外伝 怪物
IFです。
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こちらの話の外伝的な感じです。
外伝も無事に書き切りました。一応これにて完結です。
時は遡り、瑞稀と凪がまだ幼かった頃の話である。月村燿と月村時雨がその二人の救出の任を請け負っていた。
***
姦姦蛇螺、私はそいつと一対一のバトルを繰り広げていた。そいつの腕は全部で六本。掠るだけでも大怪我だが、捕まれでもしたら私の体は引きちぎられでもするのだろうか。
そんな事を考えながら、私は距離を取りながら神術で着々とダメージを与えていた。祝詞やその他諸々を霊符で省略し、最高効率の状態を維持しながら戦闘を続ける。
しかし、霊符も残り少ない。ずっと移動し続けている今の状態で、祝詞を唱えながら戦闘を維持するのは難しい。そして、祝詞なしで神術を使ったところでダメージにすらならないだろう。それほどまでに、姦姦蛇螺の鱗は耐久性に優れている。
そろそろ新たな作戦を考えるとするか。
天恵は切り札だ。一歩間違えればこの状況で有効打になりえず、むしろ自身の首を絞めることになりかねない。
そして、厄介なのはあのヘビの足だ。姦姦蛇螺の持っている天恵は『簒奪』。自身の下半身を見たものに呪いをかけ、一定時間ごとに何かを奪う能力。今の私は右手を奪われている。そのせいで手印を結べないため、霊符が切れた場合は神術の威力は更に下がる。何を奪うかは完全ランダムなため、左手を奪われでもしたら戦闘は不可能となる。
呪いの一種ではあるため、奪われたものを取り返すことは可能なものの、戦闘時にそれができるほど簡単に解けるものではない。
ならば、ここからは大博打だ。その後の戦闘維持は一切考えず、決着をつけるために死力を振り絞らなくては勝ち目がない。
私の奥義で奴を消滅させる。だが、それには溜めが必要だ。神術でなんとかその隙を作ってみせる。
「『雷流』!」
一直線に放射された水が雷を帯びながら姦姦蛇螺へと向かい、体全体に電気を伝えさせる。鱗は硬いため並の攻撃では刃が立たない。そのため、鱗を攻撃せずに内部に攻撃する。
電流が体をめぐり、内側からダメージを食らった姦姦蛇螺は大きく唸り声を上げながらそこかしこを尻尾で叩く。暴れていてこちらに注意を向けていない。
私はすぐに左腕を刀を鞘に収めるようにして構えを取る。
私の天恵は『蓄積』。動きを止めることで指定したエネルギーを溜め、その時間に比例してエネルギーを増幅させることができる。そして、溜めるエネルギーは闘気。何度も試してみたが、神術ではあの鱗を破壊するのは至難の業のようなので、火力面を重視した戦術に切り替える。
天恵で最大まで増幅させた闘気であれば、その一撃はあの鱗を破壊して本体を断ち切ることだって不可能じゃない。
私の『蓄積』は既に全開まで闘気を高め終わった。まだ姦姦蛇螺は混乱している。これなら決まる。
「威力最大! 『龍喰』!!」
その言葉と同時に私は左手を構え、溜めていた闘気を姦姦蛇螺に向かって放出する。放たれた闘気は龍を形作り、姦姦蛇螺に向かって真っ直ぐに進む。
確かに、時雨の放った一撃は姦姦蛇螺を十分に祓えるものであった。しかし、時雨には一つ失念していたことがあった。
都市伝説、姦姦蛇螺は今までその全てが祓うのではなく封印されてきたという事実を。
今回の任務はとある森で発生した姦姦蛇螺から一般人を護ること。しかし、時雨や燿が来る前に多くの人が姦姦蛇螺の被害にあっており、ましてや瑞稀と凪は姦姦蛇螺に気に入られていたため、あのまま逃げていたとしてもやがて追いつかれて襲われていた。すなわち、夫に二人を守らせるために時雨が戦闘行為をしたことそのものは正しい選択だったと言える。
勝負あったかのように見えた。時雨の奥義によって姦姦蛇螺は敗北すると思った次の瞬間、全てが徒労に終わった。
闘気で模した龍が姦姦蛇螺を飲み込む寸前、姦姦蛇螺の目から血が流れた。
そして、龍はまるで何かに掴まれたかのように締め付けられ、そして小さくなる。闘気が何かと戦うかのように音を出したが、その姿は消えてなくなった。
姦姦蛇螺の天恵である『簒奪』を使って何かを起こしたわけではない。
姦姦蛇螺は巫女を取り込んだという伝承を持つ都市伝説。言い換えれば、二つの魂が混在している存在でもある。巫女は神託を受け取るとされた。すなわち、人ならざる力を所持している。時を越えて、それは天恵と呼ばれるようになったものである。
