静かな怒り
「うーん」
私は思い悩んでいる。
というのもデートで着ていく服を選んでいるためだ。
服を一通り並べ、30分にらめっこ。決まったのはズボンだけ。
選んだズボンは黒のワイドパンツ。私の勝負服ともいうべきもので、気に入っているものだ。
しかし、これにあうコーデなどを考えると、なかなかに難しい。
いつも着ている服はあるのだが、いまいち地味だ。
だから決めきれない。
おしゃれ系のインフルエンサーのSNSを見たり、さらに普段なら絶対に見ないであろうファッション系のユーチューバーを見たり……。
そうして時間をかけ、ついにコーデが決まった。
白いインナーシャツに、青いふんわりとしたカーディガン。
これならばいいだろう。ふとスマホの時間を見ればもう一時間もたっている。
果たして結果はどうだろうか
後日。
彼がやってきた。いつものように朗らかな笑顔を見せて。
どうだろうか。どんな感想をくれるだろうか。
「腹減ったから飯食いに行かね」
……は?
思わずこぼれそうになった言葉をぐっと飲み込む。
私は平静を装い彼の言葉に頷いた。
いや、なんなんこいつ。人が一生懸命選んだのに感想もなしかい。
私は彼の様子をみながらそう思った。
しばらくは怒りを抑え続けなければなさそうだ。
私の気持ちなど一ミリもわかっていない無神経な彼に、そしてそんな彼にどこか安心感を覚えてしまっている自分自身に。
失望と悲しみと、不思議な安堵の想いを添えて。
デートはまだ始まったばかりだ。