第18話 声、再び
リアとフィオラは見習いということになっているのでロノアと共に行動していた・・
すると3人の前に熊型の魔獣が現れる
「ロノアさん、!」
今回は見習いのフリということで戦闘面はまわりに見られているうちは本気を出すことが制限されているので主に戦うのはロノアになる
ロノアは剣を抜いて魔獣めがけて一直線に走りだす
「ガオォォー!!」
魔獣が威嚇するかのような咆哮を上げたと同時に魔獣もロノアめがけて走りだす
そしてロノアと魔獣がぶつかる直前、ロノアが左に大きく跳びながら胴体に斬撃を浴びせつつ魔獣の突進を回避する
「リア!フィオラ!」
そう呼びかけてリアは地面を軽い泥に変化させ、魔獣は足をとられる、すべての足がぬかるみにはまったと同時、フィオラがその泥を重い泥に変換させて完全に熊は身動きが取れなくなった
身動きが取れなくなった魔獣は2人のことを睨みつけ牙を剥き出しにして涎を垂らしている
ゆっくりとロノアが後ろから魔獣に近づき、魔獣の赤い目を見ながら首に剣を突き刺し捻って完全に魔獣は息を止めた
「よくやった2人とも」
「さらにしても、魔法って技名言わなきゃ使えないんじゃなかったのか?」
不思議そうにそう聞くと2人は口を揃えて答えた
「魔法名言った方がなんかカッコいいからみんなそうしてるだけです」
なんの恥ずかしげもなくそう言ってきたのでロノアは反応に困りながらも2人の頭を優しく微笑みながら撫でる
「そうか、それよりよくやった!」
「ロノアさん!子ども扱いしないで!」
フィオラが少し照れくさそうにしながら軽く手を振り払う
「むぅ、すまない・・」
「そんなに落ち込まないでくださいよロノアさん」
「フィオラだって嬉しいんですよ」
「ちょっと照れてるだけです!」
そう落ち込むロノアをリアはなぐさめる
「まぁ、頭ポンくらいなら、いいですよ・・」
フィオラが髪を弄りながらそういうと
「そうか、」
とロノアも優しい声でいうと再び3人は森の中を探索し始めるために歩きだした
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「段々と魔獣の数が増えて来たな・・」
「えぇ、遺跡に近づいている証拠、だと思いたいですけれど・・・」
とコーティスとヘイスが話していると目の前にさっそくと言わんばかりの狼型の魔獣が5匹現れた
「噂をすればなんとやら、ですね」
「そうだな、俺は左の3匹、お前は右の2匹」
「それでいいか?」
「いいえ、この程度なら私1人でも充分です」
ヘイスはそう言い終わるのと同時に剣を抜いて魔獣の群れに向ける
"水砲"
そう詠唱すると剣先から水が高速で吹き出し、光線のように魔獣の群れを跡形もなく消滅させただけではなく、まわりの木々も一緒に吹き飛ばし、地面も抉り、森の中をなのに青空が見えるほどになってしまった
ヘイスは剣をしまい
「それじゃあ行きましょうか」
「いやいや、お前・・」
コーティスがそう指差した先には水浸しで森の中にできた道があった
「ちょっと威力を間違えましたかね、」
「ふぅ、まぁ後片付けはしましょう」
そういうとヘイスはその道の真ん中に立ち目を閉じて両手で祈り始めた
"生命の寿"
そう詠唱するとヘイスのまわりから緑が溢れ出し、道が野原へと変貌した、そして小さな芽があちらこちらから芽吹き始めそれは小さな木へ、そして以前までの森の木々と遜色ないほどまで成長した
「すげぇな・・」
コーティスは奇跡のような出来事を目の当たりにしてつい言葉が溢れてしまった
「これが権利を持つ者、権者なのか・・」
「まぁこれはほんの一部に過ぎないし、私よりも素晴らしい権者は他にもいるだろうからね」
「後片付けも終わったことだし、そろそろ出発するとしよう」
そして2人は再び歩き始めた
森の中を歩きながらコーティスは権者について尋ね始めた
「権者ってのはみんなお前みたいに馬鹿強いのか?」
「馬鹿っていうのは嫌だけどまぁ全員が全員そうって訳ではないかな」
「権利を使いこなせるか否か、そこが一番大事な所かな」
