表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤城君は見えている  作者: 青紙 ノエ
第2章 シロ○ンツの精霊
9/13

I’m free to be whatever I


 納涼祭のメインイベント。花火の打ち上げの時間が近づく。


 万里さんは佐谷部長から呼び出され、どこかへ行ってしまった。

「用事が済んだらLINEするね。それまでは香織とも一緒にいてあげて!」と言っていたけど。肝心の

香織さんがどこにいるのかわからない。

 生徒会役員のテントにもいなかったし、生徒会の人たちに聞いても、わからない状態。LINEも既読にならず。

 さてさて、どうしたものか…。


「ねえ純。何だか嫌な予感がするんだけど」

 シルヴィーが、周りに探りを入れながら俺に言う。


 確かに先ほど感じた、俺を観察するような視線。あの視線は、悪意に満ちた心の、成人男性のようだった。

 悪霊に近い存在。この世に不平不満を抱き、その心にため込んだ何かを俺にぶつけているような、そんな嫌な視線。

 

「シルヴィー。俺から離れちゃダメだよ」

「離れないよぉ。純は私が守ってあげるんだから」


 はぁ? 俺よりも弱いくせに、何を言っちゃってんの?


(純。今のシルヴィーは純よりも強いぞ。ネームドだからな)

(マジか!? 名前にそんな効力があるの?)

「あるよぉ〜。シルヴィーは強いんだぞぉ〜」

 はぁ!?

「ちょっ! シルヴィーも心で会話ができるの?」

「できるよん。純は私のあるじだもん」


 マジか…。


「マジだよん」

「いや、今の返答はいらないヤツね」

「はーい」

 りんご飴を食べながら返事をするシルヴィー。


 てか、シルヴィーって先程からずっと食べてるけど、そんなにお小遣いをもらったのか?


(シルヴィーは商店街のオッサンとオバチャンに、ロハで貰っているぞ)

「マジかシルヴィー!? ダメだろ! ちゃんとお金を払いなさい!」

「えー。だってお金はいらないよって。その代わり内緒だよ。って言っていたよ」


 もしかして、無自覚のチェイストか?

(正解)

(正解かよ!)


「ねえ純。あそこに誰かいるねぇ。気持ち悪いオーラを出しているよ」

 シルヴィーが指を差しながら言った方角。それは部室棟、旧校舎の屋上だ。

 今夜、屋上が開放されるのは新校舎のみ。すでに、たくさんの生徒が集まっている。なんで旧校舎に人が?

 てかシルヴィー、うまく話を逸らしたな。


「それじゃ、行ってみるか」

(そうだな。あの校舎の裏側に行き、誰も見ていないところでシルヴィーに屋上まで飛んでもらおう)

「ちょっ! 待っ!? 出来んの?」

「できるよん! 行こう!」


 飛ぶって、ジャンプって事? 嫌だな…。怖いな…。

 そして俺たちは部室棟と呼ばれる、旧校舎の裏に来た。

 外灯もない旧校舎裏。その暗闇の中、シルヴィーは俺の背後にピタッとくっ付く。そして次の瞬間、俺は夜空に舞い上がる。


「前置きなしー!」

 叫ぶ俺。

 マジか! ちびりそうな高さだ…。

 遠くに俺の住むマンションらしきものが見える。

 おそらく、今見えているところが多摩センター駅だろう…。


「いたよ。あそこ」

 シルヴィーがそう言って指を差す。

「ちょっ! 手を離さないで!」


(あははは! 純、情けない声を出すな! あははは!)

「大丈夫だよ。私と純はハートでつながっているから。手を離しても落ちないよ?」

「そ、そうなんだ…」

 意味はわからんが、怖い。

(純。五鈷杵ごこしょを出せ。準備はいいか? アイツに憑いている者を引き離すぞ! シルヴィー、奴のところへ行け!)

「はーい」


 え? アイツって。あの人って、山県やまがた先生?

 猫背で肩を落とし、顔だけをこちらに向けている山県先生。


 ドーン!


 俺たちが屋上に着地すると同時に花火が上がる。納涼祭のラストを飾る、花火大会のスタートだ。


「山県先生、なぜこんな所に?」

「山県先生、なぜこんな所に?」


 俺の質問に、俺の真似をして返す山県先生。しかも、眉間にシワを寄せ、口を尖らせながら言う。

 はぁ? 俺、あんな顔をして言ったか?


(言ったな)

「言ったね」

 2人で声を合わせて言う、守護霊様とシルヴィー。


「声を合わすな!」

 俺は2人にツッコミを入れた。


 ドーン!

