第19話 まだまだまだまだ食べ足りない!
「なにが起きた?」
ヘイスは一足遅れて騒ぎの場所へ来るも、既にリアとそれを追いかけていった3人は森の奥へと走っていってしまった
リンはヘイスの元へ歩き、先程起きたことをできるだけ冷静に報告する
「ヘイス様!見習いの子の1人がなぜか森の奥へと走っていってしまって・・」
「なるほど、ここはもう森の奥地だ、遭難してしまえば簡単には抜けられないだろう、人のために動く、これを忘れてはいないな?」
その質問にリンは胸を張って敬礼をしながら答える
「当然です!我々クライン隊の鉄則ですから!」
「既に兵士の数人が彼らを目印を付けながら追いかけています!」
「うん、いこうか!」
ヘイスはそういうと残りの兵士やコティーズのメンバーをまとめ、木々に付けられた傷の目印を頼りに追いかけていく
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リアは軽い身のこなしで丘を越えて岩を踏み台にして跳躍し枝から枝に飛び移り森の中を駆ける
「あいつ、速すぎだろ・・」
「走りながら喋って、舌を噛むなよコーティス」
コーティスとロノア、そしてフィオラの3人は自然の障害物に邪魔されながらもリアを見逃さまいと走り続ける
すると突然リアが地面に飛び降りたと同時に立ち止まる
「ようやく止まったか・・、」
と言いながらコーティスたちが歩み寄ると目の前の景色を見て3人は目を見開いた
そこには石造りの小さな遺跡だった、見える部分で入り口しか見えず、外観は蔦に覆われて風化していた
しかしその雰囲気はとても黒く重く澱んでいた
そしてリアはその遺跡に向かって歩き出す
「ちょっと待て!」
コーティスがリアの肩を掴んで引き止めるとリアの顔がこちらを向いた
その顔は目から光を失い黒く、形容ではなく本当にただの黒い目となっていた、そしてコーティスを見つめて大きく口角があがる
そのあまりの恐ろしさにコーティスは一歩引いてしまった
「っ、、!、」
「お前、正気じゃないぞ、!」
そうリアに呼びかけるも聞こえていないかのようになんの返答もなかった
そしてコーティスが掴んでいるのも無視しながらリアの体は前進しだした
「待って!」
フィオラとロノアも急いでリアを押さえつけようとするが、その体からはありえないような力で無理矢理3人を引きずるながら遺跡の入り口へと一歩一歩ゆっくりと前進していく
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ヘイスと他の一同もリアたちの後を追いかけてついに遺跡の場所までやってきた
「あれは・・」
ヘイスの目の前に映り込んだのは遺跡の内部へと3人を引きずりながら入っていくリアと、古びた遺跡だった、ヘイスとリン、サイラと一部の兵士を除く他の一同は古びた遺跡のオーラを見て背筋が凍るようか感覚に陥った
「あっ、あ、あ・・」
多くの人が禍々しいオーラに呑まれ言葉を発することもできず、一部の人は先程食べた昼食を吐き出してしまった
「これはどういうこと、?」
サイラがまわりの人を看病しながらそう呟くとヘイスが錯乱状態の人を気絶させて話し始める
「作戦変更だ!今から動ける者たちであの4人を追って遺跡の中へと入る!」
「あのオーラに呑まれてしまい動けない者は少し離れたところで仮設拠点を作り休んでいてくれ」
そういうとヘイスとリンそして一部の兵士は遺跡の中へと走っていく
「私は・・、」
サイラがマヤを落ち着かせながら呟く
すると少し落ち着いてきたマヤが口を開く
「サイラさん、私はもう大丈夫ですから行ってください、」
「ここは任せてください」
「でも・・!」
サイラが何かを言おうとするとマヤはサイラの口を手で塞ぐ
「コーティスさんが心配なんでしょ?」
「私を信じて行ってください!」
そう言い終わるとマヤはサイラの口を塞ぐのをやめてグッドサインを出す
「ありがとうマヤ、」
そうサイラは言い残すとヘイスの後を追いかけて遺跡の内部へと入っていく
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遺跡の入り口の階段を降りてまっすぐの道に着いてヘイスたちはその道を無理矢理歩くリアを目撃する
