Fever Dream (high)
昨夜、偶然だったけど、会える事ができた武田先生。
「良かったー! 赤城君、会いたかったとよー!」
無理やり言っている感が、丸出しだった。武田先生って、大人なのに可愛らしいな。
(惚れたか?)
「ちょっと! 勝手に人の心を!」
俺が守護霊様にそう言うと、リビングから母さんのガナリ声が聞こえた。
「何を騒いでっと! 早しな! 万里ちゃん来てっと!」
母さん。アンタは関東の人でしょ? 無理やり、方言を使わんでも…。と、その時。俺の部屋のドアが開く。
「純君おはよー! トントン」
万里さんだ。
「万理さん。ノックは最初でしょー?」
「入るんだから、一緒でしょー?」
俺の真似をして、笑顔で語尾を伸ばす万里さん。
「はい、こっち向いて。上向いて」
万里さんが未だ装着していない、俺のネクタイを締めてくれている。
(もう、すっかり純の奥さんだな)
(う、うるさい!)
すると、母さんが俺の部屋の開きっぱなしのドアの前で言う。
「ほら! 遅刻するわよ…。ってぃやだぁ〜。母さんはおじゃま虫ね。退散、退散」
「大丈夫ですよ、お母さん」
万里さんが笑顔で母さんに言う。
「もう、万里ちゃんも香織ちゃんも可愛いのに、こんなだらし無い男のどこが良いのかしら。」
やかましい!
* * *
学校に到着。
来週から期末試験が始まるせいか、今週は朝から静かだ。ほとんどのクラスメイトが参考書やらノートを開いている。高校生になると、赤点と言う言葉が出てくるので、当然だ。
しかもだ。試験が終われば夏休み。みんな大好き、夏休みが待っている。せっかくの夏休みに、補講なんて受けたくない。
(おい純)
(何? 守護霊様)
(視線を感じないか?)
視線?
確かに…。って?
「斉藤先輩!? どうしたんですかー?」
斉藤先輩がニコニコと、それはもう楽しそうに俺の席の真後ろに立っている。
「赤城。今日の昼は部室で昼食を摂りたまえ。重大発表があるのだ! がはははは!」
と言うが、嫌な予感しかしないな…。
「おっと。それと、この事は女子には内密に! がはははは!」
この人、大丈夫か? 隣に井本さんがいるんだけど…。
「がははは!」
大声でこの場を去る、斉藤先輩。
俺の隣で、不思議そうな顔をする井本さん。
「純君も大変だね」
井本さんが呆れた顔をして俺に言う。多分、俺も井本さんと同じような顔をしているだろう。
「そういえば今朝は大丈夫だった?」
「ん? 何が?」
「万理に襲われなかった?」
「さすがにそれは無いよ。一応、俺も男だし」
勝手に部屋に入ってきたけど…。
「それにしては、返事に間があったね」
あったか? 最近の井本さんはイケイケモードだな…。
「ごめん。気にしないで。あぁもぉ、生徒会なんて入らなきゃよかったよ…」
そう言って井本さんは机にうつ伏せになる。
そうか。朝、当番で校門に立つんだもんね。確かに面倒だよな…。
「でも、井本さんはすごいよ。俺は早出とか無理だろうな。そうだ! 困った事があったら言ってね。俺も相談に乗るからね」
「それじゃ…」
「なに?」
「私も…。下の名前で…。香織って呼んで。万理だけズルいし…。」
「えっ? うん。わかった」
* * *
そして、昼休み…。
弁当を持ち部室に行くと、見た事のない先生がいる。他には誰もいない部室。その先生は窓から外を眺めている。
ずいぶん背の高い先生だな…。
「こんにちは。写真部の赤城です。」
俺の一言で、こちらに振り向く先生。マジか? カッコいい先生だな!
「初めまして赤城君。武田です。山県先生の代わりにこの学校に来ました」
「そうでしたか。ところで斉藤先輩は?」
「僕がね。君を呼んでもらったんだ。教師としてではなく、優美の兄としてね」
(どうやら、武田先生の兄貴のようだな)
(ユウミって? そうだっけ?)
「もしかして、武田先生のお兄さんですか?」
「ああ」
何で険しい顔をしているんだ?
「優美はね。2学期から、すぐそこの中学校に赴任することになってね」
だから何でそんなに怖い顔をしているんだ?
「そうでしたか。佐賀には知り合いがいないとか言っていました。東京に来る事ができて喜んでいるのでは?」
武田先生(兄)は両手を天に向け。首を左右に振っている。
「ふっ…。白々しい…。」
はぁー! なんですかぁー!
白々しいとは何ですかー!?
