I’m free to be whatever I
納涼祭のメインイベント。花火の打ち上げの時間が近づく。
万里さんは佐谷部長から呼び出され、どこかへ行ってしまった。
「用事が済んだらLINEするね。それまでは香織とも一緒にいてあげて!」と言っていたけど。肝心の
香織さんがどこにいるのかわからない。
生徒会役員のテントにもいなかったし、生徒会の人たちに聞いても、わからない状態。LINEも既読にならず。
さてさて、どうしたものか…。
「ねえ純。何だか嫌な予感がするんだけど」
シルヴィーが、周りに探りを入れながら俺に言う。
確かに先ほど感じた、俺を観察するような視線。あの視線は、悪意に満ちた心の、成人男性のようだった。
悪霊に近い存在。この世に不平不満を抱き、その心にため込んだ何かを俺にぶつけているような、そんな嫌な視線。
「シルヴィー。俺から離れちゃダメだよ」
「離れないよぉ。純は私が守ってあげるんだから」
はぁ? 俺よりも弱いくせに、何を言っちゃってんの?
(純。今のシルヴィーは純よりも強いぞ。ネームドだからな)
(マジか!? 名前にそんな効力があるの?)
「あるよぉ〜。シルヴィーは強いんだぞぉ〜」
はぁ!?
「ちょっ! シルヴィーも心で会話ができるの?」
「できるよん。純は私の主だもん」
マジか…。
「マジだよん」
「いや、今の返答はいらないヤツね」
「はーい」
りんご飴を食べながら返事をするシルヴィー。
てか、シルヴィーって先程からずっと食べてるけど、そんなにお小遣いをもらったのか?
(シルヴィーは商店街のオッサンとオバチャンに、ロハで貰っているぞ)
「マジかシルヴィー!? ダメだろ! ちゃんとお金を払いなさい!」
「えー。だってお金はいらないよって。その代わり内緒だよ。って言っていたよ」
もしかして、無自覚のチェイストか?
(正解)
(正解かよ!)
「ねえ純。あそこに誰かいるねぇ。気持ち悪いオーラを出しているよ」
シルヴィーが指を差しながら言った方角。それは部室棟、旧校舎の屋上だ。
今夜、屋上が開放されるのは新校舎のみ。すでに、たくさんの生徒が集まっている。なんで旧校舎に人が?
てかシルヴィー、うまく話を逸らしたな。
「それじゃ、行ってみるか」
(そうだな。あの校舎の裏側に行き、誰も見ていないところでシルヴィーに屋上まで飛んでもらおう)
「ちょっ! 待っ!? 出来んの?」
「できるよん! 行こう!」
飛ぶって、ジャンプって事? 嫌だな…。怖いな…。
そして俺たちは部室棟と呼ばれる、旧校舎の裏に来た。
外灯もない旧校舎裏。その暗闇の中、シルヴィーは俺の背後にピタッとくっ付く。そして次の瞬間、俺は夜空に舞い上がる。
「前置きなしー!」
叫ぶ俺。
マジか! ちびりそうな高さだ…。
遠くに俺の住むマンションらしきものが見える。
おそらく、今見えているところが多摩センター駅だろう…。
「いたよ。あそこ」
シルヴィーがそう言って指を差す。
「ちょっ! 手を離さないで!」
(あははは! 純、情けない声を出すな! あははは!)
「大丈夫だよ。私と純はハートでつながっているから。手を離しても落ちないよ?」
「そ、そうなんだ…」
意味はわからんが、怖い。
(純。五鈷杵を出せ。準備はいいか? アイツに憑いている者を引き離すぞ! シルヴィー、奴のところへ行け!)
「はーい」
え? アイツって。あの人って、山県先生?
猫背で肩を落とし、顔だけをこちらに向けている山県先生。
ドーン!
俺たちが屋上に着地すると同時に花火が上がる。納涼祭のラストを飾る、花火大会のスタートだ。
「山県先生、なぜこんな所に?」
「山県先生、なぜこんな所に?」
俺の質問に、俺の真似をして返す山県先生。しかも、眉間にシワを寄せ、口を尖らせながら言う。
はぁ? 俺、あんな顔をして言ったか?
(言ったな)
「言ったね」
2人で声を合わせて言う、守護霊様とシルヴィー。
「声を合わすな!」
俺は2人にツッコミを入れた。
ドーン!
