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赤城君は見えている  作者: 青紙 ノエ
第2章 シロ○ンツの精霊
8/13

 Good ol'


 午後4時38分。

 代垂水だいたるみとうげからの帰宅途中。

 八王子バイパスを過ぎたあたりから、異様な湿気が身体に纏わりついてくる。どうやら市街地は、夕立があったらしい。


「純の家はまだ?」

「あと、30分位かな」

「ぶぅぅ!」


 ()()()()()。という言葉があるが、リアルに『ぶぅ』と聞いたのは初めてだ。


 先ほど、俺と契約を交わしたシルヴィーは、ノートン君の後部座席にいる。今日から赤城あかぎで一緒に暮らすことになるわけだが、まずは母さんに事の経緯いきさつを話さなければ…。

 父さんは喜ぶだろうけど。母さんは何て言うかな?


 


 そして俺たちは夕方五時を少し過ぎた頃に、ガレージに到着する事ができた。


 昼間の時とは違い、誰もいないガレージは閑散としている。俺はノートン君をガレージに置き、自宅へと向かう。


 商店街を歩く俺とシルヴィ。シルヴィーは俺と手をつなぎながら、キョロキョロと周りを見渡している。ヴィレヴァンの前では、俺の手を引き、『何これ?』と聞いてくる。まるで目に映る物、全てが初めて見るかのようだ。


「ねえ純。これは何?」

 ドラッグストアの入り口付近に置かれたスプレーを見て、俺に質問をして来るシルヴィ。


「これはデオドラントスプレーだよ。」

「Deodorantspray? 何? 何に使うの?」

「発音いいなおい!!」

「ん? 何が?」

「いや、何でもない…。まあ簡単に言うと、体臭を誤魔化す物」

「ああ、そっか! 人の子は臭いもんね!」

「え? 臭いの?」

「うん。純は少しだけど臭い…」

 

 直球!! 


「俺、臭いのか…」

「落ち込まないでって。少ししか臭くないってば」


 うなだれる俺に、シルヴィーは笑顔で言う。でもフォローになっていないからね!



 商店街を抜け、自宅マンションに近づくと、公園が見えてきた。

 公園の中に植えられた樹木を見て、シルヴィーが言う。


「純は色々な女と、ここを歩いているの?」

「はぁ? 何それ?」

「ここの植物たちが言っているよ? 新しい女だ。って」


 植物と話ができるのかよ!?


「もしかして、万里さんと香織さんのことかな?」

「誰それ? 女?」

「うん、2人ともお隣さんだよ」

「ふーん」


(どうしたシルヴィー? ヤキモチか?)

「違うもん…」


 やっぱりシルヴィーにも守護霊様の声が聞こえているんだ。


 マンションのエントランスに入り、エレベーターホールで待機をしていると、非常にバッドなタイミングで、浴衣を着た万里さんがエレベーターから降りてきた。

 どうやら今から納涼祭に向かうようだ。


 俺とシルヴィーを交互に見る万理さん…。そして何かを悟ったように、笑顔で言う。

「そうねぇ。私も一緒に話を聞きましょうかしら?」

 そう言って、自分が降りたエレベータに俺を押し込む。


 何で万里さんまで…。




 7階に到着。

 俺の足取りは重い…。

 すると、シルヴィーは心配そうに俺に聞く。

「どうしたのジュ…。あるじ?」

 おいおい、何でその呼び方?


「あっ、あるじ!?」

 万里さんが大声で聞き返した。


「いや、違くて! てか、シルヴィー! その呼び方はやめろ!」

「はーい」

 悪びれた素振りもなく、外を眺めながら俺に言うシルヴィー。


 そして、自宅の玄関を開ける。すると、なぜか母さんが玄関にいた。


「ああ。やっぱ帰ってきたんだ。何だか外が騒がしかったからね…。 てか誰!? そのは!?」


 まあ、こうなるよな…。


「とりあえず、2人ともあがって。」



 リビングに入り、ソファーに座る万里さんとシルヴィー。

 麦茶を用意し、2人の対面に座る母さん。

 リビングテーブルの前で、なぜか正座する俺…。

 

 

「で? そのお嬢ちゃんは誰なの?」

「えっと…」

 説明をしたいのだが、なんて言えば良いのかわからない…。


「ねぇ純君? こんな幼気いたいけな少女を連れまわしたらダメだよ…」

「はぁ!? 違うって! 全然、幼気なんかじゃないって!」


 スパーンッ!!

