第2話 選ぶ道
最近は稽古の合間を縫ってフィオラに魔法を教えてもらっている、家にある本でも魔法に関する本が何冊かあるが魔法を使えるようになるような教育本ではない
このような魔法があるという文言が書かれているだけで肝心の習得方法はどこにも書いてなかった、独学でやってみてもいいと思ったが、やはり百聞は一見にしかず、先達に教えてもらった方が早いと考えた
家では魔法に関する稽古はしていない、強いて言うなら村の人が畑に水をやっている所を見るくらいだった
お父さんは魔法が嫌いだ、昔から魔法が使えないらしい、しかしお父さんはその剣一本で魔法に打ち勝てるようになったのだという
そのせいかお父さんは剣士の方が魔法使いよりも強いと考えていて魔法の稽古なんてしたことがない
しかし男の子ならカッコいいものには目がないだろう
僕もあんなふうに魔法を使ってみたいと思う時がある
リアとフィオラは例の川辺に集合して流木の上に座って2人で談笑していた
「フィオラはさ、大樹に住んでるって言ってたけど。」
「あの木ってこの前までなかったよね?」
「うーん、あの木はね、私の育ての親の道具を使って作ったんだ。」
とフィオラは少し悲しそうにそう答えた
「育ての親?」
リアがさらに質問しようとするとフィオラが突然立ち上がって言った
「ごめん、リア、この話はあまりしたくないから・・・、」
リアはその空気からも察して全力で謝罪をする
「ご、ごめん!フィオラ。」
「うん、話を変えよう!」
リアはその場の暗い空気をなんとかしようとなんとかして話題を振り出そうとする・・・
ソウタ視点
近頃、息子のリアがよく外出をする。
子供が外で遊ぶことは親にとっては嬉しいものだが
リアはこれまで外に活発に出るような子ではなかった、
俺は嫌いだったが、本を読んで勉強をしている時間が多かった記憶がある。
俺はリアがそこまで外に興味を示す理由を探すために魔物の討伐と嘘をついてリアの行動を陰から見守ることにした
ストーカーなんて言うなよ?我が息子のためなんだから
家から出て隠れて玄関を見ているとしばらくしてリアが出て来た、その後ろをこっそりとついていく
【コイツ、こんな森の中で何してるんだ?】
そうして森の中へ入っていくと淡々と進むリアを見失ってしまった
【まずい、見失った、】
森の中で迷っていると、どこからか水の流れる音が聞こえた
【川?】
森を抜けて茂みの中から隠れて川の方を見るとリアと白髪の少女が腰掛けられるほどの大きさの流木に座って話しているのが見えた
【アイツ、いつの間に彼女なんて作ったんだ?】
【俺なんてお前くらいの歳の時はまだ恋愛なんて夢のまた夢だったぞ!】
【いや、それよりもあの髪色、】
その髪色を見てまさか、とは思った、そうあの少女はまさに自分が追っている吸血鬼と思われる魔物だったのだ、
しかも太陽の下で平然としている、吸血鬼の中でも珍しい個体だ
体が瞬時に息子を守らなければと動こうとしたが、理性がその足を止めた、
【リアはアレが魔物だってことを知っているのか、いやまず知らないだろう、友達とすら思っているかもしれない】
【せめて、あいつの知らないところで、】
そうして俺はもしものためにその場で見守りながらリアが家に帰るのを待った
リア視点
夕方頃
「ただいまー」
家に帰るとクリスが夕飯の準備をしていて、部屋の中には香ばしい匂いが充満していた
「あら、おかえりなさい、散歩はどうだった?」
母の顔を見て思い出したことがある、あの大樹には近づいてはいけない。僕は約束を破ってしまった、しかし、それよりも気になることがある
「楽しかったですよ」
と微笑みながら答えて本題に入る
「そういえば気になっていたんだけどどうして大樹に近づいてはダメなんですか?」
お母さんはあっさりと簡単に答えてくれた
「実はね、あの大樹はほんの前までなかったのよ、」
「確かに急に出て来ましたよね、あの木」
「えぇ、それでお父さんが見に行ったのだけれど木の幹の中に空間があってね、その中に血が全部抜かれた動物の死体があったのよ、その死体を調べてみたら吸血鬼のような噛み跡があったのよ、それで危険だから大樹へは近づいてはならないってこの前村全体で決めたのよ」
【吸血鬼?まさかフィオラが?】
そう思考を巡らせていると
「さて、この話は終わり!そろそろお父さんが帰ってくる頃だろうから夕飯の準備、手伝ってくれる?」
「はい、」
リアは心残りがありながらも、食事のための食器をテーブルに並べ始めた
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その日の夜、玄関の扉が閉じる音がした
その音で目が覚めた僕は不安になって両親の部屋に行った
しかしそこにはただ静けさだけがあり、誰もいなかった
「お父さん?お母さん?」
ふと窓の外を見ると1人、2人3人4人、何十人と村中の大勢の大人の姿が見えた手にランタンをもっている人の顔を見るとそれは母親だった
