親友の本性とマドンナ先輩の苛烈
『あの猫目な顔で自分カッコイイって勘違いしてて、何してもいいと思ってるみたいなんですよね〜。
「俺イケメンだから」って言われたら、否定し辛いから合わせてやりますけどね?
あいつの親友やってられんの、俺ぐらいのもんですよ』
鉄男…?!
親友の…親友の筈の鉄男の思いも寄らない言葉に俺は大きなショックを受け、スマホを持つ手を震わせながら、涼子さんとの会話を聞いていた。
『えっと金田さん? それって悪口ですよね? あなた、本当に広樹くんの友達なんですか?』
『や、全然そんな、悪口とかじゃなくて! ただ、友達同士だからこそ、分かってる事ってあるじゃないですか。
俺は涼子さんが、本当の広樹の姿を知らないで付き合ってるなら、心配だなと思って!』
不信感を露わにしている涼子さんに、鉄男は慌てて弁解した。
『あいつ、元カノと俺の事で何か言ってました?』
『ええ……。詳しくは話してくれなかったけど、元カノの事で金田くんと揉めた事があるとだけ……』
いや、メッチャ詳らかに説明させられた気がするんだが……。
涼子さんは動揺もなく、しれっと嘘をついた。
『そうですか……。実は、広樹の元カノへの態度なんですが、デートで彼女を2時間待たせたり、体の特徴をあげつらって罵倒したり、体調悪いのに、ホテルに連れ込んだり、あまりにひどくってですね……』
は?!そんな事あったか……??
記憶を辿っていくと、確かにそれにかすかに似た出来事はあったかもしれない。
初カノの刈野さんの時は、デートの途中で本屋に寄って、好きな車の雜誌の立ち読みに夢中になり、30分彼女を放置して怒らせてしまった事があった。
だけど、待ち合わせにはいつも5分前に到着していたし、2時間も待たせたりした事は絶対ない。
次に付き合った千愛ちゃんは、「最近食べ過ぎちゃったんだけど、私、太ってない?」と聞かれ、「そう言えば最近ほっぺのあたりが少しふっくらしたような…?」と正直に答えてしまい、泣かせてしまった事がある。けど、それは、ふっくらしたほっぺも愛らしく思い、親しみを込めて言った事で、罵倒したりは絶対していない。
そして次に付き合った実兎さんは、結構積極的な子で、俺が風邪気味の時に強引にホテルに連れ込まれた事があったな……。逆はもちろんない。
鉄男の話は完全なデマとは言えないまでも、話を脚色し過ぎて、事実とは大きく違っていた。
『元カノの相談を受けて、注意したら、広樹、逆ギレして、「部外者のくせに口出してくんな。さてはお前たちできてるんじゃ……」って邪推して来て、元カノとは破局、俺とも険悪になってしまったんですよ。
俺はただ、「元カノを大事にしろ」って、当たり前の事を言っただけなんですけどね。
その後、広樹、泣いて謝って来たんで、しょうがなく仲直りしてやりました」
いや、そんな話し合いした覚えないし、いつも泣いて謝って来たの、鉄男、お前じゃね?
俺は開いた口が塞がらなかった。
涼子さんはこれを聞いてどう思うんだろうかと不安になった時……。
『へえ〜。そんな事があったんですねぇ……』
……!!
鉄男の話に感心したような涼子さんの声に、俺は胸がズキッと痛んだ。
『分かりました。私は、広樹くんのそんなところも受け入れられるよう頑張りますね?』
!??
「はあ?何でそうなるんだよっっ?!」
今だけは、鉄男に完全同意してしまった。
どうして、そんな結論になったんだ!? 涼子さん??
『そちらこそ、何で意外そうなんですか?私と広樹くんの事を心配して言ってくれてるんですよね?
ご心配なく。あのルックスで、多少ダメなところがあったとしても、私は何でも許せてしまう気がするんです……。もう、広樹くん、本当にカッコイイ……。ふうっ……』
熱っぽい吐息を吐く涼子さんに、鉄男は激昂したように大声で叫んだ。
『い、いや! 広樹のどこがカッコイイんだよっ?! 俺の方が100倍イケメンだろうが!!』
『はい? あなたが広樹くんより勝ってるもの、何かありますか?』
『…!!! この野郎っ!!』
「…!!! 涼子さんっ!!」
ガラッ!
煽るような言葉を吐く涼子さんに、鉄男は声を荒らげ、危険を察知した俺は急いで、元の席に向かった。
ガタガタッ!
「何をするのっ!?」
…!!
店に入ると、元の席から、涼子さんの悲鳴のような声と大きな物音がして、ただならぬ事態になっている事が分かった。
「うるせぇっ!ミスコンだかなんだか知らねーが馬鹿にしやがって!女なんて、何だかんだ言っても、一度手を出しちまえば、そいつに靡くもんなんだ。俺のキステクを思い知らせてや…」
席を区切っているカーテンを開くと、鉄男が涼子さんの肩を強引に掴み、キスを迫っている光景が目に飛び込んで来た。
「やめろ!!鉄男っっ!!」
必死に鉄男に手を伸ばした時…。
涼子さんが鉄男を避けるように体を捻ったかと思うと、スカートを翻し、奴の顎に向かって、瞬間足を大きく蹴り上げた。
「ふっざけんなぁぁーーーっっ…!!」
ドッゴオオンッ!!
「ぐぎゃあああぁっ!!」
ガタガターン!!
!!!!
「い、いで!いでー…!」
ぶっ飛ばされて顎を押さえて呻いている鉄男に、クワッと目を見開き、仁王立ちで叫ぶ涼子さんの姿があった。
「あなたこそ、人を馬鹿にするのもいい加減にしなさいっっ!!
そんな小手先の技、私には通用しないわよっ!!
あなたをボロクズのようにしてでも、広樹くんは私が絶対守りますっっ!!」
「ひ、ひぃっ…!!||||||||」
りょ…涼子さん…!!!!
その雄々しい姿に、俺は強く思った。
こ、この人は、豹…!!女豹だ…!!
しなやかな体に、鋭い牙と爪を隠し、いざという時は全力で獲物を狩る、野性の猛獣…!!!
俺は彼女の強く美しい彼女の姿を、瞬きもせず見詰めていたのだった……。
✻あとがき✻
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
次話、NTRの謎が全解明になります!
今後ともどうかよろしくお願いしますm(_ _)m




