閉話 ”聖戦”の先で────
6月14日12:00 最終話投稿
毎日投稿継続
あるカップルの写真立てが、病室の一室に飾られている。そのカップルの男の名は、片桐 拓真。ある事件をきっかけに幼なじみと陰陽師になった。写真の女はその男の幼馴染みであり、名前を志島紗黄という。
文化祭間近だった二人はまたも事件に巻き込まれ、拓真の幼なじみである紗黄は記憶を失ってしまった。
「だめか」
病室で拓真君はそう言った。記憶が無くなってしまった彼女に能力を発動させているが、何度やっても記憶は戻っていない。
「縺ェ繧薙〒謌サ縺」縺ヲ縺薙↑縺」
拓真君の言葉が日本語ではなくなり、全く聞き取れない謎の声と言葉に変化する。
「流石にキツイ、か?」
ここにいるはずのない私は、今ここにいる。病室を自由自在に動き回るが、物にあたっても実体がないのかすり抜ける。
ここは写真の世界だった。
急に世界に亀裂が入り始め、時間が一気に飛ぶ。
世界は切り替わり、どこかの森の中に移った。
「私は堺 瑞稀。君が考えているであろう通り、私は陰陽師だ〜よ。瑞稀でも、瑞稀おねえさんでも好きに呼んでくれ。年齢はノーーーーーーーコメントッ!」
目の前には、私と似ている茶色のコートに身を包んだ妹の瑞稀が銃を構えている様子と、驚いた表情を見せる男の子、拓真君が映っている。
私の妹はこの時初めて拓真君に会ったと言っていたが、こんな様子だったのか。ちょっと酔っているのか、テンションが高い。そんな人がいきなり銃をぶっ放してきたのだ。流石に恐怖と困惑の表情が拓真君の顔からうかがえる。
「堺さ…」
名字にさん付けで呼ぼうとしたみたいだが、さっきの自己紹介で名前呼びを指定されているため迷っている。
「瑞稀…さんは陰陽師縺ァ縺吶h縺ュ?」
今回も言葉がバグる。それと同時に空間に裂け目が広がり、また世界が崩壊する。
今度は今までとは違い完璧に世界が形成されず、断片的な情景や言葉だけが生成された。
「祓えたまえ清めたまえ ─まえ───」
雑音まじりで言葉が途切れるが、これは紅君の声であると私は分かった。どこかの神社で彼は詠っている。
「────我が妖力もって 技をなす 光は闇を蝕み 闇は光を覆いつくせ」
神術を使うために祝詞を唱えているシーンのようだ。少しだけだが、戦いの様子が見える。大勢の怪異に囲まれた紅と瑞稀が戦っている様子が構築されたものを凪は見ることができた。
「────『日蝕』────『月蝕』────『冥煌』」
より断片的に、神術を使ったところだけが今度は構築された。『日蝕』が使われたところでは、光が紅君を中心に広がっていった。『月蝕』はその逆、闇が広がっていった。そして『冥煌』はというと、光と闇が合わさった混沌と呼べるものが広がっていっていた。
それを見せて満足したのか、瞬時に世界は切り替わった。今までとは違い断片的なものではなく、世界がきっちりと形成された。
「時の皇帝 『操針 不刻』」
神技と呼ばれる神術より上位の技を、目の前にいる橙乃さんが使おうとする。使おうとしたのは橙さんだが、見た目は違う。男の姿に変わっており、着ているそれは和服に近しいもの。彼女は、いや、彼は剣を地面に刺して術を発動した。その方の名前は神威瑛司、最強の陰陽師である。自身のもう一つの天恵を使用して橙乃さんはその人物に存在を変えていた。
使用した『神技』によりこの時間軸に存在しない私と発動者である橙乃さんだけがこの止まった時の中を動くことができる。
「私の知らない間にこんなことが」
この時間軸に存在しており、止まっている『私』に触れようと手を伸ばした私。その指先がわずかにそれに触れると、世界が黒く塗りつぶされた。さっきまで眼の前にあったものが全てなくなり、視界には無だけが残っている。
────「いかなるものであろうと過去への干渉を禁ずる」
誰もいないはずの空間から謎の声がする。その声を聞いたのと同時に私はこの記憶から十年の月日が流れた今日へと弾き飛ばされた。世界のバグを利用して少しだけ過去を覗き見ようとしていたが、意識を現代に戻される。触れようとしたことが原因だったのか、世界のルールに触れてしまったようだ。
