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第24話 シトリーネ・リュフィエ

クリスは目を覚まし顔を起こすと目の前には屈強な装束の男達に組み伏せられているソウタがいた。

そして自分の体は謎の女性に踏まれていて、身動き一つできなかった、そして目を覚まして数秒後、手の感覚、いや、指の感覚がおかしいことに気がついた


「目が覚めた見てぇだなクソ女。」


自分の体を踏みつけている女性が蔑むような目と口調でクリスの背中から足を退ける。


するとシトリーネは手のひらから真紅の棘がついた血のような色をしている鎖を出してクリスを巻きつくように縛りつける、その鎖はクリスの口を塞ぐようにも縛られており、クリスは歯でその鎖を挟んでいる、もちろん棘があるので、クリスの体からは棘に刺されて血が出てくる。


「お前、何を、?」


ソウタがそう問いかけるも、彼女はパンパンと2回手を叩く。するとソウタを取り押さえている男の1人が1枚の布を取り出してソウタの口を塞いで声を出せないようにする


「今からなにが始まると思う?」

「私とあなたが前に進み出すための準備よ!」


そういうとシトリーネは鎖を思いっきりひく、するとクリスが声にならない絶叫をあげながら、クリスの両方の足首ごと下が切断される。


「ん゛っー!ん゛ー!」


ソウタは本気の力で男達を跳ね除けようとするも、屈強な男達は全体重をかけて、ソウタが地面に埋まるほどの万力で組み伏せる


「こんなので終わりじゃないわよ!」


そうしてまたシトリーネは傷口を止血させて、鎖をさらに引いて少しずつ切断していく。ソウタとクリスの声にならない絶叫とともに・・・


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


十数年前・・・


リーナス王国の王都に1人の異世界人が召喚された。


リーナス王国の王、オルカル・リーナス。かの王の一族は先祖代々、支配の権利を引き継いでこの国を統治していた。初代リーナス王はその権利を用いてこの巨大なリーナス王国を建国した。それから何世代とわたり各世代のリーナス王はその権利を自らの一族の利益こために濫用し、リーナス一族の基盤は確固たるものとなった。


しかしこのオルカルただ1人は違った、彼は28歳で若くして王位継承が行われたその瞬間に全国民の支配を解き、逆に自らの一族を支配して自らの行いを悔い改めさせ、先代の王は処刑された。


それからオルカル王は先代の部屋を調べた際、とある一冊の書物を見つけた。それは異世界について書かれた本だった


その本を読んでいるうちに異世界にはこの世界にはない知恵や技術があることがわかった


彼はその本に描かれていた魔法陣を元に、王城のある一室に召喚用の部屋を作った。しかし召喚に必要な魔力は洗練された莫大なものであり、その召喚のためだけに魔法使いが10人集まって10年分の洗練した魔力を生み出し、召喚に成功したのが高橋創太という1人の青年だった。


彼の歳はまだ16歳と若く、知識も未熟で10年間の成果は徒労に終わったものと思われた。しかし彼にはこの世界に来るときに莫大な魔力の干渉を受けたことで魔法こそは使えないが、常人では到底到達することのできない領域の肉体を手に入れた。


彼はむこうの世界でも剣を握っていたということでオルカル王は彼を騎士に推薦し、彼の天賦は開花した。彼は元々の柔軟性を活かして受け流しを重きに置きつつ、そのカウンターは巨岩をも砕くほどの怪物へとなり、そして2年でリーナス王国騎士団の席の末席に就任する予定だった・・・


彼はとある大貴族の娘に恋をしたのだ、彼女の名はクリス・アエミリウス。当主エンバー・アエミリウスの一人娘だった。彼女とソウタの出会いは王城でのパーティだった


王城でのパーティ、そのパーティは王であるオルカル王と王国の大貴族の間柄を深めることが目的のものだった。大広間はさまざまな豪勢な料理が並んでおり、王都1番のオーケストラ集団の演奏に合わせて人々が優雅で美しいダンスを踊っていた。


そこに白と茶色を基調にした後ろに大きな三つ編みをもつ茶髪の美しい女性が慣れないハイヒールを履いたせいか、部屋を出る階段を降りるときにバランスを崩して転倒してしまった。


そのとき部屋の前で警備をしていたソウタは階段から転がり落ちそうな光景を目の当たりにし、考えるよりも先に体が動き、前から思い切り転がり落ちそうなクリスをお姫様抱っこで抱えて階段の下に着地した。


「怪我はありませんか?」


ソウタがクリスの顔を覗き込みながら問いかけるとその瞬間に2人の体に稲妻が走ったかのような感覚が流れる


「あっ、え!あっ!」


クリスが顔を真っ赤にしてあたふたしていると騒ぎを聞きつけた他の人たちがその様子を見に来て人が集まってきた。


「お怪我はありませんか?」


ソウタはクリスを降ろしていつもの騎士である調子を保って問いかける


「えぇ、おかげで助かりました。ありがとうございます。」


クリスは淑女として気品のある礼をしてその場を離れる


【あの人、】


【あの騎士の方、】


【すごく・・かっこよかった!】

【すごく・・可愛かった、!】


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


その後、彼は同僚たちからその時の状況について詰問を受けていた。詰問と言っても取り調べのようなものではなく、ソウタと同年代くらいの人たちからだったので、その中身は高校生の恋バナのようなものだった。うらやましいだとかその後なにかあったかとか名前は?とか・・・


