第31話 フィオラのかわいい化計画
応接室を出たフィオラ、サイラ、マヤの3人はマヤの部屋の中に居た
「えっと?これからなにをするんですか?」
フィオラは困惑しながらもフードを外して長い白い髪を見せながら木製の椅子に座らされていた
「さっきも言ったでしょ?イメチェンよ!」
サイラとマヤはシザーとセニングを両手に、その近くの机にはスライドシザーやブラシなどなど、どこから買ってきたのかわからないものまで用意してあった
「確かに2人は綺麗な髪型だけど、まさかお互いに切ってたの?」
フィオラは白いクロスを纏わされながら聞いた
「そうよ!それでどうせならフィオラちゃんのこの綺麗な白い髪も切ってイメチェンしよう!って思ったの!」
「ね?サイラさん!」
「そうね、これからしばらくは会えなくなるんだもの、私たちからのプレゼントだと受け取ってちょうだい」
そう言いながら2人はフィオラの髪を濡らして黙々と髪を切っていく、床には白い髪の毛がパラパラと落ち、前髪を切るために髪を持ち上げられて髪の毛が目に降りかかるため、目を閉じてフィオラはドキドキしながらも、ワクワク感を感じていた
【どうなるのかな。私】
【2人のことは信用してるけど…】
「フィオラ」
「ひゃい!」
色々なことを考えていたフィオラは突然サイラに名前を呼ばれて変な返事をしてしまった
「どうせならこの長い白い髪を活かして最後に後ろに結んでみたいんだけど…」
「は、はい!よろしくおねがいしますっ!」
「!」
フィオラは目を開けると目の前の鏡にこれまでとは違う、しかしながらも所々に前までの面影を残していた姿があった
「まだ終わりじゃないわよ!」
"熱手"
「この魔法便利なのよねー。外でもヘアセットできるから。フィオラにもあとで教えてあげるわね」
サイラは指を熱し、その指でフィオラの髪にゆるいカーブを入れていく
【そんな魔法があったの!?】
フィオラがまだ見たことのなかった魔法に驚いていると
「フィオラちゃん?前髪どう?これまでよりは短くして、一応目の下くらいの長さに残したんだけど…」
「うん、かわいい。」
フィオラは照れくさそうに髪の間から覗かせる赤い目のように少し尖った耳を赤く染めた
「あとはこの紐で…っと、!」
「できたわ、!」
これまでより前髪も短くし、後ろ髪も紐でまとめて結んでいて、かわいくなった
「フィオラちゃんはミステリアスなところも魅力だと思うからそこを残しつつ、後ろで髪を結ぶことでクールな感じも出して,なによりこのかわいい顔とセットで表情を変えるだけでとてもかわいくもなれるし!イケメン顔負けのクールさも出せる!」
「はっきり言って完璧だわ!」
「耳はこれまでとは違って見えちゃうけどドワーフとかエルフの混血って言っておけばまぁ大丈夫でしょ」
マヤとサイラはあまりの出来栄えにガッツポーズをし、そのフィオラの姿をその脳に焼き付けていた
「あの、ありがとう。」
フィオラは2人の熱い視線を浴びながらも照れながら伝えた
「いいのよ。しばらくのお別れの餞別とでも思ってちょうだい」
「そうそう!それにフィオラちゃん、もう少しで14歳になるんだから少しはおめかししなくちゃね?」
サイラとマヤは自分たちも嬉しそうにそう言った
そしてその部屋ではサイラによる"ヒートハンド"の講座が開かれ、3人は最後の時間を楽しんだ
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一方で、コーティスとリア、そしてマルタはロノアが療養している部屋の前へとたどり着いた
コンコンコン
「ロノア。入っていいか?」
コーティスが部屋の扉を軽く叩くと、すぐに扉は開かれた
「入っていいぞ」
ロノアは左腕を失ったが、今はもう包帯も外しているようだった
「お前、ベッドで寝ておけって言っただろうが…」
コーティスは部屋に入りながらため息をついた
「別に傷口はもうフィオラに塞いでもらったからな、別にもう動けるぞ?」
「それでも少しは休んでてくださいっ!」
ロノアがけろっとしながら言うので、マルタはロノアを必死に引っ張って無理やりベッドに座らせた
「それにしても傷口が塞がるとはな、便利な魔法もあるもんだ。」
「コーティス、俺はこれまでそんな魔法は聞いたことがない、普通傷口は包帯とか巻いてゆっくり治してくものだ…」
「あの治す力、俺はおそらく吸血鬼の能力なんじゃないかって思ってる。フィオラは毎回傷を治す時、自傷して血を出し、その血を操って治してた。」
「あの、すみません。」
コーティスとロノアの会話にマルタは気になることがあったのか、割って入った
「ひとつ気になったんですけど、どうして吸血鬼だけはこの国で冷遇されてるんでしょう。」
「どういうことですか?」
「んー。なんていうのかな、ドワーフや獣人は数は少ないけれどこの国で人間と同じように暮らしてるけど、どうして吸血鬼だけは高い知能を持ちながらも討伐対象になるのかわからないんだ。」
