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06 古代の遺産と裏切りの影

 現れたのは、静まり返った壮大なスペース。精巧に岩を削った石柱が高い天井を支え、壁には古代の紋様が浮かび上がる。目の前に広がる神殿のような空間に立ち尽くす俺たち。


 奥に何かありそうだが、光が届かずよく見えない。

 燭台を見つけたシャルテがスラスラと呪文を詠唱し、魔法で火を灯す。

 すると──神殿の仕掛けなのか、ぱちぱちと音を立てながら、炎の道が広がっていく。


 薄暗かった広間が、一気に明りに包まれた。


 その明りを受けて、部屋の奥で光るもの──。そこにあったのは装飾された大きな箱。さらにその周囲には高級そうな武具、装飾品、古代の仮面──まさに宝の山だった。


「やったあああっ! 見つけたよ!」


 シャルテが歓喜の声を上げ走りだす。後を追う俺とロハス。走り寄った三人は慎重に宝箱を開いた。


 中には、煌びやかな宝石と金銀財宝。大量の古代〈ラーゼ王朝〉の金貨も混じっていた。間違いない。──これが、依頼の核心だった。


 その時だった──突然、クロスケが唸り出した。


「クロスケ……?」


 シャルテが手を伸ばすと、クロスケはその手を前足でピシャリとはねのけ、苦しそうにうめき声を上げる。


「……羽?」


 クロスケの背中から、ふわりと羽が生え始め──そのまま、飛び去っていった。その姿を見送り、呆然とする一行。


 ──なんだ今のは、あいつ本当に猫だったのか?


 だが、今はそれどころではない。まずは宝の回収だ。


 俺とシャルテで品を選び、ロハスがマジックバックへ収納していく。かなりの時間を要し、さすがのマジックバッグもパンパンになった。大きな武具や像はやむなく置いていくことにする。


 その時──


「ご苦労さまでした」


 背後から響いた声に、三人が振り向く。そこにいたのは──ホルヘス。彼の後ろには、あのフードの男。そして、剣を帯びた屈強な男たちが三人。


「なぜここに……?」


 俺の質問に答えずホルヘスは言った。


「本当に見つけるとは……よくやってくれました。後はこちらで引き取らせていただきます」


 シャルテがホルヘスを睨みながら言う。


「……まさか、私たちを──」


「察しがよくて助かります」


 そう言うとホルヘスは、短く背後の男たちに命じた。


「やれ。懐の金も忘れずにな」


 剣を構え近づく三人、俺とシャルテが身構える。


「無駄ですよ。あなた方の“ポンコツ”ぶりは、この子の目を通して見させてもらいましたから」


 そう言うホルヘスの横で、フードの男が懐から取り出したのは──


「クロスケ……!?」


 黒猫は、男の手の上で目を紫に光らせ、怪しげなうめき声をあげている。


「むしろ、この中で一番警戒すべきは……」


 ホルヘスがロハスに短剣を突きつけ言った。


「あなたはそのままで、動けば殺します」


 それを見て剣を持った一人が俺に斬りかかる。咄嗟にサーベルで受けるとその男が言った。


「見せてくれよ、首席の腕とやらを」


 相手の切っ先、さらに男の顔がじりじりと近づいてくる。


「!?」


 ふと、自分が手にしているサーベルの刀身が目に入った。


 ──片刃……か!


