おまけ話 親友 魚沼航の相談事《後編》
翌日、創作料理居酒屋 「魚たみん」にて――。
グツグツ……!
「ハフハフ……。うわ、海老、プリップリだ!」
「ズズッ。海鮮スープもコクがあってうまいよな〜」
「ムグムグ……。美容にも良さそうだわ〜」
俺、航、涼子さんは濃厚なスープが自慢の海鮮鍋を堪能し、至福を味わっていた。
「槇村先輩、焼酎でいいですか?」
「ええ。魚沼くん、ありがとう」
「いえいえ。M大の女豹と名高い槇村先輩にお酒をつがせて頂けるなんて、光栄であります!」
「もう、そのあだ名はやめてよ〜//」
「ぶふっ」
航にグラスに九州の芋焼酎を注がれながら、最近ついたあだ名を持ち出して畏まられ、涼子さんは困っていて、俺は思わず吹き出しつつ、肝心の話を切り出した。
「えーと、それで、航? 相談ってのは……?」
今日三人で居酒屋に来たのは、航に頼まれ、その相談事を聞く為だった。
「そうそう。私も呼ばれたと言う事は、何かお役に立てる事があるのかしら?」
「そ、そう。今日、広樹と槇村先輩に来てもらったのは、俺の友達……、幼馴染みとの関係について相談したい事があったからなんですよ」
「「幼馴染み?」」
俺と涼子さんが顔を見合わせる中、航は膝に手を置き、背筋を伸ばすと、真剣な表情で話し始めた。
「いや、広樹から、親友に3回NTRされた話を聞いた時、最初はその鉄男とかいう親友、マジないわー!どんだけの下衆野郎なんだよとか思ってたんすけどね……。ざまぁ後に、改めて鉄男の動機とか広樹との今まで関係を聞いてみたら、出来心とか距離が近いからこその嫉妬とか甘えとかで、結構あり得なくもない話なのかと思っちゃって……」
「航……」
「魚沼くん……」
航の言葉に俺と涼子さんは、意図的に俺と元カノ達に間違った認識を植え付け、3回NTRした末、涼子さんに狼藉を働こうとし、絶縁した幼馴染みの鉄男の事を思い出し、愁いの表情になった。
母親経由で聞いた話だが、あれから鉄男は、通っていた専門学校も辞め、親には勘当され、その後の行方は知れないらしい。
どこかで立ち直り、人に迷惑をかける事なく無事に暮らしていればいいのだが……。
そんな俺と涼子さんに、航は慌てて謝って来た。
「あ、楽しくない事、思い出させちゃってすんません! いや、奴のやった事は非道極まりないし、広樹が絶縁したって聞いて、俺も友人としてホッとしたんですよ?
けど、もしかしたら、傍から見たら、俺も幼馴染みとの関係も広樹と親友のそれに似たようなものかもしれないって思い始めちゃって、それを相談したかったんです……」
「航にも幼馴染みが……。どんな人なんだ?」
「広樹くんと同じように拗れた関係だったのかしら?」
その話を受けて、俺と涼子さんが問いかけると、航はその幼馴染みについて話してくれた。
「ええ。まぁ、ちょっと我儘な奴ではありますが、幼馴染みの気安さで、お互い言いたい放題なんで普通にケンカ友達って感じですかね?
