基本周りは変態で構成されています
すいません。
説明回は次こそ行います。
「な………!」
ルグリムの言葉に再び叫びだしそうになったが、すんでのところで踏みとどまれた。今ここでルグリムに詰めよっても何かが変わる訳でもあるまいし、何より下手な怒りは冷静さを失わせる。それでもその感情を忘れぬように胸に秘め、目を閉じ心を落ち着かせるために深呼吸をする。
「………ふぅ。――俺の魂につけられているという刻印のことや、使い魔がどういうものか、そしてあの男の情報、この世界のこと全て教えてくれ。情報は少しでも多いほうがいい。」
目を開き努めて冷静に言葉を紡ぐ。
しかし、冷静になったつもりだったのだが、さっきまでの申し訳程度の敬語を忘れたあたり存外俺は焦っているらしい。
自己分析をしている時点で冷静ではないか?とも考えるがまだこの世界に現実味が乏しいというのが正解だろう。
目線を下げ自分の体を見下ろす。
(それに、体も違うし、な)
俺が顔を上げるとルグリムは目を丸く開いていた。
――流石美少女、そんな阿呆な顔もかなりかわいい。
俺はくだらないことを考えながらルグリムの言葉を待った。
「………驚きました。絶対に話が違うと文句を言われると思ってたのに。クスッ、お二人は私の予想をことごとく裏切ってくれますね。皐月様もその話をしたときは私に詰めよろうとしてましたが一瞬の後にはもう、どうしたら佑樹を助けられる?なんて聞いてきたんですよ?」
クスクス笑いながら愛されてますね、っと言ってきた。ルグリムはそれに、と付け加える。
「男性だと思えば中身は女性ですし、かわいらしい女の子って思っていたら中身男性ですし。本当に可笑しな人達です。どちらかと言えば、佑樹様の方がご自身の体を気にしている分、正常ですが。」
やっぱりあいつは異世界の人から見ても異常なんだな。……俺も一緒にされるのは心外だが。それより早く情報が欲しい。俺が急かすと、
「そのことについては、皐月様も入れてお食事の後にしません?昨日からずっと寝ていたのでお腹も減っているでしょう?」
俺は一分一秒でも早く情報が欲しいのだが、腹が減ってるのも事実だ。素直に頷いておこう。
それに、実はさっきから下の方が限界だったりする。
それでもこの姿もあって何となく恥ずかしいので言い出せない。気づいてくれないかなぁ?なんて思いながらルグリムを見上げていると、
「クハッ!ゆ、佑樹様!そんな風にモジモジして頬を染めながら上目使いで私を見るなんてっ!それは誘ってるんですね!?誘っているんですね!!大丈夫ですっ!初めてでも私が手取り足取り教えて差し上げます!」
何の前触れも予兆もなく本当に唐突にルグリムが壊れた。
えっ!?何っどゆこと!さっきまでの、優しげなルグリムはどこ!?つか、この人だれ!!
「さぁ佑樹様!きっと私が男なんてやめてよかったと思わせてあげますっ!だからこっちへ!!。」
ぞっ!
この人、百合だったのかーーー!?
身の危険を感じ急いで逃げだそうと椅子を蹴るように立ち上がる。幸いルグリムとの間には大きい机 がある。それに俺の方が出口が近い。
これなら逃げられるっ!
俺は勝利を確信し、ルグリムを見てすぐに後悔した。
「むぅ。これ邪魔です。《風切》(エアカッタ―)」
あの分厚いつくりの机が分断されていた。
ちょっと待てーーーっ!?
何で躊躇もなく机を切って向かってくんの!
どうして、どうしてこうなった!!
久しぶりの常識人だと喜んでいたのに、普通に変態じゃんか!!
って今は嘆いている暇はない、早くこの部屋から逃げなきゃ!
俺は脱兎の如く逃げ出そうとして、
「何で逃げるんですか?それならこっちにも考えがあります。《束縛》(バインド)!」
体が固まるように動けなくなった。それを見てルグリムはゆっくりと向かって来る。
待て待て待て待て待てっ!?
魔法は反則だろ!?
何か手は……
そうだっ!顔だけは動くようなので叫べば皐月ならきっと気づいてくれる。
作戦なんてものじゃないが確たる自信を持って叫ぼうと、
「――――っ!」
声でねぇーーーーー!?
ルグリムはもう目と鼻の先にいる。
こんな、こんな男の姿でもないのに初めてなんて嫌だ!俺は男だっ!!
だが、現実は無情にも貞操の危機が迫っている。
(皐月っ、皐月っ!皐月―っ!!)
気付けば俺は、涙目で首をいやいや振りながら心の中でこの場にいない皐月に助けを求めていた。
それを見て何を勘違いしたのか、
「怖がらなくていいんですよ。初めては誰にでもあります。貴女はそれがちょっと早いだけ。」
と、慈しむように怖がらせている張本人が語りかけてきた。
そして、俺の頬に手を伸ばして、
(あ………終わった。)
手が俺の頬に触れそうになった瞬間、
「佑樹っ!無事かっ!!」
――皐月は現れた。