第32話 リアの感想/ヨルギスと初恋
コーティス、ロノア、リア、マルタは階段を降りて一階に行こうとすると丁度マヤの部屋から出てきたサイラ、フィオラ、マヤと出くわした
「お?丁度よかった。これからみんなで最後に外で外食しようとしてたんだ」
「探す手間が省けたな」
「そうだったの?それじゃあもう私たちは行けるからそのまま行きましょう」
コーティスとサイラが話している間、ずっとフィオラはマヤの陰に隠れていた
「?フィオラ?どうしたの?」
リアがそのように聞いてもフィオラはマヤの服を掴む力が強くなるだけで全く出てこなかった
「ほら、とってもかわいいんだから早くお披露目しなよ!」
マヤが後ろにしがみつくフィオラにそう言うとフィオラは服を掴む手を弱めた
「お披露目?」
「まぁまぁ、リアくん?これから見る光景に驚いて気絶しないでね?」
「じゃーん!こちら、NEWフィオラちゃんです!」
するとマヤの陰からフィオラがこれまでとは違う髪型に変えて恥ずかしそうに頬を赤らめ、もじもじしながら歩き寄ってきた
「ど、どう?か、かわいい…?」
これまでにない可愛さにリアは脳が一瞬オーバーヒートした
「え、反則じゃない…?」
「は、反則!?」
フィオラはガーンとして落ち込んでしまったが、その言葉の真意にはまだ続きがあった
「可愛さが…反則級の可愛さしてる…」
「さすがリアくん!センスある〜!」
「どこら辺が良いとか言ってみて」
マヤにそう言われるとリアはフィオラに急接近し、フィオラは目がぐるぐるしながら恥ずかしさで真っ赤になっていた
「そうですね、まずなにより変わったのはこの結んだ後ろ髪、結んだことによって見れるようになったうなじの色気がとてつもないです」
「そして次に髪全体にカールや外ハネという動きが加わったことですね、これまでとは違い、きちんと計算された完璧な具合でこれ以上似合う人は居ないと言わせるような圧巻さです」
「さらにこの前髪、前までの長い印象を残しながらも丁度いい具合までカットしたことによって前よりも赤い目が見えるようになり、髪の白色と目の赤色のバランスが素晴らしい」
「最後にこれら全てが合わさったことで生まれるかわいいとクールの二刀流!フィオラの表情次第で2度も楽しめる!今はかわいい系になっていますが、キリッとした表情に変えればもうすぐ14歳とは思えないようなかっこよさが出てくると思います!」
「ぷしゅ〜…」
フィオラは限界を超えたのか、体から空気が抜けたように倒れてしまった
「さっすがリアくん!わかってる〜!」
「お、おう、そうなのか…」
リアの豹変ぶりにロノアは舌を巻いていた
「はぁ…よし、そろそろ行くぞ」
コーティスがそう言ったことにより、全員は階段を降り、宿屋を出て、その村の飲食店へと向かった
「かわいい」
「うぅ…///」
「もうわかったから///」
そう言いながら2人は手を繋ぎ、みんなの後について行った
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ナーラの町
海のように青い髪と目を携えた女性がある宿屋の一室の扉を開けた
「ただいまー」
「先生!おかえりなさい!」
ヨルギスは外へ買い出しに行って帰ってきていた
「よしよし、まったく良い子だなぁ〜、ノースは!」
「わっ、ちょっ、!」
ノースはヨルギスに頭を激しく撫でられながらも満更ではないようだった
「なーに?いいじゃないか少しくらい・・」
ノースを撫でる手は次第にゆっくりと優しくなっていき、遂には頭の上で手を止めてしまった
【こういう生活になってどれだけ経ったんだろう…】
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私は王都リーナスで生まれ育った、それなりに裕福な家庭で、貴族とまではいかないが、お金で困るなんてことは普段から全く起きなかった
家族は私と弟、お母さんにお父さんだった
あれは私が15歳の時だった、縁談の話が入ってきたことからだった
父は貴族の地位を喉から手が出るほど欲しがってた、だけど私には当時、両親の目を盗んで密かに付き合っている騎士様が居た
彼とは私が執事を連れて買い物をしていた時に出会った。
その露店の通りに突然、暴走した馬車が突っ込んできた、あまりに急だったので、執事と私は暴走していた馬車に気づくことができず、反応が遅れてしまった
興奮した馬がとてつもないスピードでその通りを突っ込んできて、何事かと後ろを振り向いたらまさに目の前に我を忘れた暴れ馬が荷物を振り落としながら体当たりしてきた
「きゃっ、!」
私は思わず目を瞑ってしまった
【なにも、感じない…?】
【まさか、死んじゃったの…?】
「彼氏もできたことないのに!」
現実を直視できず、ついそんなことを叫んでしまった
「えっと、大丈夫?」
聞いたことのない声にハッと目を開けると、目の前にはひっくり返された馬と積んでいた荷物を回収する御者、そしてなにより、私の救世主、1人の騎士がいた
「大丈夫、!えっと、その…ありがとうございます!」
「いいんだよ気にしなくて」
「民を守るのが俺たち騎士の役目なんだから!」
「私からもありがとうございます。お嬢様だけでなく私も助けられるとは…私がもっとまわりを警戒していれば…」
「そんなに落ち込まないでくださいよ」
「仕方のないことじゃないですか!」
そんなまっすぐな目をした彼に、私の心臓は鳴り止むことを知らずに、好きを叫んでいた
初めての感覚、胸が熱くなるような、そんな気持ちを私は抑えることができなかった
「好きです!私とお付き合いしてください!」
言ってしまった、彼は今、勤務中の騎士なのに…
だけど私は後悔していなかった、この気持ちを、彼に伝えたかったから…
「えっと、その、どうしたんですか?急に…」
「お嬢様…?」
「、!」
ヨルギスは恥ずかしさに耐えきれなくなり、これまでに出したことのないようなスピードで遥か遠くへと逃げて行ってしまった
「え?ちょっと待っ!」
その騎士が全てを言い終わろうとする頃には彼女の姿は既に彼方へとあり、声が届くはずもなかった
「お嬢様ー!!お待ちください!!」
執事も彼女のあとを追いかけて走っていってしまった
「なんだ?なんだ?まだ騎士始めて1ヶ月で告白だなんて!この色男が!」
近くで一部始終を見ていた1人の騎士がヨルギスに告白された騎士のことを肩を一方的に組みながら茶化した
「えー…なんだったんだ?マジで…」
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ヨルギスは通りを全速力で無我夢中で走っていた
そんな彼女を避けるように通行人は道を開けたので、さらにその後から執事もお嬢様ー!と言いながら追いかけていた
「はぁ、はぁ…!」
【どうして私あんなこと言ったの!?】
【初対面の人に対していきなり告白って!!】
【でもなぁ…】
ヨルギスは走りながら心臓にそっと手を当てると走っているせいもあるだろうが、それでも走る前からずっとこの心臓の鼓動は力強く、そして速くなっていた
【これが恋というものなの!?】
【胸が、苦しい…!】
【ん?苦しい?】
「ハァハァ、!」
バタン!
「きゅ〜〜…」
その瞬間、ヨルギスは体力不足で道のど真ん中で倒れて気絶してしまった




