第40話 求婚
明日12:00 最終話投稿
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聖戦から数年後の、あるマンションの一室の話である。
「紗黄〜準備できた〜?」
高校を卒業し、成人を過ぎた俺と紗黄は同じところに住み始め、同棲を始めた。今日は朝から彼女とデートをする約束をしている。まだ結婚はしていないが、この関係は長くふたりとも不満が一切なく生活ができていると俺は思っている。今日はとあることを計画しており、事前に予約もした。後はそれの成功を祈るばかりだ。
「たっく〜ん!ちょっとたいへーん!」
色々考えていると紗黄に呼ばれた。どうやら何かがあったみたいで、慌てた声が部屋から聞こえてくる。
「どうしたー?」
拓真は紗黄の声を聞いて、慌てたように声をかける。そうすると、玄関にいた俺のもとに紗黄が駆けてきた。
「菜華から連絡来て、怪異が予想よりも強いらしい。心配だからアシストがほしいみたい」
菜華と紗黄は連絡を取り合っており、たびたび相談事を聞いているらしく、今も怪異が強いらしく救援をこっちに求めてきた。度々こういう事があるが、全く嫌な気持ちはない。紗黄は借りを返さないのがとても嫌いらしく、食事や頼み事でそれを返しているため、普段は何も感じないが、今日はデートの予定がある。
菜華のところに行けば、良くて半日、悪ければ丸一日時間がかかってしまうだろう。
「今は近くの廃病院だっけ…う〜ん、どうするべきか」
悩みながら俺は言った。デートを優先したい気持ちもあるが、万が一ということがあってはいけない。う〜ん、助けに行くか。
「せっかくのデートだし、奴隷に任せちゃお」
一人で悩んでいると、紗黄はそう言って電話をどこかにかけた。かけた相手は紗黄の奴隷、山崎 修一朗。高校生の頃のある一件が原因で紗黄に危害を加えようとしたが、色々あって紗黄自身でボコボコにし、奴隷として日夜働かせている。
「山崎のやつ、まじで一生奴隷なんだな…」
心からの哀れみで俺は小さく言葉を漏らした。ある一件以来、山崎は何かとパシリにされ、大人になった今 でも雑用を押し付けられている。向こうも罪滅ぼしとして自分の意志でやっているが、流石に可哀想に思えてくる。俺も初めの方はざまあみろと思っていたが、半年もすると、罪悪感が湧いてきた。紗黄はまったくそんな気はないらしく、情けは一切ないようだった。
だがそんな山崎にもどうやら彼女ができたらしく、俺と紗黄はそろそろ解放してやるかと相談しているが、いまだ山崎の話も俺たちの話もまったく進展していない。
紗黄の電話は終わり、無事に奴隷が菜華の元に向かったらしい。頑張ってくれ、山崎……
「厄介なことも解決したし、そろそろ行こっか!」
「だね〜行ってきま〜す」
既に靴を履いて外に出る準備が整っていた俺は玄関のドアを開ける。
「紗黄、こっち向いて〜」
俺は振り返ってドアの方を向いた後、紗黄を呼んだ。
「なに〜?」
靴を履くためにしゃがんでいた紗黄。俺の声に反応して振り返り、俺が構えていたカメラの方を向いたところで、シャッターのボタンを押す。
「あ、ちょっと〜!前髪があれだったのに」
肩がけのシェルターバッグから鏡と櫛を取り出し、急いで前髪を整えながら紗黄は言った。急に写真を撮ったため、準備ができていなかったらしい。
「そう?普通にキマってると思うけど」
「女子にとって前髪は命なの!」
付き合っていたときも、なかなか外で写真を撮らせてはくれなかった。風で髪の毛がボサボサになっているから撮られたくないらしい。俺は全く気にしないのだが、紗黄は気にするようだ。
「ハイッ、スミマセンデシタ」
いきなり写真を撮ったことを俺は『一応』謝っておく。高い声で謝罪をしておいた。
