【追加】第43話 トラブル
復活しました!!(後二話で完結)
桜酒、それは実在しないお酒と言われている。それはとあるオカルト掲示板の中で登場したもの。一部を省略すると、森の中で不審な村にたどり着いた男性が家に泊めてもらったが、家主の不審な様子に家を逃げ出したというよくある話。だが、その話には普段とは違う点が一つあった。
────村の内部の写真が存在するのだ。
大抵のオカルト話はカメラが使えなかったなどと言って証拠の写真がないまま語られるものが多く、真偽が不明のものが大半である。今回はそれとは違って写真が多く添付されていたため、一時期本当の話ではないかと騒がれた。しかし、投稿者は途中で掲示板への書き込みが止まり、他の話とは同じように結局真実だったのかは分からないまま話の興味は薄れていった。
撮られた写真はどれも場所が分かるようなものは存在せず、基本風景しかなかったものの、一枚の写真には明確にそれが何か書かれているものが存在した。
────それこそ、桜酒である。
だがしかし、ネットにその名前のお酒は存在せず、マニアも一度も聞いたことがないため、存在しないお酒というあだ名が付いたというわけだ。
このような経緯から、オカルトマニアの間では謎の酒を作っている怪しい村として、今なおその場所の捜索は続いている。
***
「何気に車でこんな遠出するのは久しぶりだよね?紗黄」
助手席に座る彼女を横目に俺はそう問いかけた。
「前に初日の出を見に、江ノ島へ行った時が最後じゃなかったっけ?」
そうだったか?あぁ、あの時か。
紗黄の質問で俺がひたすら車で運転した記憶が掘り起こされた。今年の初詣には途中、後輩である涼介達を拾う関係で前日の十四時過ぎから運転しっぱなしで流石にあのときは死ぬかと思った。
それ以来車を使ったのは……
「あ〜、確かに」
思い返してみれば、この車を買ったのはいいものの、あまり使っていない。全く使っていない訳では無いが、近所に買い物に行くときくらいに使うのがメインだった気もする。てかメインだった。都内に住んだおかげというか、せいでというか、近くに色々とお店があるからそもそも車を使う機会があまりないというのもある。
一応持っていて困ったことはない。こうやって遠くのキャンプ場にまで行くときには現在進行形でありがたみを感じているし、せっかくならもっとこいつを使ってやろうと思った俺だった。
「だよね?それにしても、もうあれから二年かぁ。早いなぁ〜」
「え、まじ?。俺はその逆だわ。”聖戦”とかも一段落して最近は落ち着いたし」
数年前まではもっとバチバチに怪異と、カミの使徒である七つの大罪と、あまつさえそれを従えていたカミと戦ったりもした。最後の戦いは所謂聖戦というやつなのだが、その後戦いは無事に終結して今は平和な世の中が続いている。
「まぁ時間感覚って人それぞれだからなんとも言えないね」
「紗黄の言うとおりだな。てか、そろそろキャンプ場が見えてくるはずなんだけど……」
車を運転していた俺は、辺りの様子が一向に変わらないことにため息をつきながら言った。
「ねぇ、なんか変じゃない?それに────”霧”が出てきた」
「え?そんなはずな────嘘だろ!?」
紗黄の言葉を冗談だと思った俺だったが、実際に目の前には霧が出ていた。さっきまで一切なかったはずだったそれは、明らかに異常事態である。そしてその霧は普通のものよりも何倍も濃く、近くですら見通しが悪い。
この状況ではスピードが出ていると危険なので、俺は速度を落とそうとする。その時、アクセルを踏む力を強めていないのに、車が徐々に加速していることに気づいた。
車を止めようと俺はすぐさまブレーキを強く踏むが、一切効かなかった。そして試しにドアに手を掛けてみるがびくともしない。
「紗黄、悪い知らせだ。ブレーキが効かないし、ドアも開かない」
「それは……やばいね。どうしようか?」
「通常の手段じゃ、詰んでるね」
車は道路を外れて森の中を突き進み始めた。少しすれば木に衝突して大事故に発展するだろう。
「でも拓真には”あれ”がある」
怪異が狙っているようだし、紗黄の言う通り、”あれ”を使ってこの場をさっさと切り抜けるとしよう。
「紗黄、手を貸して」
「一応聞いとくけど、車はいいの?」
「命よりは安いさ」
そう言って俺は紗黄の手を握り、突如として右手の中に現れた”刀”を掴んだ。そして、体の内から溢れている妖力をそれに流し込む。
「【解除】」
俺の言葉とともに、刀から淡い光が漏れる。そして俺はそれに込められた力、”天恵”と呼ばれるそれを行使する。
俺の持つ力【消滅】は概念を含めたありとあらゆるものに対して作用する。
車の中から、霧が出ている森の中に俺たちの体は瞬時に移動した。操縦者のいない車はコントロールを失いながらも動き続け、やがて大木に衝突する。
「間一髪すぎたね。ちょっとでもワープが遅れてたらお陀仏だったよ」
隣から紗黄が声をかけてきた。
「助かって何よりだけど、あの車どうしようか?」
「とりあえず車が危なそうだし、爆発とかしないように────」
ひとまず助かったので、今にも爆発しそうな車をどう処理しようかと話し合っていた最中、突然、車の周囲の霧が濃くなった。まるで車を覆い隠すようにして広がったそれをただ見つめていた俺たちは、信じられないものを見た。霧の中から見えていた炎の姿が大きく揺れたかと思うと、音もなく姿を消したのだ。