「あの、武田先生? どう言う事ですか? それに僕を呼んだ用件とは何ですか?」
「赤城君、君の身長は?」
「身長ですか? 161ですが?」
(ちっちゃ!)
(うるさい!)
「ちっさ…。」
「うる…。うっうん。余計なお世話です。」
「赤城君。今から話す事はとても大事な事だ。耳の穴をかっぽじって、よく聞くように。」
「春色梅児誉美か!」
「おっ? 博識だね?」
「いやぁ〜。それほどでもぉ〜。」
沈黙が流れる…。
何の用で俺を呼んだ?
一体、何がしたいんだ?
「赤城君。僕はね。」
突然話を始める、武田先生(兄)。
「優美の事をとても大事に思っている。毎日毎日、君の話をされるとね。腹が立つんだよ。ハッキリ言わせてもらうとね。僕は君が大嫌いだ。なんて言ったって、僕はシスコンだからね。あはははは!」
カミングアウトォー!!
あぁ、くだらない…。
仮に俺が武田先生に恋をしたとしよう。俺なんかが相手にしてもらえるはずナイじゃないか!
何を考えているんだ、武田先生(兄)よ。
俺は未だ1人で話し続ける、武田先生(兄)を無視し、お弁当を食べ始めた。
1人で盛り上がる、武田先生(兄)。そこへ、佐谷部長がやって来た。
「誰!?」
1人で盛り上がる、武田先生(兄)を見て佐谷部長が俺に聞く。
「新しい顧問の武田先生です。」
尚も1人で話す、武田先生(兄)。
「大丈夫? この人…」
「おそらく、今は1番の良い話なんでしょうね。それではお弁当も食べ終わったので、僕は教室に戻ります」
俺が弁当箱をランチケースにしまうと、佐谷部長が俺のうなじあたりをつかんだ。
「待て! 私はキサマに話がある」
「僕はありません」
佐谷部長の手を払い除け、俺はそう言って、部室から逃げ出す。
「待て!」
鬼の形相で追いかけてくる佐谷部長。
「おい! 赤城君! 話はまだ終わっていないぞ!」
武田先生(兄)までかよ!
(修羅場だな。あはは!)
(笑い事じゃないんですけど! 守護霊様、助けてくださいよ!)
部室のある旧校舎の渡り廊下。
走る俺の後を追いかけてくる2人。
すると前から、斉藤先輩? 助かった!
「斉藤先輩! 助けてください!」
「任せろ! がははは!」
斉藤先輩はそう言って俺を抱きしめる。
はっ?
「赤城君が困っているじゃないか! もうやめたまえ!」
ちょっ? 待っ? 何で俺を抱きしめる?
「じゃぁそのままでいい! おい赤城! お前は杉山さんの何なんだ!」
息を切らしながら、俺に問い詰める佐谷部長。
「何って、万理さんは家のお隣さんですが?」
てか、斉藤先輩? もう離して…。
「じゃぁ、井本さんは!」
「井本さんも家のお隣さんです。」
驚愕の表情をする佐谷部長。
「なんてウラヤマケシカラン男だ! キサマはどちらかとお付き合いをしているのか!?」
なんなんだよ、この人…。
「ただのお隣さん同士じゃないですか。いい加減にしてくださいよ」
「そうか…。すまん…」
はっ? 何その突然、しおらしくなって。
「優美はどうなんだ!」
武田先生(兄)…。
「武田先生は僕の恩師ですが?」
「そうか…。すまん…」
はぁ? なんなのこの2人は?
ところで。
「あの、斉藤先輩。そろそろ解放して頂きたいのですが…」
未だ俺を抱きしめている、斉藤先輩に俺は言った。
「まだ危険だ」
「何がですか!?」
「いいから」
何この状況…。
この状況下、佐谷部長が切り出した。
「赤城。私は百合だ。杉山さんと井本さんには近づくな。これはキサマのためでもあり、私のためでもある」
カミングアウトォー! ここでもかよ!
てか、家が隣同士なんですって! 井本さんなんて、席まで隣なのですが…。
「赤城君。僕はシスコンだ。」
「知ってます。先ほど聞きました。」
「いいかい、優美には近づかないでくれ。これは君のためでもあり、僕のためでもある」
「赤城君…」
あ…。何だか嫌な予感…。
斉藤先輩は俺を抱きしめながら言う。
「俺は薔薇だぁ! がはははは! いつでも俺の胸に飛び込んで来い! これはお前のためでもあり、俺のためでもある! がはははは!」
「そりゃ、アンタのためだけでしょー!」
なんなのこれ…。
(な? 一波乱あったろ?)
(三波乱じゃね?)