 俺はサーベルの剣を滑らせ、相手の剣を巻き上げる。敵の剣がどこかに飛んでいった。無防備になった男の首筋に、サーベルを叩き込む。逆刃さかばで。


「ぐっ……!」


 峰打ちにされ崩れ落ちる男。続けざまに、二人目、三人目を素早く無力化していった。


「一体なぜ……?」


 驚愕するホルヘス。


「さあね、クロスケも全てを見ていた訳じゃないってことさ」


 歯がみをしながら俺を睨むホルヘス。ロハスを盾にじりじりと下がっていく。


「テンペスト・エレクトラ・ヴォルテックス!」


 ピカリと雷光が走り、ホルヘスを直撃した。やつが短剣を落とし、その場に痙攣しながら倒れ込む。


 俺が驚いて振り向くと、シャルテは自慢気にペロッと舌を出した。その手に魔導書は握られておらず……


「さっきの柑橘の果汁。精霊魔法の力を使って、呪文を手の甲に書いたの」


 彼女が手の甲を見せると、そこに呪文らしき文字が浮かび上がっていた。


 彼女の説明によると、どうやら念じた魔法種の呪文が、あぶり出しのように手の甲に浮かび上がる仕組みらしい。


「ジャ、ジャコブ……やれ」


 床に転がるホルヘスが、呂律の回らない口で何かを言った。どうやらフードの男の名前のようだ。呼ばれた男がクロスケに向け呪文を唱える。


 クロスケが、突如身を震わせた。毛並みを逆立て、痙攣するかのようにのたうち始める。瞳の紫はさらに強まり、禍々(まがまが)しくギラリと光が走る。


 次の瞬間、


「グギャー」


 叫び声を上げたクロスケの体が膨張していく。骨が軋む音が響き、毛皮が裂けんばかりに広がり、爪が鋼鉄のように伸びていく。見る見るうちに人の数倍にも及ぶ大きさの獣と化していた。


 ──あ、あれは……マンティコアか!?


 漆黒の魔獣へと変貌したクロスケは、こちらに向かって突進してくる。サーベルで受けるも、勢いに押されて吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。手から離れたサーベルが床を滑っていく。


「インフェルノ・スパイラル・イグニス!」


 シャルテの火球魔法が炸裂、轟音とともに直撃すると、怪物の全身を業火が包み込んだ。一瞬、視界が燃え盛る炎で覆われる。だが、消えた火の中から──マンティコアが、ゆっくりと姿を現す。


 立ち上がったその姿は、ほとんど無傷に見えた。炎に焦がされた毛皮から黒煙を漂わせながら、紫の瞳でシャルテを射抜くように睨む。そのまま口を広げ、鋭い牙をむき威嚇の声を響かせると、大きく跳躍し彼女に迫った。


「くそっ!」


 立ち上がった俺は石を拾って投げつける。奇跡的にマンティコアの顔に命中し、獣の注意がこちらに向く。再び俺に襲いかかってくる巨獣。


 ──かわしきれない!


 腕をクロスしガードを固め、目をつぶる。


「ギギッ!」


 衝撃に備えた俺に、マンティコアのうめき声が聞こえた。目を開けると、視界いっぱいに広がるマンティコアの顔──巨大な牙と鋭い瞳が迫り、獣じみた吐息が、鼻につく。


 だがやつは動けずにいた。マンティコアの体全体に、無数の蔦が巻きついていた。四肢を絡め取り、羽根をも巻き込み、ぎしぎしと締めつけている。ロハスの精霊魔法だった。


 だが、


「ガッ!」


 絞り出すようにマンティコアが声をあげ体を揺らす、蔦がきしみ亀裂が走る。今にも破れ裂け、また暴れ出しそうだった。


 俺は、落ちていたサーベルを拾い、手に取る。


(斬るしか……ないのか……!?)


 牙をむきこちらを睨むマンティコアに、俺はギラリと刃を向ける。


 その時、目の端に不思議な動きをするロハスが映った。必死の形相で自分の首を絞め、うめき声をあげている。


 ──なんだ? 相変わらず何がしたいのかわからんやつ……


「首輪よ!」


 シャルテが叫ぶ。


 首輪? 獣の首に巻かれた宝石付きの首輪に目をやる。これか……?


 マンティコアの首と首輪の間、刃を慎重に入れ、


 ──ザクリ。


「グギャアアアアアア!!」


 凄まじい悲鳴とともに、マンティコアの体がみるみる縮んでいく。


 ──気づけば、そこには、よろよろと立つ黒猫──クロスケの姿があった。


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