「権利自体の能力にもよるけれど大抵の能力はそれだけで騎士になる資格を持つと言われているよ」
「そんなにヤベェのか!?」
「これからはお前に敬語を使うとするよ・・」
「いやいや、そんなことしなくていいよ、!」
「私は対等に接したいと思ってるんだ!」
「冗談だよ」
「俺がそんなこと言われたくらいでビビる訳ないだろ?」
「出会ってまだ間もないというのに・・」
「まぁこれで俺という人間がわかってくれたら嬉しいよ」
「とても社交的でユーモアのある人だってな!」
「はぁ、ユーモアという部分は否定しないよ」
「君といると道中楽しくなりそうだよ・・」
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探索を始めて数時間が経過した、それでもまだ移籍は見つけられない、既に密林地帯には入っているのだが、少し木が多くなったくらいで大きな変化はなかった
探索チーム一同はちょうどいい小さな平原を見つけ、昼食の準備を始めていた
「熱っーーー!!」
リンが平鍋に触れてしまって指をフーフーしている
そこに叫び声を聞いたヘイスが現れてリンの火傷した指を手に取る
「ちょっと失礼するよ」
そういうとヘイスは冷水を手から出してリンの人差し指を冷やした
しばらく冷やして包帯で指を巻いて処置を終えた
「ありがとうございます!ヘイス様!」
「いいんだよこのくらい」
「それじゃあ料理の続きはお願いね」
「はい!」
そう元気な返事をしながらリンは敬礼をし、ヘイスは調理の状況を見てまわるのだった
「彼はよくまわりを見てるな」
テイルがエヴァンと丸太をベンチにしながら話している
「それに比べてうちのリーダーは・・」
エヴァンがそういうと2人ともサイラになぜか膝枕されているコーティスを凝視する
「まぁ・・、いざという時は頼りになる漢だからな!」
とすかさずテイルがフォローをいれる
「そうだな!」
といって2人は笑いあった
リアとフィオラが作られたご飯を手に取り並んで丸太のベンチに腰掛けて昼食を食べているとヘイスがやってきた
「2人とも調子はどうだい?」
「見習いって聞いたんだけど2人はどうして冒険者になったのかな?」
その質問にリアは答える
【別に嘘をつく必要はないよな・・】
「僕たちは王都に行きたいんです」
「王都?それはまたどうしてだい?パーティの目標は王都に行くことだとコーティスさんから聞いたが・・」
「それはパーティでの目的だろう?」
「いや、えーとそういうわけではなくて・・」
そのときフィオラが2人の会話に入り込む
【この人は騎士、だったら王都の吸血鬼についてもなにか知ってるかもしれない・・】
「血を吸わない吸血鬼について知りたいんです・・」
その話をした途端、ヘイスの表情が曇る
「どうしてその吸血鬼のことを?」
「たまたまギルドでその話を聞いて興味が沸いたんです!」
リアがヘイスの雰囲気を察知して焦ったように弁解する
「なるほどね、最近の子の好奇心はここまですごいのか・・」
ヘイスは顎に手で触れて少し考え込む
「ここだけでの話なんだが、数週間前にその吸血鬼は既に処分されたと聞いている」
「え?」
あまりのことにリアは言葉が手でこなかった
そこにヘイスがもう少し詳しい話をする
「私も話せることは限られているが、その吸血鬼は'血の権者'だったらしい」
「噂では彼の権利は王国の研究機関に預けられてアーティファクトにされたと聞いている」
「私も聞いた話、なので詳しいことはわからないがね」
「私が知っているのはこのくらいだ、どうだい?少しは役に立ったかな?」
「ちょっと待ってください!いきなり色々言われすぎて理解が・・」
とリアは手で待ったを表現しながら頭を抱える
「ヘイスさん、向こうでヘイスさんのことを呼んでる兵士さんがいますよ?」
フィオラは手を振っている兵士を指差してヘイスに言う
「2人ともまた今度話そう」
柔らかな笑顔を2人に浮かべてヘイスは兵士の元へ向かっていく
フィオラはその様子を見てホッとため息をついた
「ありがとうフィオラ、とりあえず有力な情報は手に入れたね」
