第30話 2人の'意志'
チュンチュンチュン
昨日の夜、窓を開けたまま寝たせいで、外の鳥のさえずりがいつもよりも大きく聞こえ、鳴いていた
「んっーー、!」
リアはベッドから上半身を起こして背伸びをした、上半身起こした影響で布団がめくれてしまいフィオラは寒そうに唸っていた
「ん、しゃむい…」
「あ、ごめん、って、え!?」
リアが見たものは裸のまま寝ていたフィオラだった
「んー、なに…?」
フィオラも起き上がり背伸びをして隣を見ると裸で顔を赤らめながらフィオラをみるリアがいた
「ひゃぅ…」
フィオラはリアのその姿を見て夜にしたことを思い出し、顔から蒸気をだしてベッドの上に倒れてしまった
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2人は着替えて食堂へとやってきた、コティーズのメンバーは全員揃っていたが、いない人もいる
そんな寂しさを抱いて席へと座った
「いただきます」
全員が朝食を食べ始めたが、そこにいつものような会話はなかった
それでも全員、目は前を向いていた。その場で停滞することはないと思わせるようなまっすぐな目
その中で2人、周りとは違う雰囲気を醸し出す者がいた
【なんか…】
【フィオラの顔を…】
【リアの顔を…】
【見れない…!】
【だって、勢いとはいえ…その、まぁ…やっちゃった訳だし…!】
フィオラは目をぐるぐるさせながらただひたすらに目の前のスープをパクピクと口の中に入れていた
【別に嫌いになったとかじゃなくて…なんていうか、なんなんだよこれ、訳わからない…!】
一方でリアも頭を抱えながらもパンを一つ取って齧りついた
【確かに…少しは痛かったけど、そんなことで嫌いになんかならないし…】
【もしかして下手くそだったのか…?】
【いや、だって初めてだったんだから仕方ないだろ…?でも、それしか考えられない…】
【嫌われた…?】
そうしてリアの顔はみるみるうちに青く染まっていった
カチャカチャと食器の鳴る音だけが響いたその席では、いつもよりも早く食べ終わり、コーティスが立ち上がっていつにもなく真剣な顔立ちで話を始めた
「えー、みんな、昨日のことは、すごく残念に思う。」
「俺は悔しかったさ、あの魔女に飛ばされて送られた先には仲間の亡骸、アイツらの最後を見届けることもできないで最後の別れを終えた…」
「俺たちはテイル、エヴァン、ハスミというかけがえのない大切な仲間を失った、だけどな、いつまでも下を向いてちゃいけないんだ…」
「この世界、この無慈悲な世界はとてつもない早さで進んでる。」
「俺たちはそれに適応し続けるしかないんだ、俺たちみたいな弱い奴は必死に、1秒だって無駄にせずに生きていくしかできないんだから…歩みを止めるな。」
コーティスは話を終えると一枚の大きな地図を机いっぱいに広げた
「ということでだ、俺たちには王都はまだ早い。」
「え!?」
突拍子のない言葉にフィオラとリアは同時に机を叩いて立ち上がった
「え?」
「え?」
言葉がハモったのでお互い顔を見合わせるとすぐに2人は顔を逸らして黙り込んでしまった
コーティスはなんだこいつらと顔に書きながらも続けた
「まぁまぁ、お前たちには悪いと思ってるよ、だけどな、昨日で思い知ったんだ、世界は広い、この国でさえあんな化け物どもがうじゃうじゃいるんだ。」
「王都にもアイツらほどじゃないとは思うが、化け物みたいな奴らは当然にいるだろう…」
「だから俺たちは王都には行かない!」
「その代わり、機械都市アルマーナーにいく!」
「まぁ理由はこの近くの王都以外でそれなりに大きい都市だからってのと、そこでまたやり直すってのもあるけど、なによりロノアの義手を作ってやりたい。」
「この都市の職人なら本物の腕の遜色ないほどの義手を作ってくれると思うんだ」
ロノアは失った腕を見ながら言葉を選んでいるのだろうか、ただ黙っているだけだった
「そこで、リア、フィオラ。お前たちに提案がある。」
「この後、ヘイスが話をしにここに来る」
「お前たちは王都に行きたいんだろ?そのために俺たちのパーティに入った、だけどもコティーズはアルマーナーにいくと決めた…」
「お前たち、ヘイスについていけ。」
「アイツについて行けば王都には行ける。そしたらお前たちの目標である王都には行けるだろ?」
そしてようやくリアとフィオラは互いに顔を見つめ合い
「すみません、少し時間をもらってもいいですか?ちょっとフィオラと2人で相談したいです」
「あぁわかった。ヘイスが来るまであと1時間近くはあるからそれまでに決めておいてくれ」
「俺たちといくか、王都リーナスへ行くか…」
「はい」
リアとフィオラは席を立ち、自分たちの部屋へと戻っていった
「本当にいいのか?」
ロノアは去っていく2人をみながらコーティスに問いかけた
「あぁ、元はといえばアイツらは王都に行くためにこのパーティに入ったんだ、王都に行かないとなれば、な?わかるだろ?」
するとコーティスもそれ以上なにも言うことなく自分の部屋へと帰っていった
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フィオラとリアは2人、ベッドに腰掛けて同じ窓に映る空を見て並んでいた