「消え、た?」
「そんなわけ、ないよね?」
顔を見合わせてそんなやりとりをした後、俺たちは車を確認しに向かった。霧の濃さは未だ変わっておらず、少しでも離れれば互いの場所が分からなくなってしまいそうな状況の中、手を繋いで着いたその場所に車の姿はなかった。
怪異に関わっていない人々であれば理解できない状況に頭が働かないだろうが、俺と紗黄は違う。
一般的に怪奇現象と呼ばれるものを対処する専門家、陰陽師である俺たちはこの現象が怪異と呼ばれるものたちが起こしたものであると理解した。
「こんなところでどうなさいましたか、お二方」
不意に後ろから聞こえてきた声に驚いて振り返ると、そこには着物に身を包んだ女性が一人経っていた。足音はしていないし、気配も感じなかった。いつから後ろにいたのかは分からない。ただ一つ分かるのが、少なくともすぐに戦闘が始まる雰囲気ではなさそうだった。
「とりあえず戦う意思はなさそうだけど、どうする?」
「見た感じ妖力を持ってなさそうな普通の人、だね。う〜ん……怪異が関わってそうだし、何かしら裏はあるだろうけど、話をしてみよっか」
「了解」
話し合いを済ませた俺達は、目の前の女性に話しかけた。
「いやぁ、少し道に迷ってしまい困っていて。キャンプ場を目指していたんですが、ここらへんの地理って詳しいですかね?」
「あぁ、そうでしたか。それは大変ですね。ですが、そのキャンプ場?の場所は申し訳ありませんが分かりかねます」
「そう、ですか……」
女性の言葉に少し違和感を抱いた拓真だったが、女性は続けて話した。
「この森には熊が出るんですよ。それに、もうこんな時間ですから、私の家にいらっしゃいませんか?空き部屋はいくつかありますし、困ったときはお互い様ですよ」
女性の提案は普通であれば魅力的だ。だが、怪異の存在がちらつく状況でこの提案、戦う姿勢はないものの、裏はあるだろう。
俺は女性の提案を聞いて紗黄に相談した。
「どうする、紗黄?怪異が関わってそうだし、一旦引くのもありだけど」
「私妖力ないからそうしたほうがいいんだろうけど、正直逃げられないし従うしかないんじゃない?」
「俺も一回分だしなぁ。でも、紗黄の言うとおりだし、ここはあの人についていこうか」
俺が刀を使えるのは後一回だけだ。それ以上は刀を鞘から抜くことができなくなり、天恵も使用できなくなる。
自分達の状況を天秤に乗せて考えたが、怪異に目をつけられているこの状況を加味すると意味のない行為だと思った俺は紗黄の提案に同意した。
自分達の状況に関してだが、聖戦の影響で俺達は大半の力を失っている。特に、俺の場合は妖力の最大値が減少し、以前の四分の一ほどにまで。
また、それに伴ってメインの武器である焔祓という刀が大幅に弱体化された。聖戦で限界を大きく超えて力を使ったため機能が落ちたのか、刀を抜くために必要な妖力が増えてそう簡単に使えなくなってしまった。また、最大火力であれば妖力のほぼ全てが必要になり、飛ばした斬撃の射程は全盛期に比べて短くもなった。
こうなると陰陽師を続けることが難しい。そのため今は前線に出ておらず、支援の方に回っている。昔のように派手じゃないため、やりがいはあるものの、モチベーションが出づらい。
こんな事になっている俺だが、紗黄の方はもっと酷い状態だ。簡潔に言おう。紗黄は妖力を失った。俺が死力を振り絞って戦ったように紗黄も────────するという相当な無茶をした。そして、戦いが終わって紗黄と会ったときに、────────しまっていた。同じようなことを経験していた俺はそこまで焦らなかった。時間をかけて紗黄と接するうちに元に戻ったが、その時に紗黄から天恵が使えなくなっていた。それに気づいた俺達はすぐに検査をし、紗黄から妖力が失われている事に気づいたというわけだ。
怪異に対抗できなくなった紗黄が陰陽師を辞める選択をし、俺も戦いから身を置いたということがここ数年の出来事だ。
あれから数年経っているが、昔の感覚を取り戻そうと妖力の強化と焔祓を使いこなす特訓は続けているが、あまり成果はない。一体どうすればいいのだろうか。
「では、決まったようですね。あぁそうだ、自己紹介がまだでしたね。私は桜、大森桜と申します」
「俺は片桐拓真、隣は妻の志島紗黄と言います」
俺が今後について考えていると自己紹介が始まり、先程の女性の名前が桜であったことを知る。そして、それに続いて俺が自己紹介をした。
「妻だなんて、なんか恥ずかしい……」
妻として紹介したことがどこか恥ずかしかったようで、紗黄は顔を掻きながら小さく呟いた。
「ふふ、仲がよろしいようで。さて、お二人のことが分かりました。では私についてきてください。あぁ、それと言い忘れていましたが、足元にお気をつけくださいね?」
桜さんの言葉と同時に、足元で大きな何かが動いたのを俺は見た。そして《それ》は、紗黄に迫っている。
「え────」
突然のことにまだ状況を把握できていない紗黄は驚きの声を上げるばかりであり、状況は悪化の一途を辿っていた。
戦闘シーンは次回になります。なお、投稿は1月27日の11時20分頃の予定。