   ドーン!

 ドーン!


「仲の…い…だね、赤…君。本当…し…よ」

 花火の音とカブり、何を言っているのかよくわからないのですが…。

 山県先生って、授業の時もそうですよね?


「あの山県先生、なぜ…。」

「うるさ…! 私は…こ…。教師と…って、…の…ま…なのだ! だから…のよう…が羨ま…だよ! 赤…には…ここ…く…ってもら…! あはははは!」


 ドーン!

 ドドーン!

  ドドド!

 ドーン!


 どうしよう…。何を言っていたのか、わからいんだけど…。しっかし、ここまで花火とカブるなんて、コントだよな。でも、最後は笑っていたから俺も笑っておくか。


「あはははは!」

「何が…しい! 教師を…に…て!!」


 ドドドドーン!

 ドドーン!


 あっ。今のはなんとなくわかった。


「ねぇLoki(ロキ)でしょ? 何してんの?  Laufey(ラウフェイ)様に怒られちゃうよ?」

 シルヴィーが意味のわからない事を山県先生に向かい言った。

 

「はぁ? って、お前! Siva(シヴァ)様の!? 何で精霊になってんだよ!」

 山県先生はシルヴィーに向かい、怒鳴るように言う。

 あれ? 山県先生の声が花火の音と、カブっていないぞ?


(今、喋っているのはロキだからな。)

「ロキ? 誰?」

(お前なあ。城崎から勧められた本に載っていただろ? 忘れたのか?)

「へ? 神話の? ロキって、いたずら好きの神、ロキ?」

(そうだ。いつまでも子供みたいな事をしやがって…。さあ純。五鈷杵ごこしょでコイツを斬っちまえ)


「おい人間! 聞こえたぞ! キサマ、人間が俺様を呼ぶときは様をつけろ! Loki(ロキ)様と呼べ!」

 山県先生の声が、花火とカブっていない所をみると、喋っているのはロキなのだろう。


(さあ純。斬るんだ!)


 えぇ〜。斬って大丈夫なの? 守護霊様が言うのだから大丈夫か? なんだか心配だな…。


 シルヴィーとの戦闘の時とは違い、オレンジ色に近い光の刃が、五鈷杵ごこしょから伸びる。

 本当に大丈夫か?


 俺はその刃で山県先生を斬る。


「えい。」

 

 斬られると同時に、暗い紫色? 藍色? の光を放つ山県先生。

 しばらくすると、山県先生の背中から巨大なオジサンが出て来た。

 そして、そのオジサンはため息まじりで俺に言う。

「普通さあ、斬る? 一応さあ、俺も神なんだけど」

「はい。存じてます」

 

 この人がロキ様? えっと、巨人族だったよな。てか神様なのに神々(こうごう)しく無いのは何でだ? シルヴィーの方が神々しく見える時があるけど…。


「今は剥奪されているからだ。俺だって、いつもは神々しいぞぉ?」


 自慢げに言っているけど、剥奪されたんでしょ?

 てか、ロキ様も心で会話ができるの?


「ねえ純。こっちのオジサンはどうする?」

 シルヴィが山県先生の頭を抱え、膝枕をしながら心配そうに俺に聞いて来た。


(おっ? 優しいなシルヴィー。良い子だ。)


「そうだね。どうしようか…」

 俺が答えたのと同時に、山県先生は目を覚ました。


「はっ! 君は?」

 自分を膝枕するシルヴィに驚いている様子。

「私はシルヴィー」

 

 シルヴィーの顔を見ながら涙を流す、山県先生。


「私は…。な…事を…ろ…。か…にも、教師…ばな…。赤城…ん…い」


 ドーン!  

  ドーン!

 ドーン!

  ドドドドドド!

 ドドーン!


 あぁ…。フィナーレの花火だ…。

 何を言っているか、全くわからないや…。


「山県先生。とりあえず、下に行きましょう。立てますか?」

「ああ。本当…まな…。あと…行け…」


 ドドーン!


 おまけの花火か? 肩を落とし、屋上の出口に向かう山県先生。

 山県先生の姿が見えなくなったのを確認し、シルヴィーがロキに言う。


「で? 何をしていたの?」

「お前らには関係ない…」

「ちょっと、ジャヤンタ。アンタからも言いなよ!」


 ジャヤンタ!?


(おいコラ! 名前で呼ぶな!)


「守護霊様って…。ジャヤンタって…」


 マジかよ!?



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