第36話 またねの日
時刻は14時ちょうど。
村の入り口では既にヘイスやリン、何人もの兵士が馬車へと荷物を入れる準備を終えてその荷物の確認をしている様子だった
コティーズの面々と2人は軽く談笑しながらそこへ向かっていっていた
「お待たせしました!」
リアとフィオラは駆け足で積荷の確認をしているヘイスの元にいった
「いや、時間ピッタリだ。悪いがもう少し時間がかかるからコーティスさんたちに別れの挨拶をしてきた方がいい」
手に持っているリストに次々とペンでチェックを入れながらそう言った
「いえ、結構です。」
そのリアの言葉に思わず2人の方を見たヘイスは目を見開いた
2人はコーティスたちを見ながら笑っていたからだ
「これが最後じゃないから…」
「'さよなら'じゃなくて'またね'じゃないと。」
フィオラがそう穏やかに笑っているうちに確認が終わったようで1人の兵士がヘイスの元へと歩いてきた
「クライン様。確認終わりました。」
「わかった」
「それではこれより王都へ帰還する。合図を頼む。」
「了解!」
そう言うとその兵士は先頭の馬車へと行き大声で呼びかけた
「これより!王都へ帰還する!出発!」
その声を合図に次々と馬車が走り始めた
「2人は私と同じ馬車に乗ってもらう」
「わかりました」
ヘイスに促されるまま真ん中辺りの馬車へと乗り込んで動き出すと同時に外からいくつもの声が聞こえた
「お前ら!元気でなー!」マルタ
「2人とも!楽しかったよー!」マヤ
「体調には気をつけろー!」ロノア
「また会いましょー!」サイラ
「リア!フィオラ!お前らはどこにいても俺たちの仲間だ!2人ともまた会おうぜ!」コーティス
5人は誰も悲しむような表情を見せることなく馬車を村と外との境目まで追いかけた
「はい!またどこかで会いましょう!」リア
「みんな!ありがとうー!」フィオラ
2人も馬車から顔を出して手を振りながら答えた
7人はお互いが見えなくなるまで手を振り続けたそしてやがてリアとフィオラの姿は遠くへと見えなくなっていった
「ふぅ….行っちゃったな。」
「そうね…たった数ヶ月だけど、されど数ヶ月って感覚だわ…」
馬車の出発した方向を見ながらコーティスとサイラの2人は余韻に浸っていた
「不思議な2人でしたね」
「うんうん。だけどちゃんと年相応の子達でしたよ」
その後ろから同じようにマルタとマヤも感傷に浸っていた
「お前ら。ひとときの別れを惜しむのは良いけどコイツらの方も…」
ロノアは1つのリュックを残った右腕を使って抱えていた
「どこかで眠らせてやらないとな…」
「そうだな…どこか綺麗な景色の所に埋めてやろう…」
コーティスはそのリュックに近づいてそっと撫でた
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遥か先まで変わり映えのない真っ白な空間の中で2人の魔女は相対した。
「久しぶりバルバトス」
最初に言葉を発したのはアイスシルバーの髪ライトグリーンの目をした綺麗な女性だった
「なんだよ。なにかアタシにようかよ?ソロモン。」
ソロもの挨拶に真っ赤な髪と目をした男勝りとも言えるような覇気をもった彼女は不機嫌そうにそう答えた
「バルバトスは相変わらず私のことが嫌いのようだね」
彼女はにこにこしながら、虚飾のような笑顔を絶えずに魅せていた
「あぁ…そうだな。アタシはその見下しているようなアンタのその気持ち悪い笑顔が嫌いだ…」
【無理して笑いやがって…】
そんなソロモンが赤毛の彼女は気に食わないのか語尾も段々と強くなっていった
「はははっ…そんなこと言われるなんて心外だね」
「それよりも君に1つ言っておくことができたのよ」
ソロモンは愛想笑いをした後…瞬時にその雰囲気を切り替えまるで別人のような語りになった
「言っておくこと?」
「えぇ…。君が十何年前に拾った子供達…」
そう話始めたが案外彼女が興味を持つ様子は無かった
「あの2人がどうかしたのか?」
「片方と会ったよ」
「それがどうかしたのか?」
ソロモンは思い寄らなかった冷めた反応に疑問を持った
「あら?意外と食いつかないようね?」
「アイツらはもう自立する年頃だろ?アタシは別に保護者じゃないんだ」
「その子の記憶を一部解放したと言っても?」
腕を組みながら興味ないを貫いているバルバトスだったが'記憶の解放'という一言をキッカケに目を見開いた
「なに勝手なことしてんだっ!」
バルバトスは目にも止まらぬ速さでソロモンの両肩を掴んだ
「解放したのはどっちだ!?"空間"か!?"調律"か!?」
鬼のような形相で迫る彼女の気迫を意にも返さずにソロモンは肩を掴んでいるバルバトスの両手を振り払って服を整えた
「とりあえず落ち着きなさい」
その言葉に舌打ちをしながらもきちんとまた腕を組み直して「わかった」とだけ言った
「出会ったのは"空間"の方…」
「そして"空間"の権利も解放されてその権利を行使しているところも見たわ」
「それで…ソイツは今どこに?」
「あら?興味が出たの?でも残念…」
「残念?」
「だってあの子…恋人居るわよ?」
「そういう興味じゃねぇよ!」
バルバトスは眉間を寄せながら頬を赤らめることもなくそう叫んだ