 今のスパーン!! は母さんが俺の頭をスリッパで叩いた音である。


なぁんすっとね!」

 俺が母さんを怒鳴ると、母さんの目からは涙がこぼれ落ちている。


「純君…」

 あっれー?

 万里さんまで泣いているんじゃけど?

 あっれー?

 もしかして、俺が誘拐してきたとか思っちゃっている的な?


「えーっと、2人とも? わかりやすく説明をするので、良く見ていてくださいね」


 ハンドタオルで涙をぬぐう、母さんと万理さん。そして、俺の事を凝視する。


「いや。見るのは俺じゃなく、シルヴィーを見て」


 今度はシルヴィーを凝視する2人。


「はぁ…。可愛いね…」

 母さんが、ため息を漏らすように言う。


「それじゃシルヴィー、消えてみて」

「はーい」


 シルヴィーは能天気な声で返事をし、その場でパッと消えた。


「えっ!?」


 まあ、驚きますよね普通は…。

 でも、これだけじゃ信じてもらえないだろうから。


「ありがとシルヴィー。姿を見せてもらえる?」

「はーい。次は何をする?」

「シルヴィーは、風と水の加護を授けているんでしょ?」

「うん」

「それじゃ、ちょっと待ってて」

「はーい」


 俺はキッチンに行き。シリアルボウルに水を入れ、それをテーブルに置いた。

 

「それじゃシルヴィー。この水を氷にしてから、その氷を薄くスライスしてもらってもいいかい?」

「はーい」


 シリアルボウルに入った水は、30センチほど浮かび上がる。

 そしてフワフワと浮かぶ水は、ピキピキと音を立て、凍り始めた。


 その間に俺は、冷蔵庫からコンデンスミルクとイチゴのシロップを用意する。


 俺がテーブルに戻ると、宙に浮いた氷が、シュン!シュン! と音をたてながら、かき氷となり、シリアルボウルに氷の山を作って行った。


 母さんと万里さんは、呆然とその光景を見ている。


「できたよ。これでいい?」

「ありがとう、シルヴィー。上手だね」

「うん!」

 

 シルヴィーは褒められた事が嬉しかったのか、俺の背中に抱きついてきた。


 何だかなぁ…。

 ほんの数時間前までは、俺のことを殺す勢いだったのに…。


 とりあえず、氷イチゴを完成させ、母さんと万里さんに渡す。


「それじゃ、食べながら聞いて」


 俺は2人にシルヴィーについて、話を始めた。


 

 代垂水だいたるみとうげで起きていた事。もちろん、万里さんに憑いていた、浮かばれない霊の事も。

 土地神様と守護霊様の事。

 精霊の事。それはシルヴィーが群れを成さない精霊である事と、シルヴィーの年齢が84歳だという事だ。

 シルヴィーの年齢を聞いた母さんには『あんたアホか?』と言われた…。

 そして、俺とシルヴィーが、名付けの契約を交わした事と、それに伴い共に暮らすこと。


 

 「あらぁ。それじゃ、これからは一緒に暮らすのね! シルヴィーちゃんは何が好きなの? カレー? シチュー?」

 

 母さんが嬉しそうに、シルヴィーに質問をしている。

「あの。母さん、精霊は人間と違って、飲んだり食べたりはしないんだよ」

「そんな…」


 肩を落とし、落胆の表情をする母さん。


「残念? ねえ残念、人の子? てか、私はあなたを何て呼べばいい?」

 

 シルヴィーの質問に、目を輝かせる母さん。


「お母さん。って呼んでもらえる?」

「はーい。お母さん」

「ヒョー! シルヴィーちゃん、カワユスか!」


 テンションがアゲアゲ状態の母さん。

 母さんを他所に、万里さんが話の内容を変えてきた。


「はい! オッケーわかった! それじゃ純君は私と納涼祭に行こ。早く用意して!」

「え!? 俺も行くの?」

「行くの!」


 万里さん、何で怒っているんだ?


「じゃあ母さん、納涼祭に行ってくるから、夕飯はいらないよ」

「はいはい、行っといで」


 シルヴィーの頭を撫でながら、俺に対し、素っ気なく言う母さん。


「万里さん、俺はこのまま出かけらるから行こうか」

「うん…。てか、純君。私、浴衣を着ているんだけど…」


 窓から外を眺めながら言う万里さん。


(こう言う時は、『可愛い柄だね、万里さんに似合っているよ。』って言うんだぜーい)

 守護霊様が俺に助言をしてくれた。

(あっ、そうか!)