「何その声www」
爆笑しながら紗黄はこっちを指差す。紗黄のツボは浅く、ちょっとふざけるだけでいつも笑っている。
笑い潰されている紗黄を横目に、撮れた写真を確認する。撮った写真の紗黄は目を瞑っていた。
色々なことはあったが、これからもこんなふうな毎日を二人で過ごしていきたい。写真を見て俺はそう願った。
「よし、準備終わり〜!今度こそしゅっぱ~つ!」
俺が写真を確認しているときに、紗黄は右手でえいえいおーのポーズをしながら立ち上がり、そう言った。俺は玄関の鍵を閉めるついでに、バッグにあれがきちんと入っているのを確認した。
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「ふ〜色々回ったな」
お手洗いに行った彼女を、拓真は近くのベンチに腰掛け待っている。今日のデートスポットは東京スカイツリー周辺。観光スポットでありながら、全国各地の特産品、雑貨などの様々なものが売られている場所でもあり、俺の隣には今日買った色々な紙袋がある…わけではなかった。唯一あるのはリュックサック。彼女はそんなに物を買うタイプではなく、ましてやその荷物を俺に持たせてくれるような人でもない。
スマホをポケットから取り出して時刻を確認すると時刻は三時半。次に行く場所はさっき決まった。ここにはプラネタリウムが入っているということを地図で確認した俺は紗黄に提案してみたが、一度も言ったことがないらしく、行ってみることになった。
紗黄が帰ってきたため、リュックを背負って俺は紗黄のもとに向かった。
「おまたせ〜。じゃ行こっか、たっくん」
「おっけー。ちょっと遠いけど頑張ろ〜」
俺がそう言って動き出した十秒ほどのことである。
「着いた〜!」
プラネタリウムについたため体を伸ばしながら言った俺の背中をパシッ、っと叩かれた。
「これのどこが遠いの?」
笑いながら紗黄は言う。そう、ここは既にプラネタリウムのあるソラマチの七階。さっき行ったお手洗いも、ここのすぐ近くだ。
「いや、十秒かかるし遠いな〜と」
俺がかすかに笑いながら言ったため、また殴られた。そんなことをしていると、時間になりプラネタリウムの中に通された。プラネタリウムの中は広く、席はどれも大きく斜めに傾き、天井を一望できるようになっている。
「楽しみだね」
隣の席に座っている紗黄が小さく耳元で囁いてきた。
「だね」
ほほえみながら俺は言った。
そして、上映が始まった。
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それから数時間後のこと、プラネタリウムを見終わった俺たちはスカイツリーの展望台へと向かうエレベーターに乗っていた。
「やっば〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜めっちゃ綺麗!!」
奇跡的にエレベーター二人が誰もいないため、気にせず紗黄は声を出して、感動をあらわにする。今乗っているこのエレベーターはスカイツリーの展望デッキ行き。スカイツリーにはふたりとも初めて登るため、俺も紗黄のように騒いだりはしないが、内心はめちゃくちゃウキウキしている。その後結局俺も騒ぎ、目的の階に到着した。フロア340、ここは結構有名なガラス床のあるところだ。
エレベーターから降りた後歩き出した俺たちはその床にたどり着いた。
「たっくん他にもしたい人がいるから早く〜?」
笑いながらそう言う紗黄、後ろから俺のことを押してガラスの上に動かしてくる。
「ちょ、待てって、ストップ!おい、力強いって」
俺も笑いながら紗黄にやめるように言う。紗黄が言うような、周りに待ってる人がいるようには見えないのだが!?
