第27話 降臨した2人
「リアの言ってることは本当・・」
「私たちは最悪の未来を見てきたの!」
「彼がきたらみんな死んじゃう!」
フィオラが真剣な目をしてコーティスの体を掴んで揺さぶる
「はぁ?なに言って、」
とコーティスは少し呆れながら聞き流そうとしたが、それを察したフィオラはコーティスのみぞおちにひ弱ながらも何発も拳を叩き込んだ
「この分からず屋!」
コーティスもこんなフィオラを見るのは初めてなので直感的になにかがあると理解した
そしてフィオラに折れるようにため息をついた
「はぁ、わかった、わかった、」
「それじゃあ、みんなを運んで、」
「そのような時間はない」
「なっ、!」
コーティスの後ろからコーティスにとって聞き覚えのない声が聞こえた
しかし、その声はリアとフィオラによっては聞き覚えのある声だった、なぜならその声は未来で最後に聞いた声だったのだからーーー
「ウィンドブレ、」
リアがその男をコーティスの横から飛び出して吹き飛ばそうとしたとき、詠唱の途中で魔法は途切れてしまった
理由は簡単なことだった、魔法を出そうとしていた右腕が肘関節から先、赤い血飛沫をあげながら切り飛ばされていたのだから
「あ゛ぁあ゛ーー!!!」
リアは絶叫をあげながら膝をつき、地面に倒れながら焼けるように熱い傷口を抑える
「リア!!」
そしてその絶叫を合図にその場にいた全員が戦闘態勢をとり、剣を抜いた
【終わった・・】
フィオラはほかの人たちとは違い、膝から崩れ落ち、その顔は絶望に染まっていた
「もう、戻れない・・」
「間に合わなかった・・・」
「なんで?来るのがはやいでしょ、だってまだ時間はあったはず、なんで・・?」
「オロバスが失敗したということは交渉はできなかったということか・・」
白髪の男は赤い眼光を周りに向けながら呟く
「ならば強行策だ。」
"時間停止"
白髪の男は権利を使ったはずだった、しかし彼に予想外のことが起こった
「?なぜ止まらない?」
「はぁ、はぁ、、」
白髪の男はリアを見下ろした、リアのその目はまだ死んでいなかった
"絶対領域"
「"絶対領域"この空間の、所有権は、僕の、もの、だ、!」
「フンっ、貴様が実験体か。」
それと同時に戦闘態勢に入っていた全員がその男に突撃する
「。。。」
相手は素手、こちらは武器、相手は権利を使えない、はず
【なのに!】
白髪の男は体術だけで襲い来る兵士を殴りたおし、ついにはコーティスを強烈な一撃で地面に沈めた
「ぐはぁっ、」
【こいつ体術の達人かなにかか、?】
ヘイスは剣を抜いてはいるが、一定の距離を取り様子を見ていた
【なんとかコイツの隙をつかなければ】
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「リア!大丈夫!?」
傷口を押さえているリアに右腕を抱えたフィオラが駆け寄ってくる
「今くっつけるから、!」
フィオラは右腕とリアの傷口の切断部分をくっつけ、手首の動脈を短いナイフで切り、切断部分にフィオラの血が大量に降りかかる
「ちょ、そんなに血を、!」
リアはフィオラの出血の量に驚いて心配したが、フィオラはその言葉を気にも止めず、治療に専念している
その血の量の多さからかリアの右腕はみるみるくっつき、数秒で完全に繋がって痛みも感じなくなった
そしてフィオラの手首の傷も塞がり、フィオラは安堵の声を上げた
「はぁ、よかった、くっついた、!」
「ありがとう、フィオラ。」
「うん、!」
【これはハグのパターン、!】
フィオラは両腕を広げて待ち構えた
「なにそれ?なにかのおまじない?」
「はぅ、!」
と一蹴されてしまった
一瞬だけ漂った和やかな雰囲気もクレアの一言で戦場へと様変わりした
「そんなことしてないで!どうする!?」
彼がきてしまった以上、どうしようもない、しかし唯一の希望の光はあった、ライアの、いや、リアの権利。
空間の権利でこの戦場はリアの所有物となり、その場では時間を止めることはできないようだ
彼の能力は封じられた、これこそが希望の光だった
それでも彼の強さはこの場にいる誰よりも強かった
「あいつも吹き飛ばす?」
「さっきみたいに空中に連れていって遠くへ・・」
「わかった、やってみよう」
リアは立ち上がり、白髪の男を視界に捉えた
そして彼の足元に穴を開けた
「フッ!」
