第43話 最後の記憶
「どうして、どうして動かないの!」
痺れて動かない自らの身体に鞭打って動かそうとしても動かない、そして次第にその喋る舌も痺れて呂律も回りにくくなった
「なひ、を…」
鋭い眼光でフィオラを睨みつけるも彼女も身動き一つ取る様子もなかった、ただ鎖に縛られて宙に張り付けられているだけ。
「これで…時間を…」
部屋中に満たされた痺れの毒はフィオラの体には影響しないようだが彼女は魔力も血も空っぽになってしまった
【もう動けないや、回復するまでの時間を稼げ、たとえ部屋に入られても痺れさせて動けなくさせればいい。】
【幸いにも鎖がこれ以上私を締め付ける様子はない…むしろ楽なくらいまで緩んでる。】
【あと2時間、1時間、それくらいあれば身動きが取れるくらいまでは回復するはず。】
フィオラはゆっくりと呼吸を整えてながらその目を閉じた
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20分後
重い鉄の扉が突然叩かれたが誰もそれに応えることは出来なかった
その部屋の中に居るフィオラとリアは気を失っており、唯一意識のある8番と名乗った女性も全身が痺れて身動きを取れなかった
頑張って口を開けようとするもまるで自分の体ではないようにピクリとも動かなかった
ギィィと重たい音を立ててゆっくりと扉が開かれると扉の向こうにはボーゲン、ヘイス、イザークがいた
「倒れてる!?」
イザークが中の様子を見てすぐさま部屋の中に入ろうとするもボーゲンにすんでの所で肩を掴まれて止められた
「よく見ろ。この部屋なにかおかしいとは思わないか?」
冷静に部屋の様子をみるボーゲンをみてイザークは一歩扉から下がった
「強いて言うなら…そこの棘のある赤い茎に捕まっている見たことのない女性。彼女だけは意識があるように見える」
「それに2人が鎖に縛られて…気絶している…?」
ヘイスが部屋を見渡して見解を述べた
それにボーゲンが続けた
「あぁ。恐らく2人を捉えた後。あの吸血鬼の反撃を受けたのだろう。」
「あの茎からは血の匂いがする。」
「ヘイス」
「はい」
ボーゲンとヘイスはその一瞬のやり取りでなにをすべきか判断した
"水の手"
手の形を成した水が部屋中に張り巡らされた茎を剥がして一箇所にまとめていく
全ての茎を集めると部屋全体が小さな赤い粒に覆われているのがイザークは見てわかった
「茎で赤く見えてただけじゃなかったのか…」
「恐らくは花粉のようなものなのだろう。」
「花粉なら私の出番ですね」
"雨"
部屋の中に満ちていた赤い粒子のようなものは落ちてきた水滴にくっつき地面へと落ちていく
「これで全部ですね。」
ヘイスが中の様子を見てもう安全だと判断した
「よし。イザーク行ってくれ」
「え!?俺ぇ!?」
「お前なんの役にも立っていないだろう」
「わかってるよ!わかってるけど辛辣!ひでぇな!」
「どちらでも構わないから早く確認しろ」
ボーゲンの注意によって折れたイザークが部屋の中へと入っていく
「はぁ、仕方ないなー…」
部屋の中に入ると特になにも身体への異常は感じられなかった
「特に大丈夫そうだな…」
「そうか…」
続いてヘイスが入り、最後にボーゲンが部屋へと入ってきた
「8番。」
彼のその一言に倒れている女性は痺れが収まってきたようで口が聞けるくらいには回復していたのか軽く口を開いた
「す、み、せん。」
「しび、て」
「痺れる毒か…そんな技もあったのだな。」
動けない彼女を横目にボーゲンは拘束されて意識のないフィオラに近づいていく
「こんな子供の吸血鬼が、ねぇ…」
「とりあえず俺はこの人を病院へ運びますね」
「あぁ頼む」
「待って、くだ、い」
「このメモ、を」