実際の時間と言うべきものが少し経過した後、私は意識が覚醒した。時計を確認すると私は五十分ほど寝てしまっていたらしい。昨日から続いていた調査が体に負荷をかけたのか、潜っていた以上の時間を寝て過ごしてしまった。
福岡から京都までを一直線で結ぶこの新幹線、その車内は誰の声もしない静寂な場所で、一人が好きな私には最適であった。
季節は冬で、今年一番の寒波が日本を襲い、今日の夜には全国的に雪が降ると予報されている。
そんな日の朝早くから出発した新幹線の車内に灰色のコートで身を包んだ私がいる。私の名前は堺凪、陰陽師だ。
寒い日の今日、私はあるところを目指していた。手土産を持って、久しぶりにあいつに会いに行く。長らく行っていなかったため、怒っているのだろうか。
まだ着きそうにないため私はカバンからケースを取り出す。その中にはたくさんの写真が入っていた。その中から複数の写真を選びだし、ケースをバックへ戻す。
今よりも昔、十年前に撮ったこの写真たちは私が出会ったある者たちとの最初の記憶を形に残したもの。さっき潜っていた写真と同じ日に撮られたものたちだ。
私はあるものを持っている。それはインスタントカメラだ。ただしそれは普通と違う神祝というもので不思議な力を持つ。この力を使い、私は今から写真の世界を追体験する。
一枚目の写真はとある日の仕事終わり、夜の駅で撮ったもの。それに触れ、記憶に潜り始めた。
その日は仕事終わりで疲れていた日だった。一杯のみにでも行こうと思った矢先に、バッグから音がなる。確認すると『私』のスマホに電話がかかってきていた。電話を取ると、相手は妹からだった。このとき久しぶりに瑞稀の声を聞いたが、元気なのか酔っているのか『私』の知っている瑞稀の何倍もテンションが高かった。
電話で瑞稀と話している写真の中の『私』を余所に、私は少し過去を振り返る。私と瑞希は双子なので性格が似ている。自分で言うのも何だが、私はあまり人に興味がないのだろう。クラスメイトからは私達は氷の化身、双子の雪女などと言われていた。そんな高校生だったがあるときにカメラにハマった。
ある時、どこで見たのかを忘れてしまったが、花の写真を見て凍っていた心がわずかに溶けた。それ以降も私の異名は変わらなかったが、一つ変わったことがあった。同じ趣味の人と一緒にいる時間が増え、少数ではあるが話す人ができた。だが、妹は私と違って趣味も何もできなかった。
高校を卒業し、進路が別れてから会うことはなくなったが、二十歳を過ぎてから一度だけはあって話す機会があった。大衆居酒屋と呼ばれるような店で瑞稀と再会した私だが、雰囲気は少し違っていた。主な原因は大量の酒と煙草なのだろうが、雰囲気が黒くなっているというのか、掴みづらくなっていると言うべきなのか、闇を感じた。表面上は明るさをましているように見えたが、本質は黒く染まっていっていた。私の凍りついた心とは違う、ドス黒いものが心にある。それから逃げるための酒と煙草なのだろう。
私は忠告することもできず、ただ久しぶりにあった仲の良い姉妹のような会話をするだけでその日は終わった。それが妹と最後にあったときの話であった。
『私』の電話が終わり、瑞稀の話を要約すると要件はこうだった。いますぐ来てほしいな〜、一人だとめんどーいというニュアンスのもの、正直無視しようともこのときは思っていたが、流石に妹からの頼みなため断らないでおいた。
一枚目に入っていた記憶はそこで終わり、写真から意識が浮上する私。
時刻を確認すると三十分ほど経過していた。さっきとは違い、潜っていた時の体感時間と一致する。潜っている間肉体は睡眠状態であるため、過労死スレスレの私にとって、潜っている間寝れるのは願ったり叶ったりだ。
二枚目の写真に私は潜った。次の写真はグリーン車に乗っていたときのことである。瑞稀に呼ばれた『私』は電車を乗り継いで目的の駅へと向かい、合流した。
その後、電車に乗って新たな目的地へと向かう『私』たち。『私』は向かいの席に座る瑞希、紅君、拓真君、橙さんの集合写真をさっきの神機で撮った。それが今潜っている写真だ。