「ごめん万里さん。さっきは突然だったから言い忘れていた。その浴衣の柄、色と合っていて可愛いね。万里さんに似合っているよ。俺と一緒に歩いてもらっても良いかな?」

「うん。純君と一緒に行くために着たんだけど…」


「ひゃー! ちょっと! 私とシルヴィーちゃんの前で、やめて!」


 母さんが楽しそうにしている…。


「純! 似合う?」

 いつの間にか浴衣を着ているシルヴィー。どういう事だ?


(魔法だな)

(スゲーな精霊! 何でもありじゃねーか!)


「すごいねシルヴィー」

「違う柄の方が良い? えい!」


 掛け声と同時に色と柄が変わり、万里さんと同じ柄の浴衣となった。


「ちょっとシルヴィー! 私とカブってる!」

「だって純はこれが良いんでしょ?」

「ダメ! てか、何でアンタも来るのよ!」

「ねぇ純、それじゃこの柄は?」

「ちょっと! 無視するな!」


 何これ…。

 


「ねえ母さん。皆にシルヴィーの事をなんて言えば良いかな?」

「はぁ? そんなの爺ちゃんの孫でいいよ。ハーフって言えばいいでしょ? はい、シルヴィーちゃんにお小遣いね。」


 そう言って母さんは、浴衣用の巾着にお財布を入れて、シルヴィに渡した。


「ありがとう。お母さん」

 そう言って、母さんに抱きつくシルヴィー。

 

(ねえ守護霊様? これもチェイストなのかな? 微妙にシルヴィーの笑顔が眩しいんだけど…)

(正解)


 でチェイストの発動って…。こりゃ精霊って美人に見えるはずだわ…。




      * * *




 学校に到着。


 駅のホームにいながら聞こえていた、御囃子の音は校庭中に響き渡っている。確かにビッグイベントである。

 正門にいる実行委員の人たち。俺たちは準備の担当だったので、納涼祭が始まったらお役御免である。

 そして実行委員の中に、武田先生(兄)の姿が見える。

 即座に俺を発見する、武田先生(兄)。

 そして足早に、こちらへと向かって来る。


「ねぇ純。アイツ何者? っとく?」

 シルヴィーは武田先生(兄)に対し、嫌悪感丸出しの表情で、剣を取り出した。


「シルヴィー、剣を出すな!」

「はーい」


 そして武田先生(兄)は俺の目の前まで来ると、目を見開らいて言う。

「何しに来たのかな? 赤城君」

 早速かよ!

「あの、親戚の子が九州から来たので、遊びに来ました。ダメでしょうか?」


 武田先生(兄)は、親戚の子と言われたシルヴィーを見る。

 

(シルヴィー。『純とお祭りダメ?』と言え)


 ナイスです! でも守護霊様、おヌシも悪よのぉ。


「ねえオジサン。純とお祭りダメェ? ねぇ…」

 淡い光を放ち、武田先生(兄)におねだりするシルヴィー。

 武田先生(兄)は、シルヴィーに言われ、デレ顔となる。

 キモ…。


「どうぞぉ。お兄ちゃんと楽しんで来てねぇ」

 気持ち悪い笑顔で言う、武田先生(兄)。


 おお! チェイストスゲーな!



 そんな訳で、無事に場内に入れた俺たち3人。

 

 出店に興味津々なシルヴィーと、ご満悦な表情をする万理さん。

 校庭の中央では櫓が立ち、和太鼓のが響き渡る。

 そんな中、守護霊様が俺に言う。

 

(純、見られているぞ。)

(見られている? って誰が? 万里さん? シルヴィー?)

(純だ。)

(俺? 何で?)

(実は土地神に頼まれたことは、もう一つある。)

 



 守護霊様が言う視線の主。

 守護霊様に言われてから気がついた。

 

 確かに見られている。いや、観察されているという言い方が正しいかもしれない。

 まるで俺の一挙手、一投足を観察しているようだ。


 だが、その視線はどこから来るものかはわからない…。

 シルヴィーは気付いていないようだ。


 嫌な予感がする…。


 土地神様のもう一つの依頼とは何なんだ?




 そんな時、誰もいない屋上に人影があった。

 その人影は、1人の少年を見ている。

 

 「すごいね赤城君。御子みこ精霊エルフ 持ちか。ワクワクするな…。」


 不敵な笑みを浮かべながら言う人影。


 

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