────すなわち、姦姦蛇螺は魂に紐づく天恵は複数所持している。それは、この時初めて明らかになったことだった。正確に言うのであれば、時雨が初めてそれを知ったときであった。
姦姦蛇螺の封印には必ず一つの工程がある。妖力を持つ者、すなわち陰陽師が一人犠牲にして封印可能状態にさせることだ。
姦姦蛇螺が現れた場合、まず初めに救助活動を行う。姦姦蛇螺が現れた周辺の一般人を避難させ、被害者と存在の強化を防ぐのだ。そして、その後に封印を行うのが一般的な流れである。
だがそれは表向きの流れ。実際には姦姦蛇螺と遭遇せずに救助が終わる可能性はありえない。獣に近い特性を持つそれは獲物を必ず逃さない。また、ただの一般人ではなく、より極上の、陰陽師という獲物を狙う。
そして、あの下半身を見てしまうのだ。呪いにかかりながらも、陰陽師はそれと戦い、命を落とす。そうして満足した姦姦蛇螺を他の陰陽師が封印するのだ。
今回の姦姦蛇螺は自然発生ではなく封印が解かれたもの。すなわち何度かの戦闘経験を持ち合わせている。危険度は他の姦姦蛇螺に比べて格段に引き上がる。だが、餌を、妖力を持つ者の魂を手に入れれば姦姦蛇螺は満足するのだ。それは陰陽師の上層部以外、誰も知らない。
言い換えれば、時雨と燿は生贄にされたのだ。今までも姦姦蛇螺の被害者を助けるという任を受けて多くのものがそれと対峙した。そして、必ず一人命を落とす。それは必要な犠牲とも言える。姦姦蛇螺が出す一般人の被害者は計り知れない。下半身を見た者という軽い条件ではあるが、その様相は極めて恐ろしく、姦姦蛇螺が得る恐怖と、呪いで失われる命は少なくはない。
巫女の持つ天恵『────』によって、龍はその存在を保てなくなったのだった。
エネルギーを使い果たした時雨はその場に倒れ込む。指一本動かせないほどの疲労感が全身を襲い、近づいてくる姦姦蛇螺から逃げることができない。
大きな巨体を引きずる音が迫るなか、時雨は燿と彼が連れて行った子どもたちのことを思い浮かべていた。
ちゃんと逃げられたかな。アイツのことだから道に迷ってないといいけど。あ、そうだ、私まだやり残したことがあった。今日あいつの誕生日なんだ。おめでとうって言わないと。
────無情にも、姦姦蛇螺はためらいもなく倒れていた時雨の体を掴み持ち上げた。
アイツがほしいって言ってたネックレスが私の机の中に入ってるから、家に帰ったら渡すんだ。それと、ちょっと恥ずかしいけどメッセージカードを書いたから、アイツに読んでもらいたいな。ケーキは家に届くように予約してあるから、帰りに買わなくていいか。
後は、アイツに────
────姦姦蛇螺は時雨の命を奪った。
***
瑞稀たちと家に帰り、中々帰ってこない時雨を心配していた燿。家のチャイムが鳴り、受話器を取ること無く玄関に向かいすぐさま扉を開いたが、そこにはケーキの配達員がいた。
燿は落ち込みながらもそれを受け取り、リビングへと戻った。
まだ帰ってこない。電話が鳴った。妻が死んだと言われた。そして姦姦蛇螺は無事に封印されたとも伝えたれた。燿は電話を切った。
彼自身、そこから先はよく覚えていなかった。
燿は妻の部屋に入った。
そして、一直線に妻の机へと向かい引き出しを開けると、手紙とラッピングされたプレゼントが入っていた。
手紙の封を破り、中に入っていた一枚の紙を一心不乱に目を通した。
「馬鹿野郎!馬鹿、野郎……」
愛する者を失った男はただ一人、部屋の中で叫び続けていた。
外では大雨が降っていた。
書いてて辛くなりました。
本来時雨は逃げればいいんですよ。やばいと思ったら逃げればいいのに、万が一一般人に被害が行くようなことがあれば自分を許せなくなるのでそれをできません。まず第一に、陰陽師は他者を守ることを大切にするような人の集まりです。自分を犠牲にして怪異と戦い人々を守ることに責任を持っています。だからこそ、上層部の姦姦蛇螺の封印の工程は必ず成功します。もちろんそれは悪いことですが、正義でもあります。多数を生かすために少数を切り捨てる。それは正しいのかも知れませんが誰か傷つく人がいるのもまた事実です。互いに正義を背負っています。
一度完結させたものの外伝を書き始めて今日に至りますが、半年以上連載を続けられて本当に良かったです。まだまだ書ける話はある気もするのですが、本編の制作に力を入れるためにこれにて二度目の完結とさせていただきます。読者の方々本当にありがとうございました。
また皆様に会えることを心からお待ちしております。