けど、同じ大学受けたものの、俺だけ受かって、奴は落ちて地元の専門学校行く事になってから、幼馴染みの様子がおかしくって……。
しょっちゅう何の取った資格を取ったとかマウント電話して来るし、都会でモテたいなら女の子に人気のあるもの教えてやるって、萌え系ゲームアプリやエロギャグ漫画紹介されてたり結構被害を被ってるんですよね……」
「……! 航、そう言えば、スマホゲームの『水着の彼女』はまっていたけど、あれってもしかして……」
「ああ。あれは奴に教えてもらったものだ。女子は全員やってると力説されてやってみたんだが、モテるどころか、レアアイテム『スク水』引き当てて喜んでいるところをちょっと気になっていた女子に見られてドン引きされただけだった……」
「お、おうふっ……! 航も結構悲惨な目に遭っているんだな……」
「そそ、それは大変だったわね……!(そのドン引きした女子、私の親しい後輩で、彼女から既に話を聞かされているなんて言えないわ〜)」
航の体験を聞いて、何とも言えないしょっぱい表情になる広樹と涼子。
「元々俺への当たりはキツかったから、今までそんなに気にしていなかったけど、広樹の親友の件があってから色々考えちまって……。
奴は、俺が受験に合格して、都会の大学に通っているのが悔しいのに、この上恋人を作って更にマウント取られたら大変だと、わざと俺の評価を下げるように画策していたのかも……なんて。
俺の思い過ごしだったらいいんだけど……」
「航……」
「魚沼くん……」
「3回NTRの謎を解き明かした槇村先輩なら、もしかして幼馴染みの真意が分かるんじゃないかと思いまして、ご相談させて頂いた次第なんですよ」
「魚沼くん……。広樹くんの親友の頼みだから、できる限り応えてあげたいとは思うけれど、私は謎解きのプロってわけでもないし、3回NTRの謎は半年以上、友達にも協力してもらって調査の上やっと解き明かしたものだったの。
この話を聞いただけで、幼馴染みさんの真意は何とも分からないわ。ごめんなさいね」
航に頭を下げられ、涼子さんは言い辛そうにそう伝えたのだが……。
「あ、いや。こっちこそ、すいません。そんな、本格的な謎解きでなくても、傍から見て俺達の関係がどう見えるかっていうのだけでも、教えてもらえたらって思っただけなんです。
どうせ、奴とは夏合宿で何度も顔を合わせるでしょうし」
「「夏合宿で……??」」
航の言葉に、俺と涼子さんは目を瞬かせた。
「実はその幼馴染みってのは、俺の両親と民宿を共同経営してる両親の友達の子供なんです。」
「「え!そうなの(か)!?」」
「はい。夏合宿の間、奴も民宿を手伝いに来る予定なんで、何か気のつく事があったらでいいんで、言って下さい。もちろん、広樹も頼むな?
俺も、二人が楽しめる地元のデートスポット紹介するから!」
航は、そう言っていつもの調子でカラッと笑うと親指を立て、俺と涼子さんはどうしたものかと顔を見合わせ、その後幼馴染みについて更なる詳細を聞くことにした。
以下は俺のメモである。
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友人魚沼航の幼馴染み、亀井碧(19)について
・両親同士が民宿を営んでいる事もあり、航とは幼い時から家族同然に育ち、何かとマウントをとってくる。
・両親が民宿を営んでいる為、お客さんと接する機会が多いため、初対面の人に対してはフレンドリー。
・美形で、友人も多いが、恐らく恋人はいない。(いたら、真っ先に航に自慢してくるだろうからとの事)
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その後、以上の詳細を聞き、結局航に奢られる形で飲み会を終えた。
「広樹くん、魚沼くんの話どう思う?」
帰り道で涼子さんに問われ、俺は腕組みをしながら考えた。
「う〜ん。やっぱり、話を聞いただけでは何とも言えませんけど……。
航の友達がそんなに悪どい奴には思えないんですよね」
「そうね。親しい友達に自慢したりマウント取っちゃうのはよくある事だし、3回NTRした金田くんのように極悪な事をしているとまでは……。
親同士も民宿を共同経営していて、ほぼ身内のような存在でしょうし、悪意がなければそのまま関係を続けていきたいような感じだったわよね……?」
「そうっすね。俺もそれは感じました。まぁ、航には普段から色々世話になってるし、できる限り力になりたいっす。合宿では、手伝いに来ている幼馴染みの亀井碧くんに注目してみます」
「私も合宿の短い期間に、できる限りその亀井碧くんと魚沼くんの関係を考察してみるわ」
涼子さんと俺は、真剣な顔で頷き合ったのだが……。
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夏合宿当日――。
航の幼馴染みの真意は民宿に到着5分後に全て解明される事になった。
「M大映画研究会の皆様、ようこそいらっしゃいました〜。私、当民宿のご案内をさせて頂きます亀井碧と申しま〜す。よろしくお願いしま〜す!」
俺達を民宿の前で出迎えてくれた、亀井碧なる人は桃色の作務衣姿で、ツインテールを揺らして、愛らしい笑みを振りまき挨拶をしてくれた。
「(え、スタッフの子俺達と同じぐらいの年じゃね?//)」
「(か、可愛いっ……♡//)」
サークルの男子達が色めき立つ中、俺と涼子さんは、ただただ衝撃を受けていた。
「ひ、広樹くん……。亀井さんって……!」
「は、はい……。女子だったんですね……?」
「あ〜、皆さん。そいつ猫被ってるけど、中身は毒舌でイケメン好きですから、気を付けて下さいね〜?」
航がサークルの皆にニヤリと笑って、そんな解説をすると、亀井碧さんはプクッと頬を膨らませた。
「む〜! 何よ、航! たまにしか実家に帰んないあんたの分までウチの民宿手伝っている私にひどい言い様じゃない!
