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マドンナ先輩の据え膳とデートの約束

ガチャッ。


「槇村先輩、着きましたよ? ホラ、靴脱いで下さい」

「んー。い〜気持ち♡ 靴脱がせて〜。このままベッドに運んで〜」


「ええ〜!」


 槇村先輩にひっ付かれながら、マンションの部屋に入った俺は、彼女に甘えるように、更なるお願いをされて困ってしまった。


「早くぅ〜♡」

「わ、分かりましたよ。//よいしょっ。とっ」

「あん♡ んっ♡」


 槇村先輩に急かすように肩口をポコポコと叩かれ、仕方なく履いていたパンプスを脱がせると、彼女は色っぽい声を上げた。


 くうっ! ただでさえ、女性の部屋で二人きりというシチュエーションに緊張しているのにやめてくれ!!///


「次はベッドよ。猫田くん!」

「わ、分かりましたよ。よっ。うっ……///」


 槇村先輩を担ぎ上げるように支えると、再びお酒の匂いに混じった甘ったるい女の子の匂いと、密着する柔らかさと温もりを感じて、頭の芯がクラクラした。


「頑張れ頑張れ、猫田くん〜!」


 そんな俺の様子など全く気付く事なく、彼女は俺に無邪気に声援を送って来る。


「いや、槇村先輩も歩いて下さいよ。うんせっと……。しょっ」


 ドサッ。


 文句を言いながら、薄暗い部屋の奥に歩いて行き、槇村先輩をベッドへ下ろすと、ようやく一息ついた。


「ん〜〜っ」

 槇村先輩は、ベッドの上に寝転がり気持ち良さそうに伸びをして……。


「あっ」

 パタン!

「?」


 横目でベッドサイドの写真立てが目に入ると慌てて伏せていた。


 薄暗くて何の写真か分からなかったが、何かまずいものでも映っていたのだろうか?


「あの、あまり写りがよくない写真だったから……」


 槇村先輩は気まずそうな顔で説明してから、ふふっと笑った。


「それにしても、送ってくれる“彼氏”がいるって安心して飲めていいわね〜。

 今まで、知らない男の人を交えて飲む時は、自分の飲み物に変なもの入れられないか、変なところ連れて行かれないか気張ってたし、女の子とでも、信用ある人の前でしか酔えなかったのよね〜。

 自意識過剰と思うかもしれないけど……」


「いやいや、槇村先輩は、それぐらい気をつけた方がいいと思いますよ?去年のミスコン優勝者ですもんね。美人も大変っすね……」


 苦笑いする槇村先輩に、俺はブンブンと手を振り、彼女の境遇に同情し、ウンウン頷いた。


 けど、今のこの状況がそんなに安心出来るものでない事は伝えておかなければならなかった。


「でも、俺だって一応男っすからね? 槇村先輩を襲う可能性だってあるんだから、そんなに警戒心解かれても困ります」


 ほとんど話した事のない後輩男子を部屋に入れて、靴を脱がせてベッドに運ばせるとか、まるで襲って下さいといわんばかりのシチュエーションに、危機感を持ってもらうよう、最大限険しい顔を作って言ってみたが、槇村先輩は、動じる事もなく頷いた。


「あっ。そうね。契約とはいえ彼氏だもんね? 確かにこの状況、襲われても文句は言えないわ。んっと……。

 どうする? 襲ってみる……?」


 ベッドの上で身を起こし、こちらを見上げてニヤニヤ小悪魔な笑顔を向けてくる槇原先輩に、俺はドキッとした。


 飲み会の終わり間際に、航に涙ながらに言われた事を思い出してしまった。


『ううっ…。マドンナ先輩にお持ち帰りされるとは、なんて羨ましい奴っ!!

 偽の彼氏役とか言ってっけど、脈あんじゃねーの?

 いいか?広樹! 据え膳食わねば男の恥! 誘われたら、絶対断わんなよっ!!』


 す、据え膳食わねば男の恥……。


 槇村先輩のお酒を飲んで紅潮した頰、ウルウルした瞳、紅の引かれた艷やかな唇。ぷるんっと盛り上がった大きな双丘に思わず目が行ってしまいながら、ぶるぶると首を振った。


「いやいや、まずいっすよ! 俺は槇村先輩に俺の頼みに協力してもらっている立場で、そんな不埒な事は出来ませんって!!」


 自分に言い聞かせるように、大声を出すと、槇村先輩は、優しい笑みを浮かべていた。


「ふふ。気ままな性格なのに、真面目なのね?

 けど、偽の関係とはいえ、親友くんには私達がちゃんと恋人のように見えないといけないのよね?

 お互い一緒にいるのが不自然ではないくらいにしといた方がいいんじゃないかしら?」

「は、はぁ……。それは、まぁ……」


「なら、お互いを知るために、何度かデートしなきゃね?」

「え」


「今週の週末ヒマ?」

「えっ。えーと、日曜はバイト入ってますけど、土曜日は一日開いてますが……」


「じゃ、デートは土曜日に。グループラインに入ってる連絡先にロインするわね?」

「あ、は、はい」


「じゃ、楽しみにしてるわ……。ふうっ。」


 パタッ……。


 流されるままデートの約束が決まると、槇村先輩はそこで力尽きたようにベッドに倒れ、すやすやと寝息を立て始めた。


「え、ええ! 槇村先輩、寝ちゃうんですか〜?! 俺帰る時、鍵はどうすれば……?」


 慌てる俺に寝言のように槇村先輩が答えた。


「むにゃむにゃ……。オートロックだから……、ドアが閉まれば……施錠するわ……」


「あ、そうなんすね?」


 ホッとしたのも束の間……。


「今度……入る時に必要だったら、私のバッグの内ポケットにスペアキーがあるから……、合鍵……持っててもらってもいいわよ……?」


「いやいや、半分寝ながら後輩男子に合鍵渡そうとしないで下さいよ! ホント危ないなぁ。この人!」


 その言葉に度肝を抜かれ、文句を言ったが、槇村先輩はただ安らかな寝息を立てるばかりだった。


「ったく、もう……。///お休みなさい。槇村先輩」


 近くにあった毛布を槇村先輩の体にかけると、俺は彼女の部屋を後にした。



「ヤべーな……」


 心臓がまだバクバクいっている。


 高嶺の花だった槇村先輩の酔った時の子供みたいな姿、可愛く思えてしまった……。


 槇村先輩は、俺の頼み事に協力してくれているんだから、不埒な思いを抱いたらダメだ。


 そう思いながらも、夜になってもまだ生暖かい夏の空気が、体と心の火照りをなかなか冷ましてくれなかった。


 

*あとがき*


 読んで下さり、ありがとうございます!


 次話デート編になります。

 今後ともどうかよろしくお願いしますm(_ _)m

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