そう言うとフィオラは頭を突き出して撫でてと言わんばかりのオーラを醸し出す
リアはその頭をフードの上から数回優しく撫でる
「うへへ、//」
フィオラから変な声が出て咄嗟にフィオラは口を手で覆い、何事も無かったかのように振る舞う
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全員が昼食を食べ終え、兵士の人たちが後片付けをし、コティーズの面々もそれの手伝いをしていた
リアはサイラと備品の片付けをしていた、フィオラはというとハスミやテイルと川へ行き、水筒に水を入れて水分を補給していた
サイラが長い黒髪を耳にかけてキャンプ用品を片付けていると、手伝いが終わったリアがサイラに尋ねてきた
「サイラさん、アーティファクトって知ってますか?」
突然の質問に驚きながらもサイラは少し考え込んで、備品の片付けで出てきた額の汗をタオルで拭い、首にかけて話し始める
「そうね。アーティファクトっていうのは簡単に言えば権利を道具にしたものね」
「権利は人に与えられるものだけれど、権者がそうしようと思えば権利を人に譲渡できたり、物にその権利の一部を機能として追加することができるの」
「だけれど物に移転させた権利の一部はその権利を持つ人から独立して存在するようになるの」
「仮に権利の全てを物に与えてしまうと、その人は権者ではなくなってしまうって昔に本で読んだことがあるわ」
「あと、人に権利を譲渡する場合は一部だけということはできないみたいで、人から人に与えられる場合は全ての権利を一括で渡す必要があるとも書かれていたわ」
「かなり長くなっちゃったけど、まぁ簡単に言うとこんな所ね」
「な、なるほど・・・・」
「でも、そんなこと聞いてどうするの?」
「え?」
「あぁそれは、ただ単に気になっただけですよ」
「その荷物はこっちに入れちゃいますね」
とリアは苦笑いをしてサイラの手伝いを始めた
サイラもそれ以上問い詰めることもなく片付けは終わり、再び一行は遺跡の捜索に赴き、森の中に入った、そのときだった
【あれ?この場所って・・・】
その場所はリアが夢で見た景色と全く同じだった、木の配置、長さ、近くにある茂み
そんな場所は本当ならいくらでもあるはずだった、だけどもリアは直感で感じたのだ
ここはあの妖精が現れた場所であると・・・
「私を見つけて・・」
耳元で囁かれたかのようなリアは無意識に足が動いて、森の中へ歩いて行こうとするが、その行動はロノアに止められた
「リア!どこへいくつもりだ、進行方向は向こうだぞ」
「こんな森じゃ頼りがなければすぐに迷子になるから1人でどこかに行こうとするな!」
「私を見つけて・・」
その声はリアの意識を朦朧とさせてどこかへ誘おうとする
ロノアがリアの肩を掴んで少しおこりながら注意する
「私を見つけて・・」
そして完全にリアの目は虚となり、その目に光は無くなった
「クレア・・・」
リアが妖精の囁き声を聞いているうちにそう小声で呟いた。
フィオラは様子のおかしいリアの顔を覗きこんで言う
「どうしたの?リア?もしかして半日歩きまわってたから疲れちゃったの?」
「私を見つけて・・」
まだ声が聞こえる、その声は怒るわけでも悲しむわけでも笑うわけでもない、ただ寂しそうに囁いていた
「・・・・リア?」
なにを言っても反応しないリアにロノアは心配になり、リアの肩を揺らしながら呼びかけ続ける
そんな様子を見たまわりの兵士や仲間たちは足を止めて、リアたちの方へ注目を向ける
「リア!?どうした!?」
「ロノア!なにが起きた!?」
騒ぎを聞きつけてコーティスが兵士たちの間をぬって走って飛んできた、彼の目に飛び込んできたのはまるでなにかに引き寄せられるようにただ森の奥へと進もうとする目から光を失ったリアだった
「それが・・っておい!」
リアはロノアの一瞬の隙を突いて肩を掴んでいた手を振りほどいて森の奥へと走ってゆく
「ちょっと!?リア!?」
「追いかけるぞ!」
その後ろをフィオラとコーティスとロノアは走って追いかける