そして数日後、ソウタは王都の巡回で外回りをしていた時、一台の豪華な馬車がソウタの真横に止まった。そして中にいる女性が窓を開けてソウタに手を振りながら呼びかける


「こんにちはー!」


【この人は・・・この前の、】

「こんにちは。どうかなされましたか?」


とソウタはあくまで騎士として受け応えする

しかし彼女の方はそうではないようでクリスはそれからソウタに会うたびに話しかけ、お互いの名前を知り。護衛の依頼さえもくるようになった。


そんな日々が数ヶ月過ぎて、事件は起こった。


それまでソウタはクリスの家であるアエミリウス家の他にも、もう一つ護衛についている家があった・・・

それはリュフィエ家の娘である橙色の長い髪を持つシトリーネだった。リュフィエ家とは召喚されてから初めての護衛先であり、当主の人とも良好な関係を築いていた。


しかし彼女は出会った始めよりソウタに一目惚れしており、その勢いはとどまることを知らず、ソウタと話した使用人を解雇するという横暴さまで見せた。


そしてリュフィエ家当主であるシトリーネの父親はそんな娘を見かねてソウタとの雇用契約を手付金を倍額にして解除してしまった・・・


それを知ったシトリーネは何週間も外へ出ることはなく、当主である父親、実の母、使用人とも誰とも話すことはなく、部屋の前に置かれる毎日のご飯を少し食べて、また部屋の前に戻す、そんな日々を続けていた


「どうして・・どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてっ、!」


彼女はボサボサとなった髪を掻きむしりながら1人、薄暗く、散らかった広いベッドの上に寝転がりながら嘆く・・・

するとその時、彼女の部屋の扉が開かれる・・


【誰?お父さん、?】


そう思いながら彼女は扉のほうへ目をやると、そこには灰緑色の目まで届くほどの髪をしていて髪と同じ色をした瞳を宿す目の下に大きな隈ができている白衣を着た青年が大きなカバンを持って入ってきていた

その後ろには父親もいたが、彼女は突然のことに恐怖を感じて体を起こして布団を自らに手繰り寄せる


「彼女が・・?」


男は気だるそうにしながら父親にそう問いかける


「えぇ、そうです。何卒宜しくお願いします、先生。」


先生と呼ばれた男は彼女がいるベッドにカバンを置いてその中身を取り出す。


「誰!?誰なの!?」


と布団を持つ手が強くなり、突然近づいてきた先生に向かって怒鳴り散らす

男は一切表情を変えるようなこともなくカバンから出した1つの箱を彼女の前に突き出す


「俺の名前はベリアン・シトラール」

「そんなことよりもお前に聞きたい・・・」


そしてベリアンはその箱を開ける

中には1つの懐中時計が入っており、それを手に取って彼女の目の前に置く


「お前は目的のためならどんな犠牲も厭わず、そのことに後悔しない自信はあるか・・?」


「は?なに言って、」


シトリーネは困惑するが男はそんなことは気にせず再び同じ質問を繰り返す


「おい、!」


しかし当主はそんなの聞いていないぞ!とのような物言いで男の肩を掴む


それでもベリアンはそれを意にも留めず、同じ言葉を繰り返す・・・


「ソウタを手に入れるためなら・・・。」


ふとシトリーネがそう呟くと

ベリアンは彼女の目を見て目を見開く


「そうか、お前は合格だ・・・。」


その言葉を聞いたシトリーネは目の前の懐中時計に手を伸ばす。


シトリーネが懐中時計を手に取った瞬間。得体の知れないなにかが彼女の中に入り込んだのをシトリーネ自身は感じた


「なに、今の、」


するとベリアンは肩を掴んでいた当主を振り払って白衣に隠れていた2本の剣を取り出す


「なにしてるんだ!お前!そんなことしたら、おま・、!」


そしてシトリーネの父親が言葉を言い終わる前にその首をはねてしまった。部屋には赤い鮮血が舞い、部屋中に錆びた鉄の香りが漂う。


彼女はそんな光景を見て、なにが起きたのかわからず、ベリアンの方を見た。彼は剣についた血を振り払って剣を鞘に抑えて再びシトリーネの方へと戻って血に濡れた手を差し伸ばす


「お前の目を見て確信した、お前はこっち側の人間だ。」

「お前の目的、それを達成するためならたとえどんなことをしようとも躊躇するな、手段を選ぶな、後悔するな、お前は、'卑劣'であれ・・・」


シトリーネは唾を飲み込みながらその手を掴む


その日からシトリーネは家を出て王都の闇へと身を移した


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そして彼女はついにその機会を得た


家を出たあの日からどれほどの時間が経っただろう、いや、私はあの人に会えなくなった日から私の時間は止まっているのだろう。それを今日、私の止まった時間を動かす!


