03 三人と一匹の即席パーティー
そのままシャルテと俺は、ギルドに依頼書を提出し、ホルヘスと別れを告げた。出発は明日の朝。それまでに打ち合わせと準備を済ませておく必要がある。
打ち合わせを兼ね食事でもとなり、一階の食堂に戻り昼食を注文した。運ばれてきたシチューの皿からは、香ばしい香りが湯気とともに立ちのぼっていた。
そのとき、シャルテの膝の上から、ふわりと黒い影が顔を出した。黒猫──小さな宝石付きの首輪を付けている。ホルヘスから預かった子猫で召喚獣らしい。
「クロスケもお腹すいたかな~」
シャルテが勝手に名前を付けて頭を撫でる。
「召喚獣か……モンスターとかの危険を教えてくれるって言ってたな」
「うん。初めて行くダンジョンだし、こういうサポートがあると助かるよね」
彼女はちょこんとクロスケの頭をつつきながら続けた。
「後はポーターがいるといいね」
「ポーターか……」
ポーターとは道案内兼荷物持ち。マジックバックを持っているものが多く、パーティにいれば荷運びに困らない。
「なんせ私たちー、持ちきれないほどのお宝見つけちゃうかもしれないし~」
彼女のお気楽な言葉にあきれもしたが、道案内は必要かもしれない。
「優秀なポーターって、エルフに多いらしいよ? いいよねーエルフ、イケメン多いし~」
「いや、イケメンは関係ないだろ……」
「いやさー、昔近所に住んでたエルフのお兄さんがイケメンでー、すっごいシュッとしてて~」
「シチュー冷めるぞ」
俺は彼女の話を無視し、スプーンを口に運ぶ。香草の香りが口の中に広がる。……思っていたより、うまい。
「エルフいないかなー、ね~クロスケ」
シャルテが俺ではなく子猫に話しかけ始めた時、奥のテーブルに座る一人の人物が目に入った。顔はよく見えないが、背格好からして男のようだ。
一人でワインをがぶ飲みし、串刺し肉にかぶりついている。緑のローブ、長い銀髪、尖った耳──ってことはエルフ?
エルフって肉食うんだな……いやそんなことより、ここで食事をしていると言うことはあの男も冒険者なのか?
「……あれ、エルフだよな?」
「えっ、どこどこどこ!?」
確認するやシャルテは跳ねるように立ち上がると、クロスケを俺に預け、一直線に男の元へ向かっていった。
──そして数十秒後、がっかりした顔で言った。
「……だめー、イケメンじゃなかった~」
「あのなー……」
俺はシャルテをひと睨みして立ち上がり、エルフのもとへ向かう。
「あんたマジックバックを持ってるようだが、ポーターか?」
「ん?」
不機嫌そうな声で男が振り向いた。
──なるほど
その顔を見て俺は納得した。確かにイケメンではない。ただのエルフのおじさんだ。流行りの? ”イケオジ風”でもない、むしろ”くたびれた風”のおっさんエルフだった。
「なあ、あんた。ポーターか?」
重ねて聞くと、モグモグと口を動かしたまま、無愛想に頷く。
「〈グラン=フォッサ〉の迷宮は知ってるか?」
また頷く。
不愛想なのが気になるが、時間もない。それに100歳すぎてもシュッとして見えるのがエルフ、逆に言えば、こんなおじさんに見えるというのは相当なベテランなのでは?
「……ポーター歴は?」
がぶりと肉を噛みながら、男は片手で「6」を示す。
6年か、思ったより浅いな。だが、迷宮が発見されたのは昨年。それを考えれば、経験は十分だろう。
依頼内容や報酬分配、出発時間などを伝え交渉。男は渋々という感じでうなずいた。最後に名前を聞くと、面倒くさそうにロハスと名乗った。
テーブルへ戻り結果を伝えると、シャルテが不満そうな目でこちらを見てくる。
「うん!うまいなー、このシチュー」
俺は彼女の視線を無視して、シチューの残りを流し込んだ。
翌朝、王都の広場で待ち合わせをした俺たち。時間通りに現れたロハスに挨拶をすると、彼は「んっ……」とだけ返事を返してきた。
──相変わらず不愛想なやつだな
「行こうか」
俺は、肩にクロスケを乗せたシャルテに声を掛ける。こうして、即席パーティーの三人と一匹は王都を後にした。