第39話 君の元へ
フィオラのいる場所とは違う部屋の一室、それなりに豪華な机と椅子が並ぶ貴族が使うような待合室でエイジとヘイス、そしてリアが待機していた
「ヘイス、まずは謝らせてくれ。すまなかった。」
エイジと呼ばれた騎士は向かいの椅子に座りながら深々と頭をヘイスに向かって下げた
「ちょっと!頭を上げてください!」
ヘイスは焦ったように席を立って彼に近づく
「いや、仕方がなかったとはいえ、お前に剣を向けたんだ!」
「あの人が見てる前でなら仕方がありませんよ…」
この国では大きな権力が2つある、国王と裁判所
裁判所は法律を制定し、法律に基づき争い事を解決する司法権を有している
そして国王は政治を行う行政権、外国との関わりに関する外交権を持っている
裁判所内には法律を制定する立法会という機関が存在する
立法会の人数は貴族が30名、裁判官30名、国民審判60名の計120名と裁判所長官である
国民審判は5年に一度、王都内外から立候補者を募り、国民による選挙を行っている
立法会で制定された法律は国王の横暴を未然に防ぐためにも行使される
騎士団とは国家の存続と安寧を行うための国王と裁判所の両方に属する公的な機関である
騎士団は国家と裁判所の命令を執行する義務【命令を出すのは国王と長官のみ】があり、これを拒否することはもう一方の権力によって棄却状を発行されなければならない
なので騎士団は国王と裁判所長官の両方に好印象を持たれなければ後々に厄介なことになるとわかっているので先程のおじさんに逆らうことはできないのである
「そう言ってくれると助かる…まぁ無茶な命令は拒否することができる命令拒否権が承認されたらしいから発効される1ヶ月後までの辛抱だ。」
「でもそうそう無茶苦茶な命令もきたことないですけどね。」
「まぁ事前予防的な意味もあるだろうからな…」
「事前予防?」
「あぁ…お前は王都を出てたから聞いてないのか、」
「実はな…国王が代替わりをすると発表したんだ」
「なっ、!50歳ほどの筈ですが…あと10年は続けるものだと…」
ヘイスは席についてその話を落ち着いて聞き始めた
「なぜかはわからないがオルカル王は王位を退くらしい」
「そして新たに第一王女のグラシア様が王女となり王位を継承するとのことだ」
「王位継承日はグラシア様の誕生日の次の日らしい」
「なるほど、ではあと1ヶ月後…時期が重なりますね。」
「そうだろ?俺は一回グラシア様を見たからわかる。あの方は表面上は笑顔で美しい方だが、ヴァルダムはそれが偽物だと直感で感じたらしい…」
「まぁ。あいつの勘は当たるからな、第一席なわけだし、立法会に新たに国王の横暴を予防するための法律案を進言して、それが見事に通ったってわけだ。」
「ヴァルダムがですか…アイツは少し抜けてる所はありますが天才ですからね。そういうこともあるでしょう。」
その時、扉が軽くノックされた。
「エイジさん!騎士団本部から連絡です!私、ロゼールと共に即座に王都南西の森で確認された未来の信徒幹部の可能性がある人物を探索せよとのことです!」
「わかった。早急に出発するそ!」
「それでは失礼する。まだ聞きたいことがあるならまた今度話そう」
そう言うと彼は足早に部屋から退出すると廊下を駆ける音と共に去っていった
【未来の信徒って確か…オロバスとかプルソンの組織か…】
【いやいや、今はそんかことより…】
「フィオラはどこに連れてかれたんでしょう…」
誰もいない特別な待合室の中、横並びに座っているリアは隣でなにやら考えを巡らせているヘイスに話題を変えるように話しかけた
「……」
「ヘイスさん、?」
