ダメ猫な俺と女豹なマドンナ先輩の(偽の)恋人関係解消と新たな関係
NTRの真実を知り、小学校以来の付き合いだった鉄男と訣別をした後、涼子さんと帰途についていた。
「金田くん泣いていたわね。あんなひどい事をして置いてと思うけれど、きっと
広樹くんの事が大好きだったのね。
何だか広樹くんを彼からNTRしてしまった気分だわ……」
隣を歩く涼子さんが真面目な顔でそんな事を言うので、俺は苦笑いしてしまった。
「ハハッ。涼子さん、何言ってんすか〜。でも、俺も今は何だか、失恋をしたみたいな気分かも知れないっす……」
小さい頃虫取りやゲームで一緒に遊んだ事、飲み会やメックバーガーで取り留めもない事を話し合った事……。
鉄男との少なくない、いい思い出が次々に浮かんでは、切なく胸が痛んでいた。
「もしかして……、真実を解明した事、後悔している?」
「や、それはないっす!」
遠慮がちに聞いてくる涼子さんに、俺はブンブンと手を振って即答した。
「どの道、俺は真実を知らなきゃいけなかったと思います。知れてよかったんです。
このままだったら、俺にとっても、鉄男にとってもよくない事になっていたし、元カノ達を無自覚に傷付けてしまっていた事に気付かないままでした。
3回NTRの件は、周囲の人の気持ちに鈍感過ぎた俺にも責任があると思います。彼女達には悪い事をしました……」
過去、理不尽に振られたと思い込んでいた彼女達に、こんな事情があった事に気付き、申し訳なく思っていると、涼子さんは肩を竦めた。
「まぁ、それを言ったら、悪口を吹き込まれたからって、自分で本当の事を確かめもしないで、彼氏の親友にフラフラしてしまった元カノさんにも責任があるんだけどね?
復縁を申し込んで振られた後も、懲りずに広樹くんの近くにいた人もいるみたいだし、反省しているのかどうかも怪しいものね……」
憮然とした様子でそう言う涼子さんに、俺は目を丸くして聞き返した。
「え! 俺の近くにいたってマジっすか? どこでですか? 教えて下さい!」
「むーっ。他の女の子の情報なんか教えないわ! 多分あの人がそうかなって、推測しただけで、100%確証があるわけじゃないし!」
涼子さんは、何故か頬をふくらませてプリプリ怒っている。
「俺、今まで大分、ボーッとして生きていたんすね。
涼子さんは、色んな事に気付いてすごいっすねぇ!」
感心していると、涼子さんは俺に困ったような笑顔を向けた。
「のんびりしているのは、広樹くんのいいところでもあるんだけれどね。でも、これからは大切なものや大切な人の事はよく考えて行動した方がいいわよ」
「…! はい。俺、これからは、色んな事をもっとしっかり考える事にします。これから、大切な人を傷付けない為にも」
俺が決意を込めてそう宣言すると、涼子さんは満足そうに頷いた。
「それが分かっているなら、偽の恋人だった私の役割はこれで終わりね」
「……!」
「あなたからは多くの事を学ばせてもらったわ。
広樹くん、今までありがとう!」
「涼子さん……」
彼女は眩しい笑顔で俺に手を差し伸べて来た。
いつの間にか、それぞれの家の前に辿り着いていた。
涼子さんはマンション、俺は学生寮。
偽の恋人を解消したら、それぞれにふさわしい住処に帰る事になり、彼女との接点はなくなるのだろう。
元カノと別れた時よりも強く――。
鉄男と訣別した時よりも深く――。
ズキズキと強く感じる胸の痛みと半身を切られるような寂しさは何だろう?
いつの間にか、涼子さんという太陽のように大きなその存在が深く俺の心に根付いていた事に気づかずにはいられなかった。
俺は泣きそうになりながら、涼子さんに差し伸べられた手を取り、握手を交わした。
「は、はい……。涼子さん、約束通り、NTRの謎を解き明かして下さって本当にありがとうございました!」
「ふふっ。どういたしまして!」
そして、その手がゆっくり離れていくのをたまらなく惜しく想っていると……。
ガシッ!!
「?!」
離れかけた手を今度は両手で握られた。
「そして、これからは本当の恋人として、よろしくね?」
「?!!!」
涼子さんは、いたずらっぽい笑みを浮かべて、俺を見上げて来たのだった。
*あとがき*
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いよいよラストへ向かっていく主人公とヒロインの涼子さんを見守って下さると嬉しいです。
今後ともどうかよろしくお願いします。