ここにいる拓真君は何やら訳ありだったようだ。この日の後にまた妹と電話する機会があり、聞いたところによると彼女の記憶がなくなってしまったとのこと。伏見稲荷大社にある特殊なものを用いて、その彼女の記憶を取り戻そうとしていたようだった。私はそれを知らず、ひたすらサポートに回っていたため、その話を聞いたときにはなんだか申し訳なかった。事情も知らずに首を突っ込んでいたが、良かったのかと今更ながら少し後悔する。
話を『私』の目に映る写真の世界に戻そう。この世界の『私』たちは明治神宮に行った。電車で酒を飲んでいた妹は酔いつぶれたため、『私』と紅君でそれを担いだ。その後はなんやかんやあって瑞稀と紅君とは別行動を取ることになった。そのなんやかんやというのが複雑で、
[とある目的のために伏見稲荷大社に行く→明治神宮には邪魔が来てる→瞬間移動でワープするには先に進まなくてはいけない→ワープしても先回りされて別のやつがいる可能性が高い]
という足止めや妖力を必要とする場面が多く、厄介なことを引き起こしかねない状況になったため、この時の『私』たちは別行動を取ることにした。
もうそろそろ写真の記録が終わるかと思ったが、まだこの写真は潜れそうだ。世界は更に時間が進んでいく。
橙という狐の神様のようなお方が『私』たちとともに行動をしてくださっていた。ワープをするために先へ先へと問題なく進んでいったが、目的のところまであと一歩のところで流石にそうは行かなかった。多数の怪異に取り囲まれた『私』たち、この時の私はリスク承知で妖力を使おうとしていた。そこであの方は御業とも呼べるものを見せてくださった。『狐火』は人間では不可能な神術。そして『導きの炎』は今の私でも扱い切れるものではない。
『狐火』で発生した炎はそれへと上がり増殖する。『私』の目にはそれが闇の夜空に輝く星のように見えた、そして今見ている私にも同じように見える。空を埋め尽くすほどまでに増えた星たちは、すべての怪異たちの魂を燃やし、導いた。魂だけを対象とするこの技は精錬されきっており、その美しさは見たものを虜にする。今なお感動を与えるこの時のことを写真に残した『私』は優秀だ。
写真に潜っていた私はまた目が覚めた。また同じように時刻を確認すると、今度は一時間ほど時が進んでいた。この写真を見ると時間の進みがあまりにも早く感じる。何度か見たが、いつも一時間は経過している。生涯生きてきた中でこれ以上の感動を味わった経験は、初めて見た花の写真以外にない。
電車はあと二時間ほどで目的地の東京に到着する。写真はあと二枚、ちょうどいいだろう。
ペットボトルの天然水をカバンから取り、喉の渇きを癒やす。暖かい車内で数時間も置かれっぱなしだったため少しぬるかった。寝てる間になにかされても嫌なので、水をカバンにしまう。
私は三枚目も同じように潜り始めた。この世界は伏見稲荷大社に着いてから時間にしてわずか十分後の世界からスタートした。『私』は死神と対峙している。鎌を持ち、黒くオンボロなローブを身にまとった骸骨は宙に浮いている。
『私』は写真から刀を取り出す。今私が潜っているように、この神機はいくつかの能力を持っている。他の神祝に比べると直接戦闘で役立つものではないが、戦う上でこの上なく便利なのがこの『神機 空録』。空間を記録すると書いて空録と言うそれは、七つ、いや八つの神祝のうちの一つ。
今『私』が写真からものを取り出したように、これには物をそのままの状態で写真に封じ込め、取り出すことができる。
取り出した妖刀 村正を右手に構え、『私』は戦闘を開始した。ここの戦いは自分でも正気を失っていたからなのか、世界の構築が荒い。
テレビの砂嵐のように私が見ている世界にノイズが走る。次第にその間隔や規模は大きくなり、『私』は少し先へと時間が飛んだ。
『私』たちの戦いは最終局面へと移っていた。肝心の『私』だが、今は十字架に囚われの身であった。その十字架は聖遺物と呼ばれるもので、神の使徒であり七つの大罪の一つである強欲が持つものであった。相手に触れ、『磔刑』と唱えることで対象者を鎖で捕縛、鎖に捕まったものは妖力での構築が不可能となり、生まれ持った神術と天恵が使えなくなってしまう。