とある日、深夜のアエミリウス家の屋敷、その部屋の一室からは3人の男女が椅子に腰掛けて言い争っている様子だった

3人のうちの2人はソウタとクリス、あとの1人はクリスの父親、アエミリウス家の当主だった


騒がしい部屋の窓が割れることでその言い争いは止まることとなった。3人がその割れた窓の方を見ると1人の女が部屋の中に入ってきていた


「何者だ貴様は!」


当主は指を鳴らす、それとほぼ同時に5人の騎士がドアを開けて入って侵入者に剣を抜く


「ソウタ、あなたを迎えに来たわ!」


シトリーネは涙を流しながらソウタに一歩一歩近づいていく、しかしソウタはそれどころではないらしく・・・


「誰だお前!今大事な話してんだ!邪魔するな!」


と自らが座っていた椅子をシトリーネに向かって放り投げてしまった


「え、」


その瞬間、シトリーネの目から光が消え、避けようともせずにその椅子が頭にぶつかって額が割れ、出血しながら地面に仰向けに倒れてしまった


「取り押さえろ」


当主がそう言うと騎士たちは縄を持ってシトリーネに近づく


【私は、私は、私は・・・、】


混乱するシトリーネの頭にベリアンの言葉がよぎる


「躊躇するな、手段を選ぶな、後悔するな、私は、卑劣!」


そう倒れながら呟くと目の前にいる騎士たちのほとんどシトリーネの手のひらから伸びる真紅の鎖によって体を貫かれてしまった。そして部屋中に鎖が張り巡らされ、出口である扉も鎖が運んだ机によって塞がれてしまった


"赤色鎖(レッドチェーン)"


「私のものになりなさい、ソウタ!」


と再び鎖を出して部屋中に振り回す、ソウタはそのひとつひとつをクリスとその父親を庇いながら受け流す、他の騎士たちも防御はできているが、その場からは動けなくなってしまった


しかし、そんな状況も長くは続かず、ソウタたちに血飛沫が舞う


【このままじゃ・・・、】


ソウタが苦しそうな表情を浮かべるとクリスが傷つきながらも声をあげる


「あんたが誰かはわからないけど!ソウタは私のよ!」


その言葉を聞いたクリスの父親は腰にかけていた剣を抜きながらソウタに呟く


「いいだろう、お前になら私の娘を預けられる。」


そう言った瞬間、ソウタの剣の間合いから飛び出して襲いくる鎖を剣で跳ね除ける


「行け!」


その言葉を受けたソウタとクリスは鎖を弾きながらシトリーネが入ってきた窓へと走っていく


それをシトリーネが見逃すはずもなく、ソウタたちに鎖が集中する、それによって防ぎきれなかった鎖の1つがソウタの肩を貫き、血飛沫をあげながらもソウタたちは走る、そしてそれは他への鎖の配分を減らすということ、他の騎士たちは一斉にシトリーネに襲いかかり、シトリーネは反応が遅れて鎖でガードするも、脇腹を深く切られてしまう


「っ、!」


シトリーネは切られた脇腹を抑えつつも残りの騎士を火事場の馬鹿力で首に鎖を巻きつけ空中に浮かばせて窒息させる、だがそうしている間にソウタとクリスに逃げられてしまった、部屋にはシトリーネとクリスの父親だけが残り、クリスの父親は捌ききれなかった鎖のせいで太腿が鎖に貫かれてその場から身動きが取れずにいた


「あんたのせいでソウタが行っちゃったじゃない!」


と喚きながらシトリーネはクリスの父親を鎖で剣を吹き飛ばして全身を縛る


「お前は、誰なんだ、?」


当主は鎖に締め付けられながらも平然とした顔で問いかける

それをシトリーネはため息をつきながら一蹴するかのようにソウタの出て行った窓の外を眺める


「私は未来の信徒、卑劣。あの方から"再生"の権利を頂いた…権者シトリーネ・リュフィエよ!」


そう言う彼女の額や他の傷口を一瞬で治された


「そうか・・」


シトリーネが名乗った瞬間、屋敷の窓の外から声が聞こえた、シトリーネが声がする方を向くと、待機させていた装束姿の剣士と魔法使いが下の広い庭に倒れており、それをしたであろう緑髪とメガネをかけた1人の青年の騎士だった


「俺は第三席エイジ・グロスカース」

「お前、卑劣っていうことは未来の信徒の幹部だな?」

「お前を騎士団に連行する!」


そういうとシトリーネは窓から飛び降りて下におり、屋敷の庭へと飛び出した


2人が向かい合うとその庭に一つのコツコツとした足音が暗闇の向こうから響き渡る

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