こんな時間に何事かと思い、急いで着替えて少し離れて着いて行った
【あれ?この道、見覚えがあるな、】
その道はあの大樹への道だった
その時、あの子供の言葉を思い出した、
「ママに言いつけてやる」
そこから一つの可能性が思い浮かんだ、もしかしたらいつしかの日の昼間の子供がフィオラのことを話して、吸血鬼の可能性があるフィオラを討伐しようとしているのではないか、と
【もしそうならまずい!】
僕は森の中に入り、急ぎながらも静かに先頭にいる集団を目指した
【あと少しで先頭集団だ、】
その時、少女の叫び声が聞こえた
その後に今度は先程よりも小さな声で
「痛い、痛いよぉ、助けてよ、リア、!」
森の茂みを抜けて目の前に広がっていたのは
倒れて血を流しているフィオラだった
僕はなりふり構わずに走ってフィオラの目の前まで行こうとするも、お父さんに見つかって肩を掴まれてしまった
「リア、どうしてお前がここにいるんだ?」
「いや、それよりもなぜこの吸血鬼がお前の名前を知っているんだ?」
「数日も前に助けたんです、いじめられていたから、それよりもこれはどういうことですか、フィオラは本当に吸血鬼だったんですか?」
「あぁ、コイツの歯をよく見てみろ吸血鬼の歯だ」
ソウタが指差したフィオラの少し開いた口元からは、2本の鋭い歯が顔を覗かせていた
「この子は誰かを襲いましたか?」
その問いにソウタは即答せず、少し口ごもりながら答える
「、、、しかし、吸血鬼は魔物の中でも上位種だ、その危険性はあまりにも高すぎる」
「お父さん、僕はこの子が誰かを襲いましたかと聞いているんです」
リアはソウタが話終わるとすぐに話し出して、そんなことは聞いてないと言わんばかりに言葉で詰め寄る
「リア、俺はお前の父親だがこの村を守る剣士でもある、村に害を及ぼすものは排除しなければならない、それが責務だ」
「親子喧嘩をするのはこれが初めてですねお父さん…」
シュッ
"中風"
リアは一気に父親の手を風の魔法で振り払ってフィオラの元に辿り着いた
「おまっ!何してるんだ!?」
僕がフィオラの方を見る
【まだ息はある】
「父さん!僕は自分が正しいと思ったことをします!」
そのままフィオラを抱えて全速力で走って森の中へ逃げる
【フィオラのおかげで少しだけど魔法だって使えるようになったんだ、】
"爆風"
僕は足から風と火の魔法を使って爆風をおこしながら凄まじい速度で森の中を駆け抜けていく
「まて!リア!」
【アイツ、いつの間にあんな魔法を、】
その後ろを父親は必死に追いかけていく
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【そろそろ撒けたかな?】
【もう後ろから足音は聞こえない!】
「はぁはぁ、」
息を切らしながらもフィオラを降ろす、その背中には逃げようとしてついたのだろうか、大きな切り傷を負っていて、今も血が流れ続けている
「大丈夫?」
「う、ん、大丈夫じゃない、かも・・、」
フィオラは苦しそうなかすかな声で応える
リアは考えた
【吸血鬼なら血を飲ませれば、傷も治るかもしれない】
フィオラのまえに腕を差し出してリアは言う
「フィオラ、僕の血を飲んで、」
フィオラは目の前の腕に噛みついて血を吸い始めた
血を吸うのとほぼ同時に背中の傷が塞がっていくのが目に見えてわかる
背中の傷が塞がったのと同時に父親が目の前に現れた、
「リア!お前、よくもリアの血を、!」
父親の前にリアが立ちはだかる
「父さん!僕が望んで吸わせたんです!、」
血をたくさん吸わせたせいか、リアは息切れやめまいをおこしている
「リア、そこまでして悪いが、結果は変わらない、ソイツはここで始末する!これはもうお前のためでもあるんだ」
この国では魔物を庇ったり与することを厳しく処罰している、上位種である吸血鬼を庇ったとなると最悪死刑にもなり得る
【どうする、逃げるか、それとも前に出て足止めしている間にフィオラを逃がす?そもそも、足止めできるほどの体力があるのか?、】
そう考えているとフィオラがリアと父親の間に割って入った
「リア、助けてくれてありがとう。」
「私はたしかに吸血鬼だけど人は襲わない、これまでだって動物の死体の血を吸いながら生きて来たの、」
「私はこんなところで死にたくない!私は人として生きたい!」
「私だって村の人たちみたいに人と一緒に笑い合いたい、!」
"風破"
そういうとフィオラは手から強風を出して父親であるソウタを吹き飛ばした
「なっ、!!」
その強風はまわりの木々をも根っこから引き剥がすような勢いで、ソウタは森の奥深くへと飛ばされていった
「リア、短い間だったけどこれでさようなら、」
そういって森の奥へいくフィオラの手をリアは取る
「このまま帰ったら僕は犯罪者になって殺されちゃうかも、僕もいくよ。責任とってね?」
と少しふざけながらいう
そんなリアを見て少し頬が緩んで少し笑顔になったフィオラだった。
「さよなら、父さん」
リアは父親が飛ばされた方向を振り返ってそう一言呟いた