ボーゲンは彼女の手に握られていた一枚の紙を受け取ってそう言うとイザークは地面に倒れて動けない彼女を抱えて部屋から出て行った
受け取ったメモには震える字で'両者適正あり'と書かれていた
「なるほどな…」
そのメモをポケットにしまうとリアとフィオラの前に立った
「お前たち2人か…」
「2人をどうなさるおつもりですか?」
後ろから怪訝そうにヘイスが見つめてきた
「お前は子供が好きだからなぁ。こんな状況だとそんなにもなるか…」
「えぇ。たとえ2人に罪があろうともここまでするのは許せません。」
「まぁまぁ落ち着きなさい。これ以上酷い目には遭わさないさ。私は2人の罪…吸血鬼であることと。重要地域への不法侵入、これらを許そう。」
「どういうことです?」
不思議そうにしながらも、ヘイスは腰の剣に触れようとしていた手をはなした
「2人を国際学園への留学生にする」
「急になにを!?」
ボーゲンのその言葉にヘイスは耳を疑った
「この2人には'可能性'がある。優秀な人材を育ててなにか変かね?」
「この子達なら……と思えるんだよ。」
「吸血鬼に排斥的なのはこの国くらいだ。ならば国外に送った方が安全であり、優秀な成績を残して偉業を成せばこの国を変えて吸血鬼排除の法律を無くすことだって不可能じゃない。」
【こうは言っているが、本当の目的は…】
「学園にリーナスの派閥を作りたいのでしょう?」
ボーゲンは意表を突かれたように目の色がはっきりと変わった
「うーん。気づいたのか…」
「えぇ、学園に影響力を持つことによって国際的にも名を轟かせ、かつあそこの世界最新の設備の技術の獲得なども視野に入れているのでしょう?」
「はっはっは、!」
「いやぁ…惜しいな、君も優秀だがもう大人になってしまったからな…」
「まぁ正解だ。あの学園は入学することすら困難であるから一般人にはそうそう目指せない場所…」
「リーナスからも毎年数十人、若者が受験するが合格するのはせいぜい5人程度。」
「金を払って合格する者が数十人程度」
「派閥を作るには2つの方法がある。何十人もの同郷の人間が集まって作るものと、圧倒的な力で作るか…」
「我々には前者は国の教育方針的にも到底出来ないだろう」
「金であそこに入るのは金持ちが多いからな、そんな自分の利益にならなそうなのはしないだろう」
「そこで…この2人には後者をやってもらう。」
「吸血鬼の娘には"血の権利"を譲渡し吸血衝動の抑制と無限の血を、小僧の方はすでに良いものを授かっているようだから…そうだな…」
ボーゲンは顎に手をあててジロジロとリアのことを見て悩み始める
「まぁ本人から聞くのもいいか…」
「あなたのやりたいことをわかりました…しかし私は…」
「ヘイス・クライン。」
ヘイスの言葉を遮るようにボーゲンは彼の名前を読んだ
ボーゲンのその表情は喜怒哀楽どれでもない…ただ…
黙って従え
と言っているように見えた
「2人には国際学園の入学試験をまず受けてもらう。」
「もちろん金を払うつもりはないのであの試験方法で行ってもらう」
「合格すればよし。不合格ならばそれぞれの罪で処罰、娘は死刑…小僧は良くて数十年は投獄だろう。」
「合格した後は卒業までに派閥を作ってもらう。出来れば解放。出来なければ処罰。以上だ」
ヘイスは言葉を口に出したかったが、自らの立ち位置を理解もしていた。口に出したくても立場がそれを許してくれなかった
そして2人の子供たちは次に目を覚ます時、次の物語が始まる…そんなことを知らぬまま、宙に縛られて眠っていた。
これにて吸血鬼の少女編は終わりになります。自作はThe world of rights本編となります。
詳細と前日譚についての話は活動報告をご覧ください




