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SS:あの日の特訓

SS=ショートストーリー


この話の主人公は神崎紅です。


 ゼロコンマ何秒が、一秒に、何十秒に、何百秒に、何千秒に。瞬きをするのにも満たないごく僅かな時間が、永久の時のように感じる。肌の産毛に至るまで、感覚が最大限に研ぎ澄まされ、今なら地球上のすべての音が聞き取れるような、そんな気さえしてくる。


 腰に構えた手は未だ動かない。いや、動かせない。


 相手に集中し、その時を待つ。


 少しでも反応が遅れたら、俺は死ぬ。その実感だけが、強く頭の中を支配している。


 息を吸うのが難しくなってくる。呼吸の音が、気管を通る風の感覚でさえ鬱陶しく感じてしまうほど、今の俺には余裕がない。


 動きを見て、手を動かす。たったそれだけの動きですら、突き詰めれば突き詰めるほど、より精度を増すのだから、熟練の人と俺との間ではどれほどの差があるのだろう。


 唾を飲み込むことすら惜しい。もしもそれで僅かにでも集中を切らしてしまえば、俺はもう次の瞬間には朝日を見ることは永遠になくなってしまうだろう。


 死を実感する。そして途方もないほどに、生を実感する。


 生と死は隣り合わせ。


 死ぬ寸前に人は最大級の生を感じるということを知った。だから何だという話だが、今の俺にはとても重要なことだった。


 人の成長は限界を超えた時というが、俺にとっては今がその時だ。集中の限界は何度も上限を突破し、今この瞬間だけで何度も向上しているような気もしてくる。そして、生きたいという気持ちが心の底から湧き出してくる。


 自分に向けられたものに恐怖を感じながら、じっとそれを見つめる。


 チャンスは一度きり。生きるも死ぬも、それで決まる。


 意識して動いても間に合わない。ならばどうするか。


 簡単だ。無意識でやればいい。人の行動には何かしらの思考が関わってくる。それが行動者自身のものであるのか、それとも第三者によって介入されたのかは置いておいてだ。


 さて、ここまで死の危機に直面し、俺の意識がどう変わったのかについてだが、不思議と肩の力が抜けていた。


 決して生きることを諦めたわけじゃない。ただ、無駄な力を削ぎ落としただけだ。より効率的に物事を対処するための最適な選択がそれだった。


 いつ来るかわからないその時を俺は無心で待つ。 


 目を閉じ、第六感を信じることを選択していた俺は、突然頭の中に光が差した。


 ────来る。そう確かな感覚を信じて、俺は腰の刀を抜刀した。そしてそのまま刀を横一直線に振るう。


 すると、刃に何かが触れ、それは真っ二つになって明後日の方向に飛んでいった。どうやら無事に成功したらしい。


 刀を鞘にしまい直し、俺は一度深呼吸をした。


「これで今回の特訓は成功ですね、師匠」


 俺はそう言って、目を開ける。視線の先には、俺の師匠、堺瑞稀が狙撃銃を空間にしまっている最中だった。


「う〜ん、まさか本当に成功するとは思ってなかった」


 ……なるほど、師匠は俺が気配斬り(with狙撃銃)を失敗すると思いながら俺に、【無理やり】やらせていた訳か。


 ふむふむ……


「俺を殺す気ですか!!!???」


 やれと言われたときから流石に無茶だろうと思ってはいた。だが、師匠が俺の実力を見込んで勧めてきたから仕方なくやったけど、今思ってもやっぱり無茶振りすぎるだろう!?


「いやぁ、そういうわけじゃないし、失敗した時は天恵でなんとかする予定ではあったんだけどさぁ?狙撃銃の一撃を防ぐのは信じられないじゃん?」


 その信じられないことを弟子にやらせるんじゃないよ。


「てか、師匠は無理なんですか?」


「まぁ、限りなく不可能に近いかな。悔しいけど、負けを認めるしかできないね」


「……珍しく勝てた」


 この人はいつもスパルタだし、負けず嫌いだし、子供っぽいし、めんどくさい人だ。それと同時に、俺が尊敬している内の一人でもある。


 その人にどんなことでも勝てたのだから、喜んでしまうのは自然なことである。まして、向こうから仕掛けてきた、圧倒的に俺が不利なゲームに勝利して、心の底から嬉しいと思うのは当然だろう。


「次は武器無しで銃弾を避けずに対処してみる特訓はどうかな?」


 あぁ、まじでこの人どんだけ俺に負けたのを気にしてるんだよ。


「OK師匠、今からガチ喧嘩しましょう」


 俺は一度閉まった刀身をもう一度鞘から引き出そうとした。すると、師匠は慌てた様子で、降参の素振りを見せる。はぁ、まじでこの人はいつもこうなんだから。


「冗談!流石に冗談だから!……今のところは」


「い、今、最後になんて言いましたか!?」


 師匠もいい加減反省しただろうと油断したのもつかの間、不穏な一言が確かに聞こえた。俺が追求すると、師匠ははぐらかし始める。


「何も言ってないよぉ?聞き間違えじゃないかな?ほら、今日は────」


 師匠の声が、段々と遠くなっていく。そして、突然目の前が明るくなった。


 ***


 ────懐かしい夢を見た。どうやら俺は、眠りながら神銃を取り出してしまっていたらしい。


 それにしても、あんな特訓もしたっけか。懐かしいや。


 師匠。俺はここまで成長できたのは、あなたのお陰です。またいつか、きっとあなたに会いに行きます。


 でもそれはすべてが終わった後。それまで俺は、絶対に死ねない。それまで俺は、カミ(あいつ)を絶対に許さない。


 今度こそ、決着をつけてやる。


 暗闇の中、紅が見つめるその先で、銃身が怪しげに輝いていた。

紅と瑞稀の特訓シーンを書きたくなったので、書いてみました。絶対に瑞稀は無茶な特訓をさせるってのが想像しやすかったので、すらすらと筆が進むため楽しかったです。


また、最後のシーンはその、まぁ、私の別作品を見ていただけると分かるかもしれません。凄く分かりづらいですが……

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