あと数cmでガラス床というところまで、じわじわと押されていく。抵抗するが、効果はなく、やめるように言っても効果はない。まあ、フリなのだが、流石に俺も怖い。
「分かった、分かったから!自分で行く!」
俺も覚悟を決めた、もう自分で上に乗ってやる。深呼吸をして、精神を落ち着かせる。俺は高所恐怖症だ。だが、完璧に安全なこの場所なら大丈夫、大丈夫なはずだ、多分。
上を向きながら俺は一歩前に足を踏み出し、ガラス床を踏んだ。まだ下を向いていないため、何も感じない。次は下を見てみよう。ゆっくりと顔を下に向けていく拓真。怖がっている俺の手を紗黄が握る。俺の目にガラスから見える町並みが映る。意外と大丈夫だった。
「なんか平気だった」
爆笑しながら俺は言った。その言葉にたっくんが平気なら私も、と言ってガラスの上に乗った紗黄。こいつ騙されやがったぜ、へっへっへ。
「んんんんん!?」
声にならない叫びを上げながら、ガラスから飛び退く。かるーく人間離れした身体能力を見せたが、ギリギリセーフだろう。
「たっくん!騙したね!?」
「さぁ?俺は平気だったけど?」
紗黄に返した言葉、全くの嘘である。ガチでビビった。死ぬかと思った。ふつーに怖かったけど、紗黄を騙せたから、まあいい。
「…」
紗黄から無言の圧を感じる…あ、やばい。次の瞬間、脇腹に強い衝撃が襲った。紗黄の手刀が俺の肋付近を突き刺す。
手刀を拓真に食らわせた紗黄は、少しほっぺたを膨らませ、いかにも拗ねている様子をしながら言う。
「ばーか」
「ごめんごめん!」
俺は紗黄に謝罪した。その後もなんとなく拗ねていたが、窓から見える夜景を見て興奮したおかげで何とか収まった。
その後階段を使って”フロア245”に向かい、予約していたお店に入った。
「こんな店初めて来た!」
目を輝かせながら、お店の中を見渡す紗黄。さっき窓から景色を眺めたときよりもワクワクしているような様子だ。そんな紗黄をよそに、俺は内心ソワソワしている。バッグの中でさらに何十にも保護されているこれをタイミングを見計らって渡したい。
念のため予約時にこういうことをしたいのですがと聞くと、全然平気らしく、むしろ是非ここでどうぞということだった。記念日として毎年訪れてもらえるかもしれないという、見込みもあるのかもしれないが、その言葉は結構ありがたかった。
一通りコース料理と雰囲気を楽しんだ後、皿が片付けられた。今のはメイン、次に来るのはデザート。スタッフの人がお皿を片付けるときにそれとなく聞いてみたが、「はい、大丈夫です。拓真様、がんばってくださいね」と、応援までされてしまった。もう後には引けない。
周りからは、小さく流れるBGMと人の話し声しか聞こえない。彼女は窓の外の夜景を眺めている。もう一度覚悟を決めなくては。バッグから既にあれは取り出している、後は渡すだけ、渡すだけ。前日から台詞を考えてきたが、あまりの緊張で全て吹っ飛んだ。ガラスの床を踏んだ時以上に緊張している。深呼吸をして落ち着かせる。
「ねぇ、たっくん!あそこ光ってる!」
こいつ、人の気も知らないで子供みたいにはしゃいでやがる。こういうところも彼女の魅力だ。今の言葉でなんだか吹っ切れた。俺はこの人を幸せにしたい、危険な仕事だけど俺は一緒に頑張りたい、守りたい。覚悟はできた。
「紗黄、ちょっといいか?」
落ち着いた俺は紗黄を呼ぶ。
「なーに?また写真?」
今日玄関で写真を撮られたときと似た状況のため、紗黄は同じことをしてくると思っている。
「俺と結婚してくれ。紗黄と生涯を添い遂げたい」」
一日中バッグの中で保管されていたあれとは、指輪ケースである。さっき取り出して置いたそれを紗黄の方に開いて、両手を前に伸ばす。中に入っている指輪はとてもシンプルなもので、丸いリングに小さなダイヤモンドが埋め込まれている。つけるうえでゴツゴツしていると不便だと思ったため、シンプルなものを選んだ。指輪は俺がファッション用のものを、紗黄が能力を使えるか試してほしいと言ってはめてもらった。大きさをそれで確認し、指輪を選んで買った。
用意していた長ったらしい文章も全て吹っ飛んでいるため、拓真はシンプルな求婚をしてしまう。それに対して紗黄の反応は何もなく固まっていたが、程なくして口を開いた。
「嫉妬深いし、口も悪いし、一般人じゃないし、面倒くさいし、可愛げもない私でいいの?」
「そんな紗黄のことを俺は愛してる」
拓真の言葉から少し間をおいて、
「こんな私で良ければ、よろしくお願いします」
涙を流しながら、紗黄は求婚を受け入れた。
設定:
・聖戦
『神』と『カミ』の戦い。
作者のコメント:
拓真、紗黄、おめでと〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
次で拓真と紗黄の話、すなわち『IF現陰』は!!!!!終わりです。つまり、まだなにかあるということですね。お待ちくださいませ。