「追いついたぞ!」
「ヘイスか!悪いが手伝ってくれ、」
「こいつ正気じゃねぇ!」
コーティスがヘイスの姿をみてそう言い放ったのと同時、リアが全員の方を向きいつもと違った声でついに口を開く
「あなたたちは呼んでないの」
「え?」
突然の言葉にフィオラがそう言葉をこぼした瞬間、リアはすさまじい突風でコーティスロノア、フィオラをヘイスの方へと吹き飛ばす
ヘイスはその3人を咄嗟に水のクッションで支える
「落として・・」
リアがそう呟くと突然通路の床が抜けてリア以外の全ての人間が落とし穴へと落ちていく
「うわぁぁーーーーーーー!!」
底の見えない深い暗闇の穴へその場にいた全員が消えていく、落ちていく人たちを横目に見ながらリアは通路の奥へと消えていった
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深い深い穴の底、落ちた全員は地面に叩きつけられ死んだと思われた、しかしフィオラが目を開けると体のどこにも痛みはなく、まわりの人たちも無事だった
地面は水で濡れていて少し体も濡れていた
「全員大丈夫か!?」
ヘイスが火の魔法で周りを照らして状況を把握する
そこは暗い地下の石造りの巨大な空間で四方八方には天井を支えるための柱がたっていた
「ありがとうございますヘイス様・・」
1人の兵士が感謝の言葉を述べた瞬間、暗闇の向こうからペタペタと裸足で誰かがこちらに歩いてくる音が聞こえた
その場にいた全員が一斉に警戒体制をひいて、ヘイスが姿を見るためにさらに辺りを照らす
暗闇から出てきたのは手を繋いだ長い紫髪の少女と少年だった、少女は少年の手を握って首に巻いてるマフラーはその口元を隠して怯えている様子だった
「あれ?生きてるんだ?」
【なぜこんな所に・・?人間なわけがない・・】
ヘイスは剣を抜いて2人を問い詰める
「お前たち、人間、じゃないな・・?」
「お兄ちゃん、お腹空いたよ・・」
「あぁそうだね、数年ぶりのご飯だ」
少女が少年の方を向いてそう言うと少年は両手を広げて透明ななにかを柱に絡めてフィオラたちを完全に包囲した
「なんだこれは!?」
その場にいた5人の兵士のうちの1人がそう言いながら透明な光るものに目を凝らす
「これは、糸?」
その様子を見たヘイスが、カンッ
と剣を地面に当て、その地面から水がヘイスたちを囲むように螺旋状に変化する、そして・・
「敵対意識ありと見た」
「総員!戦闘体制!」
"水斬撃"
そう叫ぶと同時、その水は刃の形をして放射状に拡散し、その糸を切り落とそうとする
「無駄だよ」
「これは蜘蛛の糸だ、蜘蛛の糸ってやつは鋼鉄で作られた剣よりもはるかに硬いんだ」
"糸の繭"
そう言いながら少年は自分たちを守るために糸の繭を作り防御をした
その言葉の通りに水の刃は糸を切ることができずに逆に糸に当たって真っ二つに切れてしまった
繭への攻撃も全くと言っていいほどいい効果はなかった
「そんな、ヘイス様の攻撃を・・」
リンは目の前の光景に驚愕して剣を握る手の力が抜ける
それでも彼女は再び剣を握りしめて構えを取る
「私だって騎士なんです!たとえ権者でなくとも私は騎士になったんです!」
そうリンは自分を鼓舞して走りながら繭へと剣を振りかざす
剣が繭に当たると繭は剣の重さで潰れる
「なっ!?」
繭の裏側には穴が空いており、そこから2人の子供が出てきていた
「まずはお姉さんからだ」
"糸斬撃"
そう少年は言うと右手をリン顔を目掛けて振りかざす、その指先からは透明な糸が鋭く張っており当たればそれは糸の斬撃となることを容易に想像できた
リンは咄嗟に剣を間に入れ防御する
カンッ!!と火花が散り、そこに合わせてコーティスとロノアが応戦する
「今だ!」
2人が剣を握りしめて近づくともう片方の少女が涎を垂らして2人を睨みつける
「もう我慢できないよ?」
"貪食の獣"
そういって少女は笑い口を大きく開いて飛び出す
2人はそれを避けることができず、コーティスは目を強く閉じた
「危ない!」
ロノアがすんでのところでコーティスを左手で突き飛ばし、コーティスは避けることができた
コーティスが目を開くとロノアの左腕の肘から下がなくなっており、その傷口からは血が止まらず、右手で左腕を押さえて膝から崩れ落ち悶絶していた
