第26話 one more chance
ヘイスがそう悲しんでいるのも束の間
ゴトン
重たい何かが落ちる音が聞こえた、それもあちらこちらで、ヘイスはただ一瞬、ほんの0.5秒、まばたきをしただけだった。
ヘイスが目を開けると目の前には草が写った、赤く染まる赤い草花。視界さえも赤く広がる。そしてそこらからさらに先ほどよりも重たい何かが倒れる音が聞こえた、その音もあちらこちらで、独特な金属臭、腐敗したような匂い、そのどれもが正しい
この匂いは職業柄、何度も嗅いだことこある匂いだ
'錆びた鉄のにおい'それもかなり強い、1人や2人どころじゃない、もっと多くの・・・
そしてヘイスは急速に薄れゆく意識の中でたった1人の人影を見つけた、短い白い髪に赤い目を宿し、その服は真っ白な装束・・・
【だれ、だ、?・・・】
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「な、なんだよ、これ・・・」
リアはただ1人、喉の奥から出てくるなにかを必死に堪えながら首を飛ばされた人達の死骸を眺めていた。
「はぅはっ、!」
「コーティス、さん・・」
「サイラさん・・」
「マルタさん・・」
「ヘイスさんまでっ・・・」
「一体なにが起きて、」
リアは辺りを見回すも、立っているのはただ自分1人だけ、しかし1人だけ立っている人物がいた
全く見覚えのない真っ白な装束の男だ、しかしその髪色と目の色には見覚えがある、そんな彼は気絶している、フォオラの首を掴んでこちらに近づいてくる
「あとはお前だけだ・・」
かれの表情には全く感情を感じられず、ただ事務的に動いているようにも見えた、それでもフィオラとその男はどこか外見が似ているように見えた、髪色と目の色が同じだと言うところはもちろんだが、まるで家族だと言われてもおかしくないくらいに似ているところがあった
彼がリアにあと一歩といったところまで近づいた途端、リアとフィオラの額に謎の紋様が表れ白く光った、そこは先ほどの遺跡でソロモンに触れられたところだった
「なんだ、これ、」
リアは目の前の出来事がまだ処理できていなくとも、ふと額に手を当てると温かみを感じた、自身の体温ではない、なにかはわからないが確かにそれは温かかった
今、こんな状況でもリアは何故か安心感を覚えた
「帰っていらっしゃい」
突然、その場全体にソロモンの声が響き渡る
その声に白髪の男は激昂する
「ソロモン!どこにいる!?」
「姿を現せ!」
しかしその言葉はなにも返されることはなく、帰ってきたのは"パチン"という指を鳴らした音だけだった
その時、世界が白く光った、そのあまりの眩しさにリアは目を開くことはできなかった。
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リアが目を開けると、目の前にはソロモンが立っており、あの遺跡の部屋にまた戻ってきたようだった
隣には目を覚ましたフィオラがぼーっとしながら立っており、まだ意識がぼんやりとしているようだった
「おかえりって言った方がいいのかしら?」
ソロモンはそう言いながらニコニコとしている
「なんでまたここに・・?」
気がついたフィオラが辺りを見回りながら呟いた
「そうだね」
「なにが起きているのか説明しよう」
「まず第一に、君たちはここから出ていく前の時間に戻ってきた」
「は?なに言って、」
「まぁまぁ、話は最後まで聞くものだよ」
と困惑するリアとフィオラを静止させる
「君たちがここから出て行ったら彼と対面することは知っていた、だけどそれが本当に起こることだと信じてもらうには体験してもらった方がはやい」
「彼は未来の信徒の教祖であり、時の権者であり、フィオラ、君の叔父だ」
フィオラは驚愕したがソロモンの言葉を忘れてはおらず、それを言葉にすることはなかった
「そこで私からの提案があるの」
「君たちには2つの選択肢があるわ」
「1つは私と共にこの場から離れる、この場合、私からのお願いを聞いてもらう代わりに王都まで直接送ってあげるわ」
「そして2つ目、このまま彼らを助けに行って再びあの未来を見るか・・」
「私は強制しないわ、ただ、2つ目を選んだ場合、もうこの場所に戻ってくることはできない・・」
「つまり、君たちが死んでももう生き返ることはない」
「さぁ選びなさい」
「そんなの、助けに・・」
リアは言葉ではそう言ったが、頭ではわかっていた、行ってもどうしようもならないことを・・
「君たちはただ1つ目を選ぶか2つ目を選ぶか、こうしている間にも時間は進んでいる、長考している暇はないわ」
【コーティスさんたちを見捨てる?そんなの私にはできない・・だけど・・、】