ドーン!
ドーン!
「仲の…い…だね、赤…君。本当…し…よ」
花火の音とカブり、何を言っているのかよくわからないのですが…。
山県先生って、授業の時もそうですよね?
「あの山県先生、なぜ…。」
「うるさ…! 私は…こ…。教師と…って、…の…ま…なのだ! だから…のよう…が羨ま…だよ! 赤…には…ここ…く…ってもら…! あはははは!」
ドーン!
ドドーン!
ドドド!
ドーン!
どうしよう…。何を言っていたのか、わからいんだけど…。しっかし、ここまで花火とカブるなんて、コントだよな。でも、最後は笑っていたから俺も笑っておくか。
「あはははは!」
「何が…しい! 教師を…に…て!!」
ドドドドーン!
ドドーン!
あっ。今のはなんとなくわかった。
「ねぇLokiでしょ? 何してんの? Laufey様に怒られちゃうよ?」
シルヴィーが意味のわからない事を山県先生に向かい言った。
「はぁ? って、お前! Siva様の!? 何で精霊になってんだよ!」
山県先生はシルヴィーに向かい、怒鳴るように言う。
あれ? 山県先生の声が花火の音と、カブっていないぞ?
(今、喋っているのはロキだからな。)
「ロキ? 誰?」
(お前なあ。城崎から勧められた本に載っていただろ? 忘れたのか?)
「へ? 神話の? ロキって、いたずら好きの神、ロキ?」
(そうだ。いつまでも子供みたいな事をしやがって…。さあ純。五鈷杵でコイツを斬っちまえ)
「おい人間! 聞こえたぞ! キサマ等、人間が俺様を呼ぶときは様をつけろ! Loki様と呼べ!」
山県先生の声が、花火とカブっていない所をみると、喋っているのはロキなのだろう。
(さあ純。斬るんだ!)
えぇ〜。斬って大丈夫なの? 守護霊様が言うのだから大丈夫か? なんだか心配だな…。
シルヴィーとの戦闘の時とは違い、オレンジ色に近い光の刃が、五鈷杵から伸びる。
本当に大丈夫か?
俺はその刃で山県先生を斬る。
「えい。」
斬られると同時に、暗い紫色? 藍色? の光を放つ山県先生。
しばらくすると、山県先生の背中から巨大なオジサンが出て来た。
そして、そのオジサンはため息まじりで俺に言う。
「普通さあ、斬る? 一応さあ、俺も神なんだけど」
「はい。存じてます」
この人がロキ様? えっと、巨人族だったよな。てか神様なのに神々しく無いのは何でだ? シルヴィーの方が神々しく見える時があるけど…。
「今は剥奪されているからだ。俺だって、いつもは神々しいぞぉ?」
自慢げに言っているけど、剥奪されたんでしょ?
てか、ロキ様も心で会話ができるの?
「ねえ純。こっちのオジサンはどうする?」
シルヴィが山県先生の頭を抱え、膝枕をしながら心配そうに俺に聞いて来た。
(おっ? 優しいなシルヴィー。良い子だ。)
「そうだね。どうしようか…」
俺が答えたのと同時に、山県先生は目を覚ました。
「はっ! 君は?」
自分を膝枕するシルヴィに驚いている様子。
「私はシルヴィー」
シルヴィーの顔を見ながら涙を流す、山県先生。
「私は…。な…事を…ろ…。か…にも、教師…ばな…。赤城…ん…い」
ドーン!
ドーン!
ドーン!
ドドドドドド!
ドドーン!
あぁ…。フィナーレの花火だ…。
何を言っているか、全くわからないや…。
「山県先生。とりあえず、下に行きましょう。立てますか?」
「ああ。本当…まな…。あと…行け…」
ドドーン!
おまけの花火か? 肩を落とし、屋上の出口に向かう山県先生。
山県先生の姿が見えなくなったのを確認し、シルヴィーがロキに言う。
「で? 何をしていたの?」
「お前らには関係ない…」
「ちょっと、ジャヤンタ。アンタからも言いなよ!」
ジャヤンタ!?
(おいコラ! 名前で呼ぶな!)
「守護霊様って…。ジャヤンタって…」
マジかよ!?