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第38話 終止符

・毎日二本投稿 7:20 8:20

・6月14日12:00 最終話投稿



 流石におかしい。真正面から加速してきている山崎、その行動はあまりにも冷静さを欠いている。洗脳を受けていると確信したため、なるべく怪我は避けて、戦闘不能に持ち込むことを決める。


「『無断』」


 『焔』は使わない。紗黄に使う妖力が残っているかいないかという瀬戸際のため、少しでも妖力を節約する。


 何も斬らない斬撃、矛盾の攻撃が山崎に当たる。山崎は何かを言おうとして口を開いたが、それを言う前に山崎は後ろに倒れ込んだ。俺の一撃は見事山崎の頭に命中したらしく、意識を刈り取ったのだった。


「これで山崎の方はいいとして、紗黄にはどうすればいいんだ?」


 残念ながら、妖力は限界まで節約したものの、紗黄に『消失』を使うだけの余裕はなかったらしい。ほんの僅かにだが、妖力が足りない。数分もすれば使えるだろうから、それまで待てばいいだろう。ここで問題なのは、紗黄に距離を置かれている俺が、そのまま近づくのはまずい。斬撃という事象だけを飛ばし、空気に対象を設定して『消失』を纏わせればいいか、と解決策を考える。


 そんなことを考えていると、感じたことのある気配が近くに現れる。


「おいおいおいおい、このタイミングで死神が来るか!?」


 俺が陰陽師になって初めて戦った怪異。人間が恐れる死が形となったもの、紗黄が一度ではあるが退けられたことは本当に奇跡ではあった。前回の経験から分身や鎌を無尽蔵に作り出すこと、空間を隔離できるのは知っている。妖力も使い切ったこの状況は、あまりにもまずい。周りを見渡すが、商店街の外の景色は闇で先が見えなくなっている。さっきまでいたはずの菜華たちの姿が見えない。


 上位の怪異たちは自身が作った空間に相手を引きずり込むことができる。前にこいつと戦ったときは運良く隔離されきる前だったが、今回はそうはいかなかった。出入り口の四方向から死神が一体ずつ現れているからだ。


(涼介たちと分断された。そして囲まれている。詰みか?)


 そう思いながらも策を講じる。


(妖力が戻りさえすれば、空間ごと断ち切って無理やり出られるだろうが、時間がかかりすぎる。その前に奴らに襲われてしまうか)


 俺が考えた策の中に、死神を倒すというものは一切なかった。その理由として、残り少ない妖力では『焔祓』の能力を存分に発揮できず、太刀打ちできないと考えたからだ。もしも妖力があったとしても、死神は名前の通り、神の力がある。それは分神であろうと変わらない。つまりだ。勝ち目が薄いため、俺は戦闘を避けたかった。


 その時、正面にいた一体の死神が、鎌を振りかぶりながら一直線に動き出した。狙いは俺かと一瞬思ったが、その考えは打ち消された。


 俺はすぐさま紗黄との間に割って入る。刀の両端を手で持ち、上からかかる力を全力で抑え込む。


 そう、死神の狙いは俺ではなかったのだ。本当の目的は紗黄だ。あのグリードは最後の言葉通り、紗黄に危害を加えようとしていたのだ。


 だがここで一つ疑問が残る。今まで紗黄に一度も生命に関わる危害を加えてこなかったあいつが、攻撃を始めた理由。なぜだ?


 だが、案を考えても何も思い浮かばなかったため、とりあえず戦うことにした。『神祝』である刀は怪異などに妖力を纏わせたものと同じような影響を与えられるが、もう鞘に戻ってしまったため、全くと言っていいほど威力は出ない。


 死神たちは紗黄を狙って四方八方から向かってくる。一人で対処しきれる訳がない。頭ではそれを理解しつつも、ひたすらに体を動かし続ける拓真。鞘では決定打にならないが、戦い続ける。死神が鎌なのに対し、こちらは鞘の付いた刀、武器の強さにあまりにも差がある。戦闘の維持にも限界がきた。あまりにも鬱陶しかったのか、死神は鎌を大きく振りかぶり、刀を下へと押し込む。両手で柄を握り、何とか力を振り絞るが、体は下へと押し込まれる。流石の拓真も、これ以上戦闘の継続は難しいと感じていた。


____________________________________________


(さっきからあの人は何と戦っている?)


 今は天恵も妖力も使えない紗黄だが、怪異を見ることはできる。目の前で繰り広げられている拓真と死神の戦いをただ眺めていた。


 ただ、その戦いも終わりを迎えた。私をかばうようにして立っていたあの男が、目の前で切り裂かれた。そして、私の前から吹き飛ばされ、明後日の方向に落ちた。私の方にさっきまで向かってきていた死神も全てその人の元へ向かっている。


 死神たちから私を守ってくれていたあの人。クラスメイトからは彼氏と言われていたが、あんな弱そうな男が私の彼氏だったのかと、自分自身の感性を疑った。あの人が嫌()()()。そう、過去形、『だった』のだ。今、死神から守ってもらっているとき、心がざわついていた。そのざわつきは大きくなっている。


____________________________________________


(一回分は溜まった。せめて、記憶だけは、戻してあげないと)


 自分の生命が危機に瀕していることは分かっていた。だがそれでも、俺は俺の命ではなく、紗黄の人生を救う方を選んだ。


 俺は倒れ、死神に何度も切り裂かれる中、最後の力を振り絞り刀を抜刀。紗黄に向かって太刀を放った。それには『消失』の天恵が付与されている。実体のないそれは紗黄に命中した。山崎に当てたときとは違い、それに威力はない。だが、斬撃に触れた。


 それすなわち────グリードの『改変』を『消失』させることができたというわけだ。

____________________________________________


(戦え 守れ)