【あいつは出会った瞬間に僕とフィオラ以外を殺した、話が通じるような相手だと思わない、どうすれば・・・】
その静寂の空間を破ったのは緑色の宝石から聞こえる声だった
「リア、なにを見たのか私にはわからないけど、あなたがそこまで悩むっていうことはそこまで時の権利は凄まじいのね?」
「クレア、そう、あれはライアの時でも勝てない・・」
「わかった、私が本気を出すわ、だから行きなさい!そいつが来る前に終わらせればいいのよ!」
「あら?今のあなたの本気?」
ソロモンは興味深そうにその声に耳を傾ける
「目的は倒すんじゃなくてそいつら全員を吹き飛ばして逃げる!」
「へぇ、じゃああなたたちもそれでいいのね?」
ソロモンは指を鳴らす準備をしながらそう問いかける
「僕はクレアを信じるけど・・」
リアは考え込むフィオラを見る
「私は・・その宝石の人のことはなに一つわからない・・」
「だけど、私はリアの信じるあなたを信じるわ!」
フィオラはそう覚悟を決めて続ける
「いきましょう!」
「それが君たちの選ぶ道なら、私はその意志を尊重しよう」
パチン
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指を鳴らす音が聞こえた瞬間、そこは戦場だった、既にお互い戦闘を行っており、人の割り当てもそう変わらなかった、しかしフィオラが相手をしていた1人の魔法使いは自由に動いており、今も犠牲者が増えていた
「あの人は私が行くから!頼みますクレアさん!」
そう言うとフィオラは戦場へ走り出した
「で、どうするの?クレア?」
「吹き飛ばすと言っても1人1人じゃ時間がない、この戦場で1番強いのを吹き飛ばせば…」
リアは辺りを見回して、ヘイスと戦うオロバスを見つけた
「あいつ!オロバスって名乗ってた!攻撃を反射してくる能力があるしアイツがリーダーだ!」
「あの偉そうなやつね。」
するとリアの後ろから1人の剣士が斬りかかってきた
「リア!避けて!」
クレアのその声にリアは前に飛んでその斬撃を躱す
"風破"
リアは片膝をつきながらもその敵を森の遥か奥へと吹き飛ばす
「あなたの権利と私の風の権利を使うわ!」
「わかった!」
リアは立ち上がり、ライアの細胞を感じる
"空間の権利"
"風の権利"
リアは空間の権利を使い、その戦場の地面全体に穴を開けた、その穴はただの穴ではなく、一種のワープゲート、その場にいた者は全員、その真上、上空100mへと移動させた。
"転送"
「わー!!!なんだこれぇーー!」
「え?空!?」
「誰の能力だ!?」
クレアは風の権利を使い空中にいるオロバスを見つけ、凄まじい轟音を奏でながらオロバスを遥か彼方へ吹き飛ばした
"緑嵐"
「なにが起こっているというのですか!?なにも感じない・・いや、風?まさか!?空!?」
その姿は豆粒のように小さくなり、やがて見えなくなった
そのあとは一瞬だった、リアは目に入った味方の足元に再び穴を作り、地上へと送り返した
「ついでにコイツらも。」
そして残った装束姿の敵、その全てをクレアはさらに上へと押し上げてオロバスが飛んでいった方向へと吹き飛ばした
「はぁはぁ、できた、終わった、これで・・」
リアが空で落下しながら一息ついていると宝石から叫び声が聞こえた
「ライア!着地!」
リアは自分が空中にいたことを忘れており、その言葉で我にかえった
「やばい、やばいやばいやばいやばいやばい!」
リアと地面との距離はもう10mもなく、リアは両手を地面に向けて、最大火力で風の魔法を使う
"風破"!
リアは加速を殺し、ふわりと地面に降り立った
【あ、危なかったー、】
リアは冷や汗をかきながら今度こそ一息ついた
「いや、それよりも!」
リアがひとまとまりにしていたおかげか、その場に全員が揃っていた
【もちろん、助けられなかった命もある、】
リアはそう思いながら死体となったエヴァン、テイル、ハスミを見つめる・・
【それでも、】
「みなさん!」
リアがそう叫ぶと全員がリアをみる
「敵は遥か遠くへ吹き飛ばしました、だけど、このあとさらに恐ろしい敵が来ます!」
「全員今すぐにこの場から離れてください!今すぐここから去りましょう!」
「まぁ待てよリア、敵ってなんだ?それにもし本当に来るとしてもどうしてそんなことわかる?」
コーティスがリアの前へ出てそう言うが、リアは内心焦っていた、あいつがいつ来るのかわからない、瞬きを一つしたら目の前がまた血の海へと変わるかもしれない、そのことが気がかりで心臓がバクバクとなっている、しかしそれはフィオラも同じだった
フィオラも一瞬、見たのだ、気絶する一瞬、あの彼の姿を・・・