ちなみにだが、さっきの『狐火』は霊術と呼ばれ、ファンタジーで言うところの魔法のような存在だ。似たようなものとして神術があり、どの系統が使えるのかは生まれ持った才能であり、現代最高の才能を持った陰陽師は神崎紅唯一人であろう。彼の生まれ持った才能、そして経歴は極めて異例だった。普通の高校生だった彼はある事件をきっかけに陰陽師の道へ本格的に歩みだした。最初は天恵、いわゆる能力『変換』は至ってシンプルな能力であり、戦いにおいてそこまで秀でたものではないと思われていた。しかし、自身の天恵ではなく生まれ持ったもう一つの力、神術の才能、神の加護へ至るまで努力を重ね、それに天恵を合わせることで才能は著しく開花していった。妖力を霊力へと変換し、十倍以上威力や精度が向上した神術は天恵と遜色ない、いやそれ以上の性能を発揮していた。
過去から今に至るまで、紅以外に伊邪那岐と伊邪那美命の加護を受けたものは、最強の陰陽師、神威瑛司以外に存在しない。あの聖戦において、この加護を受けた二人がいなかったらどうなっていたことか。
ずっといろんなことを考えていたが、世界の流れは『私』の眼に最後の光景が映るところだった。神機の能力、『型録』によって体の動きを止められた強欲が、拓真の持つ神祝『神刀 焔祓』に斬りかかられるところ。その刀身は青い炎、いや青い焔に包まれ、この暗闇を明るく照らしている。それにより強欲の魂だけを斬ったが、それは失敗に終わった。やつの持っていた能力は『改変』、魂を斬られたという起きた事象を書き換えて無かったことにした。化け物のような見た目をしたそれは、何もできずに拘束されている『私』目掛けて一気に近づき、顔を何度も殴る。殴られる。殴られる。殴られる…それが数十回は続いた後、『私』のまぶたは落ち、意識を失った。
この写真の記憶はそこで終わった。目が覚めると時間は一時間進んでいた。今潜っていたあの記憶だが、戦いは凄まじいものだった。
あの拓真という学生は紅と同じように高校に編入してきた生徒だが、才能は彼以上だ。彼は親が陰陽師の家系で代々怪異などを祓っていたが、拓真君は違う。一般人だった。家系に陰陽師がいたわけでもなく、ただの一般人。だというのに、あの時見た彼は私以上の強さを秘めていた。武器が強いわけではなく、純粋な才能というべきか、紅とは正反対に能力のポテンシャルが元から高かった。『無効化』そして『神化』した天恵『消失』までをわずか三ヶ月ほどで習得し、『神化』した能力をたった十分ほどである程度使い込めるようになるまで成長するそのスピードは才能なのだろう。
ちょうど最後の写真の記憶も拓真君にまつわるものだ。残り時間は一時間、ちょうどいいだろう。最後の潜憶を始めた。
今度の写真は昨年のもので、私が撮った結婚式の写真だ。『私』は列の最前線で一眼レフを構えている。
「新郎、あなたは毎晩皿洗いをすること。一日三食、栄養の良いご飯を食べて新婦と一生一緒にいること。年を取ってしわのあるおばあちゃんになっても、新婦を変わらず愛し続けることを誓いますか?」
神父は新郎に問う。アニメやドラマでも有名な〇〇することを誓いますか?というセリフをまさかこの年になって見ることになるとは、と『私』は思っていた。
「誓います」
新郎は迷いなく答えた。
「新婦、あなたは新郎を変わらず愛し続けること。新郎の趣味を一緒に共有すること。毎日笑顔で「おはよう」と「おかえり」を言ってあげることを誓いますか?」
甘い、甘すぎる。年を取って甘いものを食べるのも見るのも避けるようになった。数年ぶりに甘さを感じたが、少し俯瞰した立場にいる『私』はそこまで気にならないほどの甘さ。この場にいる『私』は本来ここにいていいような人物じゃない。
『私』はカメラマンとしての仕事を全うする。
「誓います」
新婦も誓う。新郎と新婦は顔を見合わせて、互いに笑顔を見せる。
「「今ここで誓ったことを胸に、いつまでも仲の良い夫婦でいられるよう誓います」」
新郎と新婦は息を合わせて誓った。拍手が来場者からあがる。
「ではここに、誓いのキスを」
神父の言葉に二人は従った。