聞こえていなかったようなので顔を覗いて名前を呼びかけるとようやく気づいたようで
「すまない、考え事をしていた、」
「えーと、なにかな?」
「フィオラはどこにいるんでしょう…?」
「あぁ、それならさっきあの3人の騎士から聞いた」
「今は取り調べ室で取り調べを受けているようだ…」
「そうですか…」
居場所を聞いてもリアは落ち着いてはいたが、やっぱり不安で心配でどうにかしたかった
「私からも聞きたいことがあるのだが、いいか?」
その声に反応してまたヘイスに顔を向けた
「えぇ、構いませんけど…」
「単刀直入に言おう、フィオラ、彼女は本当に吸血鬼なのか?村であった時はコーティスさんにエルフの血が入っているとだけは聞いたのだが…。君は彼女と長い間一緒にいるとも聞いている、君は彼女の正体を知っているんだろう?」
不安そうに聞いてくるヘイスの顔はこれまでにない疑いの目をリアに向けていた
「確かに僕はフィオラと出会ってもう2年になる頃です。」
「でも…」
そう言いかけた途端、建物が大きな音をたてながら強く揺れた
「うわっ、!」
「なんだ!?」
その揺れはすぐに収まったと思った
「痛っ、!」
リアはバランスを崩して倒れそうになったのを足を踏み出して耐えた瞬間、足裏になにかが刺さった
ゆっくりと足を上げると床から真紅色の棘が突き出ていた、そしてそれはすぐに塵と化して消えていった
【この色は、フィオラの…】
「なんだったんだ、地震か?」
「って、!おい!どこへいく!」
ヘイスの制止を振り払ってリアは部屋の外へと飛び出した
【あの棘の独特な匂いはフィオラの技だ、!】
【一体なにをしてるんだ!?】
廊下を走っていると後ろからヘイスが追いかけてきた
「待て!どこへいく!?私たちはあの部屋で待機するよう言われただろう!」
その言葉を振り払うようにネックレスの宝石が緑色に光り、リアは足裏から烈風を出して加速していく、すると廊下の突き当たりから茶髪の長い髪を後ろにまとめた騎士が剣を構えて飛び出してきた
「イザーク!傷つけるな!止めるだけでいい!」
「ヘイス…無茶言うなよ?こんな魔法使いこなすガキそうそういないぜ?」
「まぁ、子供を痛ぶる趣味はないからな、お前の言う通りにしてやるよ!」
"鉄壁"
廊下を鉄の壁が隙間なく塞いでいった
「止まれ!リア!」
ヘイスの言葉を聞く様子もなく、リアは掌からからも
烈風を出してさらに加速していく
【ぶち破れ、!!】
"炎槍"
右手で作った炎の槍が放たれ、冷たい鉄の壁へと向かっていく
それらがぶつかった時、炎の槍は爆発して鉄の壁に人1人入れる穴を開けた
「止めろ!イザーク!」
ヘイスの鋭い叫び声が廊下中に響き渡った
「おいおい、マジか、止まらないのか…」
「これならどうだ!」
"鋼の兵隊"
4人の鎧を纏った兵隊が地面から生まれた
「アイツを拘束しろ!」
イザークの指示によって4体の兵士は動き出し、素早い動きで突っ込んできたリアの前に立ちはだかった
【このまま吹き飛ばす!】
そしてそのままその4体の兵隊を加速しながらの飛び蹴りで道を切り開いていく
「なっ、!」
しかし吹き飛ばしてスピードが落ちた瞬間…
兵士を壁にして見えないように彼は接近してきていた
「峰打ちだが気絶くらいはしてもらおうか!」
剣の平らな面が瞬き一つする間に横腹へと差し迫ってくる
「っ、!クレア!」
「わかってる!」
"乱風"
危機一髪でクレアの力を借りて剣と体の間にウィンドローテを生成した
剣とウィンドローテがぶつかり合ったとき、剣は角度を変えて真上へと持ち上がった
「なんだ!これは!」
捉えたと確信していたイザークは突然自分の意思とは裏腹に真上へと持ち上がった剣をみて驚愕した




