マドンナ先輩の提案の意図と近すぎるロケーション
親友の鉄男に彼女をNTRされる理由が分かったという大学中のマドンナ、槇村先輩に、
「その理由を教えてあげる代わりに猫田くん、私と付き合って?♡」
と言われ、隣の航も俺も心底驚いてパニック状態になってしまった。
「マドンナ先輩が広樹に……?? あわわわ……」
「どどど、どうしてそうなるんすかぁっ??」
「ふふ〜っ。どうしてかというとね……」
槇村先輩は、俺の反応を面白がっているような表情で、人差し指を突き出し、説明し始めた。
「猫田くんと親友の間にある謎、私なりに仮説を立てて答えを出したのだけど、それを検証して本当か確かめる為には、猫田くんの彼女として親友の鉄男くんに会ってみないといけないのよ。
だから、まずは、私があなたの彼女にならないと。ね?」
「あ、ああ……。か、彼女のフリをするって事っすね。なんだぁ……」
俺は槇村先輩の意図が分かりホッとするのと、ガッカリするのと半々で息をついた。
「ハ、ハハッ。俺もそんな事じゃないかと思ってましたよ〜」
航も取り繕ってわざとらしく笑いを浮かべている。
「じゃ、そういう理由でお付き合いおけ?」
「あ、はい、もちろんOKっす。ってか、オ、オナシャス!///
(うを〜、槇村先輩の手、小さくて柔らけ〜!!)」
「(むむっ。広樹、羨ましいぜ……。)」
槇村先輩に再び差し出された手を握り返して、航にジト目で見られる中、その素晴らしい感触に照れていると……。
「ふふっ。嬉しい♡」
グイッ。
「おわっ?」
ガタッ!
槇村先輩は俺と握っていた手を上に引き上げて立ち上がったので、俺もつられて立ってしまった。
「皆さんーーっ!! 聞いて下さぁい!! 私、槇村涼子と、猫田広樹くんは今日からお付き合いする事になりました〜〜♡♡」
「「えーーーーっっ??!」」
「「「「「「「「「「「「「どえーーーーっっ?!!」」」」」」」」」」」」」
槇村先輩は、周囲によく通る声でそう宣言をし、俺も航も、サークルの他の皆も驚きの声を上げた。
「ええ〜!! 才媛の槇村先輩があの猫田にぃっ?!」
「嘘だろぉっ! 俺、槇村先輩、狙ってたのに〜! ショックだ〜!」
女子達は目を剥き、男子達が泣き、大騒ぎする中、俺は槇村先輩に詰め寄った。
「ちょちょ、ま、槇村先輩何言ってんすか? 鉄男の前でフリするだけなのに、何で公表までするんすかぁ!?」
「だってぇ、引き受けるからには、私にもメリットがなきゃでしょ? 最近、しつこく言い寄ってくる男子が多くって! しばらく男避けになってね?」
「え、ええ〜っ」
「ううっ……。広樹、羨ましいぜっ!」
蕩けるような笑顔でお願いポーズを取る槇村先輩に、俺は途方に暮れ、航は他のサークル男子と同じように滂沱の涙を流していた。
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「んふふ〜……。こんなに気持ちよく酔ったの久しぶりだわ〜」
「ま、槇村先輩、大丈夫っすか?」
あれから、思わぬカップルの成立に、サークル内は大騒ぎになり、主に男子から大量の酒を飲まされそうになったが、「成人したばかりの子に沢山飲ませないで。代わりに私が!」と、槇村先輩が半分以上代わりに飲んでくれたのだった。
槇村先輩は、見かけに寄らずかなりお酒が強いようだったが、流石に酔ったらしく、彼氏役の俺が送らないわけにはいかず、一人ではフラフラと足取りが覚束ない槇村先輩を支えながら、俺は最寄り駅からの道を歩いていた。
「家、こっちの方向で合ってます?」
槇村先輩の住んでいるマンションは、俺の学生寮のすぐ近くだという事だったが、本当に俺の学生寮の真ん前というところまで来て槇村先輩に聞くと、彼女は上機嫌で答えた。
「んふふ♡ OK、OK〜! ホラ、私の家、そこのマンションよ」
「へ」
そうして彼女が指差した先は、俺の学生寮の真向かいにあるマンションだった。
「マ……マジっすか……?!」
慄いている俺に、槇村先輩はニッコリ笑って、頷いた。
「マジっすー。猫田くんの学生寮って、真向かいでしょ?一緒に送ってもらえていいなっていうのも、彼氏役になって欲しい理由の一つだったのよ?あ、もちろん部屋まで送ってね♡」
フニュッ♡
「え、ええ……! ふぐうっ……!!///」
槇村先輩に腕を取られ、豊満な胸を押し付けられ身悶えしながら、彼女のマンションのエントランスへ入って行ったのだった……。