しかし彼はわかっていたかのように前進してその穴を避けた
「なんで!?」
リアはそれでも何度も何度も彼の足元に穴を作るがその全てを避けられてしまう
「まさか、あの目、」
リアは彼の目の動きをよく見て気付いた
「見てる、未来を、!」
彼は敵の攻撃や動き、状況を未来を見て攻撃をかわしていた
そして突然白髪の男が目の前から消えたのと同時に3人の兵士が吹き飛んでいった
「グワァぁー!」
「な、!?どこに!?」
ヘイスは突然消えた男に困惑しながら辺りを見回すと後ろに彼は感覚を確認するように手を握ってヘイスに向かって一直線に走ってくる
そのスピードは最初の踏み込みから地面が割れ、初速からとてつもない速さだった
"超水砲"
ヘイスの剣先から凄まじい水圧の水の光線が白髪の男に向かって発射される
しかし彼は打つよりも先に身を逸らし、余裕のある回避を見せた
「なぜ当たらない、!」
ヘイスは困惑しながらも次々とアクア・レイを乱射していくが、何度放とうともそれが当たること、ましてやかすることすらなかった
「ヘイスさん!そいつは未来を見てる!」
リアの声を聞いたヘイスはなんとか冷静になろうと深呼吸をした
「未来を、か、」
「ならば、!」
"水砲"
次に放たれたウォーターズ・レイはこれまでと同じ、まっすぐな軌道、ではなかった、白髪の男が避けた瞬間、そのまま男の避けた方向へと逸れていった、そしてそれを何十発も連射し、ついには一発のウォーターズ・レイが男の白い装束を破いた
「2秒、だろ?」
その言葉を聞いた男は驚いた表情をみせた、しかしそれは一瞬でまたすぐに冷酷な赤い眼光を剥き出しにした
「だったらなんだというんだ?」
「俺は時間を止めるために温存して戦っているんだ」
「この空間ではいつも通りの権利は使えない、だが。」
「溜めれば出力は落ちるが権利自体は使える」
「先程から俺は溜め続けた、そしてそれは今や20秒といったところか・・」
「これだけあれば十分だ。」
「タイム…」
彼が詠唱をしたそのとき、指を鳴らす音がその場に静かに響き渡った
パチン
「出てきてあげたよプルソン」
白髪の男の真後ろにはソロモンが立っていた
「ソロモン、!」
男は彼女をその赤い目で鋭く睨みつける
「大人しく帰りなさい、そうすれば私は手出ししない。」
「帰らないというなら、このリアの絶対領域で十分な力を出せない君を、」
「君を、きみを・・・、」
ソロモンは顎に指を当てて考え込む
「そうだな、ボコボコにしてあげましょう!」
彼女がそういうとプルソンは全身の血液が沸騰する勢いで激昂し、時を止めたのか、一瞬でソロモンの喉元へ巨岩をも砕くような突きを繰り出す
しかしソロモンはそれでも冷静を保ち、指を鳴らす
パチン
その瞬間、プルソンの突きとソロモンの喉の間に圧縮された乱回転の風、ウィンドローテが生み出されていた
彼の攻撃はウィンドローテにより、喉元から大きく逸れ、突きをだした右手は左側へと逸れてしまった
そしてそこに出来た隙をソロモンは付き、彼の脇腹にその掌がそっと触れた
"風破"
プルソンはその戦いで貯まった0.5秒、時間を止めてギリギリで後ろへと大きく飛んだ
それでも、彼女の魔法の威力はリアや他の魔法使いの比ではなく、地面を抉りながら彼の体は吹き飛ばされてしまった
「"全能"に勝てるとでも?」
ソロモンはニッコリと笑顔を絶やさずにまるで子供を相手にしているように遊んでいるようにも見えた
プルソンは吹き飛びながらも体勢を整え、手をつきながらも上手く着地する
【チッ、このウザったらしい空間さえなければ、】
【それにあの女、笑ってやがる・・】
「ニヤニヤしてんじゃねぇぞ!!」
「気持ち悪りぃんだよ!!」
プルソンは顔に血管を吹き上がらせながらソロモンに叫ぶ
「女性に気持ち悪いとは、君、マナーがなっていないようだね?」
ソロモンは嘲笑しながら言った言葉、それは彼を更に怒らせることとなった
「もうお前はロスじゃねぇ、」
彼は吸血鬼の牙を露わにしながら、静かながらも燃えたぎるような怒りがその声に現れていた
そしてプルソンが静かに憤りながら言ったロスという言葉、その名が出た瞬間、ソロモンの笑顔が崩れた
「茶番はもういいかい?」
彼女はこれまでの明るい声から静かな低い声に変わった、まるでそれが彼女の本当であるかのように見えた
「君は私に挑む、ということでいいのかな?」