確かにこの国には複数の種族が暮らしている。1番多いのは人間。人間だけでこの国の人口の7割以上を占めている
人間以外にはものづくりが得意なドワーフ
動物の特性を持ち、耳や尻尾を生やした獣人がいる
そして最も少ないと言われているのがエルフ、長い耳が特徴的な彼らは滅多に人前に姿を見せず、深い森の中で独自の文化を築き上げている。
そして今はほぼ絶滅してしまった精霊。
そして魔族や魔物と呼ばれる、この国では討伐対象になる存在。
巨人族、巨大な体を持つ。知能は全くなく、本能のままに動く。
亜人族、人と近い形はしているが、色合いや能力、知能などが全く違く、多くの種類がいる。
魔獣、動物の見た目はしているが、凶暴な性格である。
「確か吸血鬼って亜人族に含まれていましたよね?」
「あぁ、そうだな。でもゴブリンとかミノタウロス、知能があるでいうとアンデッドとかだな。こんなやつらを一括りにして亜人族だからな、細かく分けたらキリがないんだろうな」
コーティスがリアにそう説明しているとマルタがこの少し重たくなった雰囲気を変えようと話題を変えてきた
「そういえばリア…」
「マルタさん?どうかしました?」
しかしその気遣いは真っ昼間に話すような内容ではなく、雰囲気は確実に変えられるが、少なくともその話はこの残された数時間という一緒にいられる時間を無駄にしてまで話すようなことではなかった
「2個聞きたいことがあるんだけど、お前ってフィオラちゃんと最後まで行ったんだよな?」
「はぁ!?なんでそのこと…!」
突然のその言葉にリアは顔を赤くしながら動揺した
「いや、昨日の夜トイレに行こうとしてリアたちの部屋の前を通った時に…」
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マルタはランタンの灯った薄暗い宿屋の廊下をゆっくりと歩いてた
するとふと近くの部屋の扉がちゃんと閉まってなかったのか、その扉の隙間から声が聞こえてきた
「はぁはぁ…」
「ふぅ…。」
2人の息が切れる音を聞いたマルタはそっと扉の隙間から見てみたが、角度的に人の姿を確認することはできなかったが、より鮮明に声は聞こえるようになった
「フィオラ、そろそろ寝よう?」
「いや、だ…まだ…。」
そういうと彼女は寝落ちしてしまったのか、すぅすぅと寝息を立てる音が微かに聞こえた
【え?リアにフィオラ…?まさか遂に…?】
【クソっ!俺だって18になってもまだなのに!】
マルタが右手を振り下ろして怒りを自らの太腿にぶつけていると、また部屋の中から2人の声が聞こえてきた
しかし片方はリアの声だとわかるが、もう一方の女性の声は聞いたことのない声だった
「ごめん。クレア…」
「はぁ…別に謝らなくてもいいわよ」
「だって私があなたに言ったんだもの」
「やっぱりクレアが言ってたんだ」
「いい?あなたはもう過去に囚われないでいいの。復讐だってしなくていい。あなたはリアとして今を生きなさい…」
「私もサポートするから」
「そう言ってくれるのはすごくありがたいけど、僕は過去から抜け出すためにももっと過去を思い出して、君を殺したあのクソ野郎を殺すから。」
「そうすることでようやくライアのやり残したことが終わって前に進める気がするんだ。」
「私がもうなんと言おうとあなたは変わらないのでしょうね。」
「だけど、約束して。あの男を殺したらあなたはあなたの人生をちゃんと幸せに送って!」
「うん、わかった。約束するよ…」
「僕とそろそろ寝るよ、おやすみクレア」
「おやすみリア」
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「聞いてたんですか!?」
「ところでそのクレアって誰だ?」
悶絶するリアにコーティスは問いかける
「そうですね、見てもらった方が早いですかね」
そういうとリアは首にかけていたペンダントを外し、その緑色に輝く宝石を見せた
「クレア?なんか話して欲しいんだけど…」
「はぁ?何かってなにを話すのよ?」
「本当に喋った!」
マルタとコーティスは同じリアクションをしながら興味深そうにその宝石を見つめる
「えっと、説明すると。彼女は風の権者でとある事情があってこの宝石に移ってるんです…すみません、詳しいことは僕もわからなくて…」
「そうか、クレアさん?だったか?」
「えぇ、どうかしたの?コーティスさん。」
「リアとフィオラをよろしく頼む」
「ふっ、そんなこと言われなくてもわかってるわよ」
コーティスとクレアの会話が続いた後、リアはペンダントを再び首にかけた
時計を見ると時間もそれなりに経っており、もう12時になる頃だった
「お腹も空いてきたな、よし!最後になにか食べるか!」
「村の飲食店に行くぞ!」
コーティスはウキウキしながら部屋の扉に手をかけた
「俺は…」
ロノアがどうしたらというような困った顔をしながら呟いた
「歩けるんなら少しくらい出ても大丈夫だろ」
「行くぞ、ロノア」
「あぁ!」
そういうとロノアは上着を着てみんなと一緒に部屋から出て行った




