緊張が走る。
「それで殿は、殿はどうなるんだ」
「ここからは籠城戦になるんだ。堀を埋められて、援軍が来る事の期待もできないのにね。単発的に野戦で勝っても、大勢に影響はなかった。業を煮やした真田信繁は、戦局を打開するために、 狙いを大御所の首に絞って、赤備えの真田勢で突っ込んだんだ」
「・・・」
「突撃すること三度、大御所と馬を合わせるところまで迫ったけれど、首を取ることは出来なかった。そして、城に戻る途中、休んでいたところを敵に討たれたんだ」
「ぼんは?」
「僕については、秀頼公が自害した後、腹を切ったらしい」
辺り一面に重苦しいムードに包まれる。僕の話した内容は、彼等にもありうる未来だと判断したらしい。とても受け入れられる話しではないが。
「僕は、こんな結末は受け入れられない」
沈んだ表情でいた彼等が、目を丸くして僕を見た。
「だってそうじゃないか。突然15歳で死んで、生まれ変わったと思ったら、あと半年で死ぬ運命なんか受け入れられる訳がない」
「それでどうするつもりなんですか?」
「僕が生き延びる為には、将軍家を倒して豊臣家を勝利に導くこと、少なくとも秀頼公に生き残る道を作る事しかないと思っている」
「ちょっと待って下さい」
背後から声がしたので振り向くと、僧形の男が僕に尋ねてきた。
「言われている事はわかるんですが、それでいいんですか?あなたがされようとしている事は、あなたが知っている歴史を変える事、あなたが戻るべき道を自ら潰す事になるのではないですか」
凄いな、タイムパラドクスについて理解できるとは、やはり優秀なメンバーなんだ。
「僕はもう元の世に戻ることは諦めているんだ。僕の身体は既に僕の魂を受け入れられないくらい、滅茶苦茶に壊れている筈なんだ。それに僕が戻るということは、死んだ人間が生き返るという事だからそれこそ歴史が変わってしまう」
「僕はこの世界に生まれ変わりたい、と思った訳ではないんだ。だけど生まれ変わってしまった。という事は、誰かの意志で生まれ変わったんだと思う。その誰かは何を望んでいるのか。僕がこの世の中であがく事を期待されているんだと思う」
「それに皆さんが知っている真田大助さんも、生き残ることを望んでいると思うんだ。約束するよ。本当の真田大助さんの心がどこにいるのか、それがわかって、元の場所に戻す方法がわかったら、僕はこの身体を明け渡すよ」
「そんな、・・・その時あなたの心はどうなるんです?」
「わからないよ。だけど、この身体は借り物だという思いがあるんだ。借りたものは返す、人として当たり前の話じゃないか。だからこそ僕は泥水をすすってでも生きなければいけないんだ」
「あなたの出生に関する事情と何をしたいのかは、ひとまずわかった事に致しましょう。それで我等に何をさせたいのですか?身の上話を聞いて欲しい、という訳ではないでしょう」
いつの間にか大阪弁が消えている。
「はっきり言って僕はこの世の中について知らない事ばかりだ。三つの子供よりも無知だろう。このままだと誰かに疑念を持たれるだろう。今後においても、秀頼公に頻繁に会える立場を失いたくない。だから僕の側にいて、この世のあれこれを逐一教えてくれる人が必要なんだ。それから僕が生き残る為には、僕の言葉と僕の策を信じて実行してくれる部隊が必要なんだ」
「それを我等に頼みたい、という事ですか?」
僕は頷いた。
「それでは、何故殿に内緒で進められようとするのですか?」
「真田信繁さんは日本一の兵で、高潔な人だ。いくら真田家が生き残る為であっても、卑怯な策なぞ望まれないだろう」
「つまり、汚れ仕事を我等の手でやる、という事ですね」
「うん。その通りだ」
「じゃあお聞きしましょう。あなたの真田家生き残りの策とやらを」