 その言葉が心の内側から聞こえてきたとき、私はすべてを思い出した。



 ────時が止まったのではないか。そう錯覚するほど、死神の空間の中で全ての動きが一斉に止まった。拓真の命を奪おうと振り下ろされた鎌が、当たる寸前のところで、死神はすぐさまそれを止める。そして、すぐさま拓真から離れた。


 その理由は明確だった。


 命令されたわけでもなく、そう考えたわけでもない。思考を持たないはずの彼らがそのような意味のわからない行動を取ったのは、反射的なものだった。


 全ての死神が殺気を感じ取り、行動をやめたのだ。普通では有り得ない行動を取るほど、その殺気は力を持っていた。


 それを発したのは他でもない、紗黄だ。自分の目の前で殺させるはずがない。ましてや、拓真を殺そうとするものを許すはずがないのだ。



「拓真、ありがとね」


 薄れゆく意識の中、声が聞こえた。何度も聞いた、待ち望んだ声色。


 それを発したのも、もちろん紗黄。


 死神は一本の道を作るようにして、退く。堂々と、悠々と、紗黄はその間を進む。その姿はまるで一国の女王だ。独裁者が歩くと他は一切の干渉をせず、ただ通り過ぎるのを待っている。


____________________________________________


 自分の頭に手が置かれる感覚がし、小さく声がした。そうすると、さっきまでの傷から血が止まり、沈んでいた意識が戻ってきた。


「思い出したの?」


 目を開いて見た紗黄は泣いていた。大粒の涙が俺の顔に溢れる。そして、俺の目からも涙が溢れ出した。


「色々傷つけるような発言してごめんね、たっくん」

「ううん、大丈夫。でも、結構悲しかったな」


 俺の目も充血し、とどまることを知らずに流れる涙とともに言葉を口にする。


「さてと、あのときは消しそびれたみたいだけど、今度はそうはいかないから」


 紗黄の目には死神が映っている。一度は紗黄が倒した相手、しかし本体までは倒せていなかった。分神をあの場に残し、死んだように見せかけた。だからこそ、凪は死神と戦うことになったのだ。その戦闘により、死神は亡になることができない。強化状態を封じられ、分神も四体までと前よりも明らかに弱体化はしている。


だが、どれが本体なのか。ましてや、ここに本体がいるのかどうか分からない。だが、今の二人にはそんなことは関係なかった。紗黄はすでに拓真の『支配』を終えている。すなわち、思考は共有されているのだ。拓真がなにをしたいのかを理解した紗黄は、拓真と話すために抑えていた殺気を内側から消した。


「紗黄。はい、これペンダント」


 未だ倒れている俺だったが、ポケットに入れていたネックレスを取り出し、紗黄にそれを手渡す。紗黄はそれをキャッチして中身を眺め、そのあと蓋を閉めた。


「たっくん。手、貸して?」


 ネックレスをしまった紗黄は拓真に話しかける。


「は〜い」


 何をしようとしているのかを察した俺が紗黄に手を貸すと、両手で握られた。


「命令よ『すべて消し去りなさい』」


「了解」


 命令されると、体から力が溢れる。消えていた妖力が紗黄から流れ込んできた。傷が治りきっていない俺だが、立ち上がる。


(血は止まっているが、派手な動きはできないな)


 これ以上の無茶は生命に関わることが分かっている俺は、刀を振りかぶり、一撃で勝負を決めにかかる。


「『黒焔』:」


 今度こそ、これで決着だ。あの夏に紗黄を殺そうとした死神の一体に俺は視線を向ける。相手も無抵抗ではなく、こちらに攻撃の意思を見せているが関係ない。今の俺は無敵だ。もしも俺が死ぬとしても、俺はこの一撃を放つ覚悟がある。


「『消断』」


 距離も守りもすべて関係ない一撃。『黒焔』をまとった斬撃は一直線に死神に向かう。あらゆる障壁を燃やし、断ち斬る斬撃。死神にグリードのような守りはない、あったとしても意味はないが。


 鎌での抵抗も虚しく一体の死神が斬撃によって胴体が斬り裂かれる。そして『黒焔』が上がり、体が包まれると、抗い、もがき、死から逃れようとする。しかし、『焔』はそれを許さない。


 燃やすという力は、その対象である『死神』を決して逃さない。


 そして、一体の死神が焼失した。だが、まだ三体死神は残っている。いや、残っていた、という方が正しい。一体が『焔』に包まれたのに合わせて、同時に他の全ての死神からも『黒焔』が上がり、全てを燃やし尽くした。それにはもちろん、本体も含まれていた。


 紗黄が目覚めてからものの十秒ほどの間で、図書室からの一件から長く濃密だった数日間の出来事の全てに決着がついた。

設定:

・紗黄が聞いた声は自分の中に沈んでいた『紗黄』の意識です。

・拓真の血が止まった理由=神術『傷燃』で傷を燃やし、血を止めた。なお、痛みは意識が朦朧としていたため感じなかった。


作者のコメント:

死神についてですが、あの状況で紗黄を狙ったのはもちろんグリードの命令です。ですが、命を奪えとは一切命令されていませんでした。紗黄のことを殺そうとすることは、グリードは一度もありません。今回の目的は、紗黄の記憶を戻させること。拓真の死を目の当たりにさせることの二つでした。だって、仲間は強いほうがいいからね。あの紗黄では成長とかしなさそうだったもんね。

これにて三章としての区切りは着きました。次に幕間や閉話を書くかは未定ですが、多分書くと思います。

ついにグリードが関わった全てに決着はつきました。

ちなみに、紗黄はなんで狙われたんでしょうね。


裏話:

セリフが『。』で終わっている場合は、悲しさや不安などのマイナスな感情がある場合に使っています。

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