私が毒舌なのは、航がそういうボンクラな言動するからだし!
部屋にキムプリのポスター貼ってただけで、イケメン好き呼ばわりされるのウザいんですけど!」
「はあ〜ん? 私はあんたなんかより、ずっとカッコいい男子を捕まえてみせるって口癖のように言ってるじゃんかよ!」
「自惚れないで! 航よりカッコいい男子って、顔面普通レベル以上ってだけだから!」
「俺、顔面偏差値どんだけ低いんだよ! これでも、女子には面白い人認定されて、合コンによく呼ばれるんだぜ? (ただの盛り上げ要員で、成果はないけど……)」
「へ、へ〜! じゃ、もう彼女とかいるんだぁ?」
「うぐっ……。な、何人かいい線までは行ってるけど、まだそこまでの関係には……」
「あ〜。お友達止まりなんだぁ!(ホッ) スマホゲーム「水着の彼女」の2次元彼女に夢中で、ガチャでレアアイテムのスク水引き当てて、大喜びしてるぐらいだもんね? プークスクス!」
「う、うるさい!// ってーか、お前があんなアプリ紹介してくるからだろうが! どこが、女の子に人気のゲームだよ!」
「私は好きだから、嘘じゃないもん! も、もうさ。航には都会での新しい出会いなんて無理だから、キレイさっぱり諦めて、週一ぐらいでこっち帰って来て、地元で趣味の合う人見つけるしかないんじゃないっ? チラチラッ」
「はあっ? バカにしやがって! 俺は絶対、都会でお前とは正反対の大人しげな可愛い彼女作ってやんからなっ?」
「……!! 航の分からず屋っ! ニブチンッ!!」
「「…………」」
航と亀井碧さん、幼馴染み同士の激しいやり取りに圧倒された俺と涼子さん……、いや、その場にいたサークルの皆も含め、全員が思ったろう。
「もうお前ら、付き合っちゃえよ」と……。
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友人魚沼航の幼馴染みファイル
亀井碧(19)
両親同士が民宿を営んでいる事もあり、航とは幼い時から家族同然に育つ。
両親が民宿を営んでいる為、お客さんと接する機会が多いため、初対面の人に対してはフレンドリーで、友人も多い。
航と同じ大学を受験するも、落ちてしまい、今は、地元の専門学校(女子多い)に通い、民宿経営に必要な技能を学んでいる。
離れてしまった寂しさに、航に対して絡み電話をしては、彼女避けにわざと女子にドン引きされるような趣味を吹き込もうと画策している。
なかなか素直になれないが、将来は航と結婚して、親の後を継ぎたいと思っているのを航だけが知らない。(両親達、地元の友達は全員知っている)
✽あとがき✽
読んで下さりありがとうございます!
航くんにも癒しをと思い、番外編を書きましたが、しょーもないオチで大変失礼致しました(^_^;)
また思い付き次第ちょこちょこ付け足していくかもしれませんが、その時はまたどうかよろしくお願いしますm(_ _)m
追記:みてみんに碧ちゃんをイメージしたAIイラストを投稿していますので、よければご覧下さいね。
https://42432.mitemin.net/i1008131/