婚期を逃し、年老いた私には甘すぎるような時間だったが、妹の関係者に礼は尽くしたい。そう思った『私』はこの式のカメラマンとして仕事を引き受けた。今「私」の目に映るガムシロップの原液のような甘い光景の写真を記録した。
その後はなんやかんやあったが式は進み、無事に終わった。私はこの写真の記憶から浮上し始めた。写真に潜るのは久しぶりだったが、やはりこの『神祝』は便利だ。写真から浮上している私はそう実感していた。写真の中の『私』が刀をしまっていたように、様々なものを写真の中にしまい込める。取り出すためにはその写真を燃やすことが条件という多少ネックな制限があるが、神術を組み合わせれば、火をつける物を持っていなくても使用できるためさほど不便ではない。それよりも写真一枚で重い荷物を収納できるメリットの方がデカすぎて、デメリットがデメリットしてない。
神祝について考えていると現実へと戻ってきた。新幹線は目的地まであと数分といったところ。最後にもう一度だけ水を飲んで席を後にした。
予報では夜に降るといっていた雪が、駅の外を包んでいた。何とか目的地の駅まで着いたが、今日の運休は見合わせとなったので、一日ここ周辺で過ごすしかないだろう。まずは目的地に向かい、その後はのんびり過ごすことにしよう。
東京で雪を見るのは数年ぶりだった。あまり降っていないというのもあるが、私は日夜全国各地を巡っているため、あまり一つのところにとどまらない。あまり睡眠が取れないのも飛び回っているのが原因の一つだろう。まぁ、寝るのは人生の時間を削る行為のため、あまり私が好きではないのが大きな原因でもあるのだが。
そんな生活を十年近く続けた結果、今の私のような心のないロボットのような人間が生まれたというわけだ。歩きながらいろんなことを考えていたが、ふとカメラである神機を取り出す。空間から取り出せるそれは、荷物にならずどこへ行っても自由自在に写真が撮れる。写真を撮ることが趣味な私にとって、カメラを持ち忘れたということや充電がないということがないのは非常にありがたい。
カメラのシャッターを雪が舞っている道に向けて切る。普通のインスタントカメラと違い、一瞬で出てきたそれには眼の前の光景が鮮明に描写されている。少し時代を感じさせるような色合いは私の好みに合っている。
数十分ほど歩き、目的の場所がある墓地にたどり着いた私。まだ入口にたどり着いただけなのだが、行きたいところはこの中にある。周りを見渡すが、そこに人の姿は見えない。雪が降っているのもあるが、あまり人が長居するような場所ではないからだ。
道中で買った傘を差しながら、道なりに進む私。そして目的地にたどり着いた。
『堺 瑞稀』そう墓石に刻まれている。私の妹である堺 瑞稀は『カミ』との聖戦を前に死んだ。その場にいた紅を庇い死んだらしい。
こんな私にも心はある、その日は泣いた。一日中酒を浴びるように飲んだ。次の日は前日の二日酔いも合わさって何もする気力が出なく、一日中横になっていた。紅はもっと絶望していた。自身の師である妹が自分をかばって眼の前で死んだのだ。絶望と後悔と怒りと悲しみと、様々な感情が入り混じったはずだ。
だというのに、彼は立ち上がり剣を取った。その勇気を私は称えたかった。しかし、彼は今この世界にいない。聖戦の後、彼はこの『世界』から旅立った。
彼の話はこんなところにして、妹に飲食?の品を渡そう。まぁ、それは酒とタバコなのだが。罰当たりかもしれないが、こいつが喜ぶのはそれ以外にない。自分の弟子を守って逝ったんだ、一仕事終えたあとのタバコと酒といったら格別だろう。あいつが吸っていたタバコと、高かったボトルのウィスキーを墓に供える。
「お疲れ、瑞稀。これでゆっくり休め」
線香をあげたあと、私はそこを後にした。
時刻は昼の十二時すぎ、誰もいない墓地から女は歩き出し、雪に染まった街へと向かった。
作者のコメント:
今回の話は私の趣味が詰め込まれています。
この世界線をどう受け取るかは皆様にお任せします。
また、一部の人はこれに見覚えがあると思います。
部活動で書いたものです。
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