混乱した頭は後のことを考えられない
上手くシリアスが書けない……
………今こいつは何て言った?
聞き間違いか?
いや、そんなはずはない。確かに今こいつは「九重皐月」と言った。だとしたら同姓同名の別人?皐月は男の名前でも問題はない。だとしたら女の皐月はどこに行った?俺はあいつの手をしっかり握ったはずだ。なのに今俺の目の前にいるのは男だ。はっ!もしかして同一人物!?それなら全部説明がつく。確かによく見たら顔立ちが似てなくもないし、口調も似ているような………
って
「そんな訳あるかっ!!」
………つい自分の思考に突っ込みを入れてしまった。
まぁいいや。
ちょうど思考が混沌としてきた所だし。
なのに目の前の自称九重皐月は、
「初対面なのに名前を否定されたっ!?………………ところで私と共にここへ来たと思われる井上佑樹という男を知らないか?
何もかもがどうでもよさそうな顔の奴だ」
っと、爆弾を落としていきやがった。
「ちょっ、ちょっと待て!?
俺がお前と一緒に来ただと!?俺はお前見たいな奴知らないぞ!!??」
「?
何を言ってるんだ?君みたいなかわいい女の子が私の親友兼好きな人な訳ないだろ?」
一瞬思考が停止した。
俺が女な訳ないだろ?どこを見ているんだ?
そう否定の言葉を口にしようとしたとき、
パサッと顔に黒い糸のようなものが落ちてきた。
(邪魔っ!)
手で払おうとしたら、
「痛っ」
頭が引っ張られる感覚がした。
ソレは自分の頭から生えていた。
腰にまで届くかという長い黒髪。
ソウイエバサッキカラミョウ二コエガタカカッタヨウナ………
サッキミタオレノミギテ………アンナニチイサカッタカ?
何より、
自分の髪の毛を見て固まっている俺を不思議そうに見つめる瞳に、
――――――クロカミノショウジョガイタ
ソノショウジョハカミノケヲミテイタ
「違うっ!俺は男だっ!こんな姿、俺は知らない!!俺は、男でっ皐月は女でっ!お前みたいな男、俺は知らない!!!お前がっ、お前が皐月をどこかへやったんだろ!?どこだ皐月はっ!皐月っ!!皐月っ!!!皐月―――!!!!」
(チガウチガウチガウチガウチガウッ!!)
狂ったように叫びだした俺は心の中で否定を重ねていた。
――――そうしなければ何かが壊れてしまいそうだったから。
いきなり叫びだした俺を見て、驚いていた男が自分の姿を見てさらに驚いている。
それを尻目に俺は泣きながら喚き散らす。
「――――っ返せよっ!皐月を返してくれよ!!どうせお前が俺の姿も変えたんだろっ!?俺はこんな姿知らないっ!俺はっ!俺はっ!――っ」
――――っ突然目の前の男に抱きしめられた。
普通、男に抱かれても嫌悪感しか抱かないのに何故か安心できた。
体が小さくなったせいで包まれるように抱かれているからかもしれない。
その男が依然泣いている俺に優しく囁くように語りかけてきた。
「佑樹、私だよ。皐月だ。」
「嘘、だ。だって、男………」
「嘘じゃない。私も今気がついたんだ。体が男になっていることに………」
「しょう、こ、は?」
「私は去年佑樹に告白していて、それが理由で追いかけ回されているうちにここにとばされた。」
その通りだ。
この男は本当に皐月なのかもしれない。
だけど、
「何でそんなに、平気そうなんだよ!?体が男になったんだぞ!?それなのに何で………」
そう叫ぶ俺に、あっけらかんと、
「………?それがどうした?私は私だ。して、佑樹は佑樹だ。本質は変わらない。」
なんて言ってきた。
………っ!
簡単に言ってくれるっ。突然性別が変わってこんなに落ち着いてられるのも皐月くらいだろう。
でも、
その答えを聞いて、幾分か心が軽くなった気がする。
そして、冷静になってくると今までの醜態を思い出し、抱きしめられたままといのも相俟って、
ボンッ!
音がでたかと思うほど顔が熱くなるのを感じる。
「………………見てた?」
「それはもうバッチリと」
当たり前のことを聞いてしまう。それでもさっきまでの自分を認めたくなくて、
「忘れてたり………?」
「するわけないじゃないか。心のファインダーにしっかりとってあるぞ、安心しろ。それに今のお前はかわいいぞ………………それはもう襲いたいくらい。」
身の危険を感じて逃げようとするが、まだ抱きしめられているので逃げられない。
「なっ!?俺は今女だぞ!気持ち悪くないのかっ!」
「さっきも言ったがお前はお前だ。それにそれを言ったら私は今男だ。これなら問題ない。」
「しょっ、正気か!?」
「私はいたって正気だとも。今二人の子どもの名前を考えてるとこだっ!」
「たっ、助けてくれ〜!」
さっきまでのシリアスな雰囲気が霧散して、ギャーギャー言い合っていると、
「そろそろ話し合いは終わったかね?」
今まで黙っていた周りの連中で一番、年をとってそうな人が話しかけてきた。
次回こそは話しが進みます。