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その1 今の私はこんな感じ

 王太子は、きゅっと優しく私を胸元に抱き寄せると、「ユイ、今日も頼りにしているよ」と甘くとろける声でささやき、そっと触れるだけのキスをした。


(はぅ。耳が溶ける。腰がくだける)


 私は内心、照れともだえで大忙しだが、そんな様子は一切見せない。

 見た目は変わらないのに私の気持ちが伝わったのか、王太子はふふっと至近距離で微笑んだ。


(うひぃ。サービス過剰で鼻血吹いちゃいそう)


「……兄上、ちょっと残念な人にしか見えません。あまりそういう態度をとらないほうが良いかと」


 あ、また小舅こじゅうと弟王子が来たよ。兄上大好きだもんねぇ。


「えぇ、そうかい? しかし、この接し方が一番いいから」


「そう【魔法の杖】が言ったんですか?」


 弟王子が私を見る目は、ジト目を通り越して、絶対零度の冷たさだ。視線で凍らせる気かな。


「いや、魔法学の先生から習ったのだ。『【唯一無二】にはそれぞれ癖がある。慎重に見極め、くれぐれも対応を誤らないようにしないと真の力を発揮できない』と」


 あれ、なんかおかしいゾ、と思ったあなた、大正解!


 今の私は【魔法の杖】だ。

 この世界で魔法を行使するときに使われる道具のひとつ【魔法の杖】。


 憧れの魔法が存在する世界に転生できるなんて最高!! なんだけど、魔法を使える魔法使いじゃなくて、【魔法の杖】。

 あ、そこ、ビミョ〜言わない!


 杖は杖でも、私は【唯一無二の魔法の杖】なんだから!


 普通の杖は使い捨てなんだけど、【唯一無二の魔法の杖】は一味違う! なんと成長できるのだ!


 うん。無機物が成長とか意味ワカランよね。エラい学者さんにも詳しくはわかってないらしい。

 でも成長した実例が多くあるので、成長するったらするんだろう。まぁここ魔法の世界だし。


 ちなみに【唯一無二】なのはその人物に対してであって、他にも成長する武器や防具は理論上、人の数だけ存在するらしい。


 ただ、自分の【唯一無二】と出会えるかどうかは運でしかなく、かなりレアなのだとか。


 ほぼほぼ王城にいる私は宝物庫にも入ったことがあるけれど、まだ他の【唯一無二】を見たことがない。

 あ、【唯一無二の槍】は辺境伯が持っているそうだ。辺境伯と会ったことはあるんだけど、【唯一無二の槍】には会わせてもらえなかった。


 辺境伯には「お互いもっと成長してからじゃないと会わせられない」とか言われた。ペットかな?


 確かに、私が「【魔法の杖】に転生してるぅ!?」って気づいてすぐは、「異世界転生だけど思ってたんと違う!」「なんじゃこりゃあ!」「動けないぃ!」って叫びまくってたけど、今の私はすっかり落ち着いて、心穏やかに王太子が育成してくれる【唯一無二の魔法の杖】ライフを楽しんでいるのにね。


 残念ながら、他の【唯一無二】は話にも聞いたことがない。

 単に私の耳に入らないように情報規制されてるのか、持ち主が【唯一無二】に気づいていないだけなのか。


 【唯一無二】とはいえ、持ち主と出会うまでは、ただの道具としての力しかない。普通に使われて、朽ちるか破棄されるのを待つだけなんだよね。


(私にとっても王太子にとっても、出会えてラッキーだったよね)


 王太子はその地位を盤石ばんじゃくにできたし。


 王太子の【唯一無二】になってからは、普段はピアスみたいに王太子の耳に貼り付いているので、自分の意志ではないにしても、移動できて快適だ。


 そう。王太子とはいつでもどこでも一緒。お勉強も、鍛錬も、トイレも、お風呂も、もちろんベッドも一緒!


 前世の私なら赤面して転がりまわるところだけど、【魔法の杖】になったからか、そっち系の欲はさっぱり消えてたミラクル。


 人間から杖への転生だからか、前世の記憶自体ぼやっとしか残っていない。仕様なのかもしれない。


 王太子は手の中の【魔法の杖(わたし)】にふわりと微笑んだ。


(はぅん。王太子の春のひだまりスマイルはプライスレス! 私は褒められて伸びる子なんで! イケメンからの溺愛最高!)


「チッ」

「こーら。舌打ちなんてしないで」


 相変わらず弟王子からの視線がイタい。もはや部屋でうっかり遭遇してしまったGを見下ろすソレだ。


 そんなに心配しなくても大丈夫なのになー。


(この溺愛【魔法の杖】生活を長く満喫するために、全力で王太子の役に立つよ!)


「まぁ、そいつが兄上の役に立っているのは確かですけど」


「本当にね。頼もしい相棒だよ」


(杖だけにね!)


「ぶふっ」


「おやおや、大丈夫かい? ほら、そろそろ出陣だ」

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