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第42話 紅薔薇

遠くから声が聞こえる。


物覚えがついてから何度も聞いてきた声だ。


優しく私を包み込んでくれる温かな…


「はっ!」


小さな赤い目の彼女は小さなボロ小屋の中に置かれた硬いベッドの上で目を覚ました


「起きた?フィオラ。」


大きなバスケットを手に持った浅紫色の長い髪をした女性が質素な服を着て扉の前に立っていた


「もう9時よ?お寝坊さんね。」

「まるであの子みたい…」


後ろの言葉は寝起きであまり頭が冴えておらず聞こえなかったが、私は瞼を擦ってあくびをしながら背伸びをした


「お腹すいた…」


お腹を鳴らしながらベッドから降りて椅子に座りテーブルに突っ伏した


「はいはい。朝ごはんにしましょうねー」


彼女はバスケットを自身の散らかっている作業机の脇に置いてその中から2つの林檎を取り出した


「今日はなにー?」


フィオラは顔をそのまま彼女の方に向けた


「今日はアップルパイにしましょう」


そう言うと彼女は引き出しの中なら3枚の魔法陣の描かれた紙を取り出した


1枚目の紙の上から彼女は指先から一滴。血を垂らした


するとその陣は光り始め、やがて生地へと変わった


2枚目の上には林檎を置いた、そちらの紙には血を垂らさずに光り始め、カットされた林檎になった


彼女は生地を伸ばして林檎を並べた、そして網目状にも生地を伸ばして3枚目の紙の上へと置いた


最後に食べ物にかからないように紙の端に伸ばしてある一本の線の上に血を垂らすと、一瞬で火がついてアップルパイはものの数秒で完成した


林檎の甘い香りが段々と近づいてくるとフィオラは顔を上げて涎を垂らした


目の前に置かれた美味しそうなアップルパイに手を伸ばそうとすると彼女に止められた


「ちょっと待ってね、今切るから。」


彼女はポケットから一枚の手袋を出してはめた、そして人差し指でパイの真上からなぞるように指を動かすとたちまちにアップルパイは食べやすいようにカットされた


手袋を外して再びポケットの中へとしまうと彼女もフィオラの向かいの席に座って手を合わせた


「それじゃあ、いただきます。」


「いただきます!」


それに続いてフィオラも手を合わせて挨拶して一切れを手に取り、口の中へと運んだ


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


また声が聞こえる、今度は近い。


私が大好きな何度も聞いたことがある声。


私を認めてくれる、愛してくれる…


目を覚ますと目の前には苦しみもがくリアが縛られていた


「リア!」


体を動かそうとするも自らも縛られているとわかるとフィオラの周りに2本の剣が出てきた


"血の剣(ブラッディソード)"


放たれた剣はリアの鎖に触れるも、すぐに無へと帰してしまった


もう一方は茶髪の女へと向かって放たれるも、後ろに距離を取られ、彼女の衣服を掠めるだけで避けられてしまった


「はぁはぁ…」

「助かっ、!」


安心したのも束の間、リアの鎖は彼女が引っ張っていないにもかかわらず、ひとりでにその体をきつく締め付けていった


「あ゛ぁっ、!」


肋骨が悲鳴をあげているのがわかる、全身縛りつけられて鎖が2人の肉に食い込んでいく


「どうしてって思ってるでしょ?」


彼女は2人を嘲笑しながら近づいてくる


「これは"拘束の陣"に"不干渉の陣"を組み合わせた合成魔法陣。あなたたちみたいな子供にはまだわからないわよねー。」

「これでも最近の技術なのよ?」


「それよりもあなた。なかなか面白いことしてたわね」

「突然現れるなんてどうやったの?」


リアの顎を人差し指で突きながらそう問いかけるも、彼の状況はそれどころではなかった。


【痛い痛い痛い痛い痛い、!】

【脱出、!抜け出さなくちゃ、!】


身体を無理矢理動かして暴れるも、それはただ更なる苦痛を自らの身体に与えるだけだった


「見苦しいわね。」

「もうそろそろ眠ってもらいましょうか、ふふっ、君は価値がありそうね。」


やがて首に達した鎖が段々と意識を遠ざけていく。ぼんやりと霞んでいく視界が最後に捉えたのは彼女の笑顔だった


「リ、ア。起きて。助けに、きてくれたん、でしょ?」


痛みに耐えながら絞り出した声も彼には届いていないようだった


「もう落ちたわよ」


彼女の冷たい一言にフィオラは頭が空っぽになった


唯一の希望の光が消えて、自らに残ったのはリアの血だけだった。


あと一撃。威力の強い魔法は出せるだろう。


でもその後は?


魔力も血も底をついて回復するまでの数時間の間倒れるだろう。


その間に他の人がこの部屋に入ってくる可能性はおおいにある。


私たちの旅がここで終わる…


初めてリアに会った時、まるで彼は幼い頃に読んでもらった英雄のようだった。

困った時や苦しい時に助けてくれるかっこいいみんなの英雄。

私があの村の人たちに遅れをとって斬られた時も、血が欲しくて理性を失った時も、リアのお父さんに拘束された時も、未来の信徒たちとの戦いの時も、テイルさん、エヴァンさん、ハスミたちが殺されて居なくなった時も、いつも私を助けて慰めてくれた。

今だって私のためにここまで来てくれた。


「今度は…」


首に鎖がまわり、息も出来なくなり、掠れた声で呟いた


「私がリアを助ける番だ!」


フィオラの瞳の赤さがいつもよりも紅くなり、その言葉に8番と名乗った彼女がフィオラの方を向く


"紅薔薇ノ静寂(ローズサイレンス)"


フィオラの周りに無数の血液の塊が漂い。それらは棘を持った茎へと変貌して8番を縛りつけ、茎のあちらこちらからは紅い薔薇が咲き乱れその花弁が崩れていくように部屋中に欠片が広がった


「最後の足掻き?まぁこの魔法陣の不干渉を超えるものなのは確かなようだけど、棘以外に対して威力もないみたいね?」


彼女が絡みつく茎を引き剥がそうと手を茎に伸ばそうとするも、彼女の手が動くことはなかった。

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