「ロノア!」
コーティスがロノアに駆け寄ろうとするとヘイスが叫ぶ
「後ろに飛べ!」
その声に反応できず気づいたら横から透明に光る糸が真っ二つにする勢いで飛んでくる
【コーティスさんごめんなさいっ!】
"風滝"
フィオラが風の魔法を使い、コーティスは地面に叩きつけられながら糸を回避する
「ロ、ノア、!」
コーティスが顔を見上げると少女が大きく裂けた口でその左腕をボリボリガッガツと貪って食べていた
「お、お前ーーー!!」
コーティスは怒りを露わにしながら剣を握りしめて少女に向かって走り出し剣を振り落とす
少女は食べていた左腕を抱えながら前に飛びながら前転してコロコロ転がり回避する
"岩弾"
フィオラはその少女に追い討ちをかけて数発放ったうちの一発が少女の服と地面に突き刺さり少女は動きを止めた
「コーティスさん!」
フィオラと2人の兵士が駆けつけてもう1人の兵士はロノアの応急処置を行っていた
「まだ、まだまだまだまだまだまだまだまだ!食べ足りないっ!」
血に濡れた裂けた口元を露わにしてニンマリと気持ちの悪い笑顔で目をガンギまらせて食べている途中の腕を丸呑みして、さらなる食事のために涎を垂らしながら氷をかじって破壊しコーティスたちに向かって走り出した
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「全く、可愛い妹のためなんだから邪魔しないで欲しいな」
少年は目の前にいるヘイスとリンそして2人の兵士と向かい合いながらも余裕の姿勢を保っている
「3人とも、撤退するぞ」
「ヘイス様、私もそうしたいですが、どうするおつもりですか?」
「私がコイツの相手をしているうちにここから抜け出せる道を探して欲しい」
「そして他の者たちも連れて外へ出るんだ、もちろん私も隙をついて抜け出す」
「そんな、私も残ります!」
ヘイスは固唾を飲みながら大きく深呼吸する
「行け!!」
リンはヘイスの勢いに負けて兵士を連れて出口を探すために走り去った
「あれ?お兄さん1人で戦うの?」
少年が首を傾げてヘイスに問いかける
「お前1人、私1人で十分だと言うことだ」
「強がりだねぇ」
ヘイスは再び深呼吸をして少年に向かって叫ぶ
「私はリーナス王国騎士団第4席ヘイス・クライン!」
そう名乗り剣を構える
「僕もやった方がいいかな?」
「僕は糸の権者マレイン・ロメロ」
「あ、ちなみに妹はマロフォっていうんだー、マロは僕にとって最愛の妹なんだー」
「そんな妹はお腹が空いてるんだ、大人しく食べられてくれないかな?」
「わかった、なんて言うと思うのか?」
「そうだよね、やっぱり、殺してから食べさせてあげよう」
そして2人は一歩ずつ歩き出し、再び戦闘へと突入した
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マヤたちや他の瘴気に触れた兵士たちは近くの開けた場所に野営地を作っていた
「テイルさん。みなさんももう正気に戻ったみたいですね」
「そうだな。マヤ、お前がみんなに必死に呼びかけてくれたおかげだよ」
「えぇ!?そんなことないですよ。あはは・・、」
とマヤは苦笑いし、運んでいた荷物を整理していた
「おや?いいところにいましたね?」
知らない人の声にマヤとテイルは咄嗟に後ろを振り向くとそこには青紫色の髪をした目を隠して頭を一周するように布を巻いて紫耀を着ている男と謎の装束を着た人たちが森の茂みの中からガサガサと音を立てて出てくる
「さて、余計なお話は必要ありませんね」
「私は未来の信徒 悲哀のオロバス・ペコハー」
「どうぞ名前だけでもおぼ・・・」
「なんのようだ!?」
その男が話しているのを遮ってテイルは口を挟む
するとオロバスは涙を流して地面にうずくまる
「私の話を、話を、遮るだなんて!?」
「なんと私に冷たい方なのでしょうか!」
そう泣いていると急に泣き止んでため息をひとつこぼしてなにか呟く
「あなたはこの場には不適切ですね。」
「そのような悲しいあなたをも私は終わりへと導いてあげましょう!」
そういうと彼は2本のハンマーを取り出して戦闘体制に入る
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