「その…」
おそるおそる話し始めたのはリアだった
「!」
フィオラはその声にビクンとしながらもそろりとリアを見る
「なに…?」
そうしてお互いの表情を見ると2人ともさまざまな感情が見て取れた。不安、恐怖、心配、疑念、次々と出てくる感情はどれも前向きなものではなかった
そんなお互いの感情を知った途端、2人が思ったことは一緒だった
【同じだ…】
【リアは私のことが嫌いになったんじゃない…!】
【フィオラは僕のことが嫌いになったんじゃない…!】
「リア…」
「フィオラ…」
「大好きだよ」
2人はそうお互いに言いながら柔らかなベッドに腰掛けながら抱擁し、リアは頬に流れるフィオラの涙を親指で拭い、唇を合わせた
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「どうしようか…?」
「私は、このパーティが好き、吸血鬼の私を、魔族ってだけで決めつけずにちゃんと私の中身を見てくれたから…」
「だけど…私たちの目的は変わらない。」
フィオラの前を向く目を見てリアは少し笑った
「わかった。行こう」
リアは考える素振りもせず即決したため、フィオラは可愛らしい疑いの目を向けた
「なんかリアって私のいうこと全部聞いてくれない?」
「え?そんなことないと思うけど…」
「そんなことあるよ!だって私のお願い全部叶えてくれるし、些細なことだろうとなんでいうか…」
「自意識過剰って思われるかもしれないけど、私のことを1番に考えて抜いてくれてる気がするんだ。」
「うーん、確かにそうかも?」
「たまにはリアの意志も聞きたいな。」
フィオラはベッドを軋ませて前屈みになるよう手をつき、上目遣いで聞いてきた
「だめ?」
そこまでのあざとかわいい攻撃を受けたリアはため息をつきながらも答える
「はぁ、わかったよ。」
「僕も結論から言うとリーナスへ行くべきだと思う。血の権利が入ったアーティファクト、これがあれば血の衝動を抑えられる、少なくとも僕はそう確信してる。」
「確かに僕もこのパーティは好きだよ、だけど…」
「コーティスたちが自分たちの道を行くように僕たちも僕たちの道がある、一度は交わった道だとしてもそれがずっと重なっているとは限らない。」
「だけど…」
その時、ベッドのシーツに水のシミができた
「あれ…?なんで泣いて…?」
その水はリアの目から頬をつたって流れ落ちた無意識のうちに流れた一筋の涙だった
その一筋がこぼれ落ちた瞬間、瞬く間に大粒の涙がシーツにその分シミとなって現れた
「大丈夫、きっとまた会えるから…」
フィオラは目からボロボロと涙を流し続けるリアを優しく抱き寄せる
「うん、そうだね…。」
【そうだよ、きっと、また。】
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ヘイスがやってくる時間になったので、ロノアは部屋で休んでいるが、コーティス、サイラ、マルタ、マヤ、リア、フィオラは宿屋の応接室を借りて、リアとフィオラは席につき、目の前に座るヘイスと対面する
「さて、さっそく本題に入ろうか。」
「リアとフィオラ、この2人が私たちと共に王都まで行くということでいいのかな?」
リアとフィオラはお互いの顔を一瞬チラッと見て、同時にその答えを出した
「はい!」
「このパーティを離れるのは寂しいけど…」
「私たちにもやらなきゃいけないことがあるから!」
「それにいつかまた会えるって信じてますから!」
2人のその目は覚悟に決まった目をしていた、まっすぐに振り返らないような目だった
「そうか…。」
コーティスは少し寂しそうにしながら後ろから2人の肩にポンと手を置いた
「お前らがそう決めたんなら俺たちからはなにも言うことはないな…」
「そうだよ?俺たちは仲間なんだから」
「いつでも絆で繋がってるんだからな!」
コーティスとマルタは寂しさを抱きながらも、背中を押すような笑顔を作って言った
「そうね。数ヶ月間の短い期間だったけど、あなたたちにはいろいろなことを教えたし、教えてもらったわ。」
「フィオラちゃんもリアくんも、もう子供とは思えないほど大人に見えてくるよ…。」
「私もふたりを見てると元気づけられるし、もっとがんばろう!って思えるけど、そろそろ私も1人で頑張れるようにならなきゃね!」
サイラとマヤも2人の意志を尊重しているようで、その4人は全員、2人の意志をより強固にするための要因になった
「それでは、14時よりこの村を出るのでそれまでに身支度を整えておいてくれ。時間になれば迎えに来よう」
ヘイスはそう言い残すと目の前の紅茶を飲み干し、宿屋を出ていった
「14時か…」
ふとリアが壁に掛けてある時計をみるとその針は9時を指していた
「フィオラ、ちょっときて。」
「?わかった。」
サイラとマヤはフィオラを手招きして呼び出し、耳元で何かを呟くとフィオラは困惑しながらも応接室を出ていった
「よし、それじゃあ。俺たちはロノアのところへ顔出しにいくか。」
「わかりました」
「ちょっと待ってください!俺も行きます!」
残ったコーティスとリア、マルタの3人も応接室を出てロノアの部屋がある2階へと上がっていった




