第29話 悲しみの後の一夜
パチパチパチパチ
戦場から運び出された兵士の死体の山が遺跡のあった場所で仲間の兵士たちやリン、ソウタに見守られながら焼かれていた
刺激の強い、まったりとした死臭が鼻の奥にしがみついて離れない
そしてその隣ではエヴァン、テイル、ハスミもコティーズに見守られながら焼かれていた骨となるまで
その場にいた全員はただだれも話すことはなく、炎の弾ける音だけが鳴り響いていた
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生き残った全員は新しい荷物を大切に抱えながら夕方過ぎ頃にウィンパラへと戻ってきた
彼らの空気を察してその村の住民は話しかけることもなく、宿屋の人も最低限の会話しかせずになにがあったのか聞くことはなかった
コーティスとヘイスが少し会話していたのが見えたが、私とリアは宿屋の部屋へと入って行った
ヘイスが全員1人ずつ部屋の料金を払ってくれたが、リアとフィオラ、ロノアとマルタ、コーティスとサイラは同じ部屋へと入って行った
部屋に入ってそれぞれのベッドにお互いの顔も見ることなく腰掛けている時間が続いた
「ねぇ、」
静寂に耐えきれなくなった私は互いに背中を向け合っているリアに話しかけた
「いや、どうしようもなかったよ・・・」
「失ったものは確かにある、だけど、救えた命もある。」
全部を救うだなんて出来るはずがない、そんなことができるとしたら神様くらいだ
「だとしても、私は、」
「それは僕もそうだよ。」
会話が終わると2人はまた静寂にかえった
どれくらい時間が経っただろう、突然、部屋の扉がノックされて扉が開かれた
「フィオラ?ちょっといい?」
扉から顔を覗かせたのはサイラだった
サイラの言う通りについていくと宿屋の食堂のテーブルへと腰掛けた
「座りなさい、」
言われたまま私は座り、向かい合う形になった
「話したいことは色々あるけど。」
フィオラは少しは悲しんでいるように見えるが、普段とそう変わらない態度をとるサイラを不思議に思った
「どうして、どうしてそんなに平気でいられるんですか?」
「平気じゃないわ、ただ、前にも同じことがあって、だけど。」
すると途端にサイラは目から一筋の涙がこぼれ落ちた
「あれ、やっぱり慣れないわね、体は正直みたい…」
サイラは涙を拭ってまた話始めた
「ごめんなさい、大人なのに、みっともないところ見せて、」
「ううん、私は全然そうは思わないよ、みっともなくない、それが普通なんだよ…」
「ありがとう、それじゃあ本題に入るわね…」
「うん」
「リアの調子はどう?」
「リア?」
そういえばあの戦いが終わってからお互いの顔を見てない。
なにも答えず考え込むフィオラにサイラは
「やっぱりね、彼の顔を見なさい、そしてその悲しみを分かち合いなさい。」
「私たちにできるのは分かち合うことだけなんだから…」
「悲しみを分かち合うってどうやって…」
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フィオラがサイラに呼び出されてかれこれもう30分は経ったと思う、そんなに長い用事があったのか。
そんなことは今はどうでもいい。
リアは首に掛けていたクレアが宿っているネックレスを首から外して優しく握り締め、それを胸の中に抱いた
コンコン
ガチャ
「ただいま」
何者かによって部屋の扉がノックされ開かれた
声で誰がきたのかわかるし、ただいまとも言った
だけど振り返る気はなかった、ただ胸にネックレスを抱きしめ、むせび泣くことしかできなかった
ギシ、ギシ
突然ベッドの軋む音が聞こえ、後ろから暖かさを感じた
「リア、」
抱きしめられていた、後ろから、優しく、あたたかく、ただ包まれていた
「1人で背負わないで、もっと私を頼って…?」
優しいその声に流れる涙の種類が変わったのがわかる、これは悲しみの涙なんかじゃない。
リアが顔を上げると目の前には開けられていた窓があった、カーテンも閉められていない、入った時のままだった、外はもう真っ暗になっていた
【もう夜か、それもかなり深い…】
【どれくらいああしてたんだろう…】
「フィオラ、僕はもう君の知ってる僕じゃないかも知れない…」
「遺跡で聞いたとおり、僕は昔の人間のコピー、ホムンクルス…」
「このネックレスの中には僕がかつて、ライアっていう人だった時に、その、愛していた妖精が入ってる。」
「それでも僕は僕、リアだって思ってる、だけどこの細胞がもうクレアしかいないって叫んでるんだ。」
「わからないんだよ、フィオラへのこの気持ちが好意なのか愛なのか、たとえフィオラを愛してもきっとクレアは許してくれると思う…」
「だけど…。」
「私を見てよ…」
リアがそうして言葉を一瞬詰まらせるとうしろから抱きしめる力が強くなり、悲しく囁く声が聞こえた
「私を、見てよ…!」
そう言うとフィオラは抱きしめる力を弱めてリアにまわしていた腕を解いた
身動きが取れるようになったリアは腰掛けながらも後ろを振り向く
その瞬間、頭を引っ張られ、柔らかなあたたかい唇が力強く触れ合った
【あたたかい…】
キスの最中もフィオラの手はリアの背中へと伸びていき、リアを離さんとばかりの力で抱きしめた
リアの手はどこへいくこともなく、その右手にはネックレスが握られていた
「ぷはっ、!」
「フィオラ急になにを、」
そしてリアが困惑していると再びフィオラはリアの後頭部を押して唇と唇をまたくっつける
【いいの、かな…】
【もう今、クレアを裏切ってる、本当に嫌なら突き飛ばせるくらいのことはできる…】
【なのに僕は拒んでない…】
「リア、あなたはリアよ…」
「ライアじゃない、だから、ちゃんとこの子を愛してあげて…」
突然ネックレスのクレアが宿っている宝石からそんな声が聞こえた
その言葉を聞いたリアはその両手でフィオラを抱きしめた
「ぷはっ!」
「はぁ、はぁ…」
フィオラが少し息切れしているとリアはネックレスをベッドの横の机に置いた
「フィオラ、伝えたいことがある。」
「うん、私も…」
リアとフィオラは1つベッドの上で互いの手を握り合った
「優しいところが好き、僕がどんな状況でもいつも隣に来てくれて助けてくれる、そんなところが好き」
「正義感があるところが好き、こんな私にでも対等に接してくれた、とても嬉しかった」
「その白い髪が好き、純白の綺麗な髪、そしてこの前髪の隙間から見える赤い目、初めてみたときから綺麗って思ってた」
「その黒い髪が好き、その黒い目もセットで世界一似合ってるし他の誰にも触らせたくない…」
「すらっとしてる指も綺麗だし、その、スタイルも良くて、他の男に見せたくない」
「少しゴツゴツしてる手、こうして握っててとても安心できるし、全身についた筋肉もかっこいい」
「魔法は上手だけど、剣とかは苦手なギャップが好き」
「それって褒めてるの?」
「ダメなところも含めて好きってこと!」
「ならいいけど、これ、恥ずかしいね?」
「やめる?」
「やめない!」
フィオラは1つ咳払いをして続ける
「負けてたけど私のために戦ってくれたところが好き」
「一言余計だよ!」
「私のためにお義父さん相手でも戦ったところが好きってこと!」
「ふーん?」
【ん?お義父さん?】
リアは少し疑問を持ちながらも続けた
「危険を顧みずに助けに来てくれた、そんな勇気のあるところが好き」
「なんでも知ってて、なんでも教えてくれる、物知りなところが好き」
「何個でも出てくるね?」
「まだ言ってない一言があるんじゃない?」
フィオラがそう言うとリアは握っていた手をお互いの胸の間にまで持ち上げる
「フィオラ…」
「うん、」
フィオラは唾を呑み、その言葉が来るのを待っていた、そしてその瞬間は来た!
「愛してる」
愛してる。その一言、たった一言、されど一言、その大きな意味をもつ一言がフィオラの脳に響き渡り、フィオラは嬉し涙をながしながら応える
「私も、愛してる!」
そしてリアはフィオラをベッドへと押し倒し、フィオラの涙を拭った
「愛してる…」
「私も…」




