第37話 最後の戦い
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拓真先輩が山崎の方へ向かった後、私は目の前の九人が警戒態勢を取ったことを確認した。私たちを知っているのか、なにやら「なぜこいつらが」といった声も聞こえてくる。
(拓真先輩とつるんでる私達の能力は、ある程度把握されているか。なら、想定外の一撃を打ち込むしかない)
「結月、あんたはサポートよろしく!」
菜華の能力は『保存』。仲間の身体状況を『保存』し、それを使い元に戻すことで擬似的な回復を可能としている。他にも、攻撃のエネルギーを保存し、任意のタイミングで発動させることで、あり得ない攻撃を繰り出すこともできる。
「任せとき」
結月はうなずきながら言った。私達二人ならこんな奴らは余裕だ。涼介の助けなんてい〜らね。
(残り9人、手間取っている時間はないな。最初から全力で行くか)
「『雷撃』!」
最大火力の神術を保存し、あらゆる詠唱を破棄した最高の一手。人数が多いからと言って油断していなかった彼らだが、想像できうるはずもない攻撃に、一手遅れる。だが、そのミスも、瞬時に一人がカバーした。
一番前にいた男は、すぐに駆け出し自身を肉壁として、他のものへの被害を最小限に抑えた。とは言っても、電気の攻撃。一人が犠牲になったからと言って全員に伝播した電撃は確実にダメージを与える。全員が即ダウンは避けられたものの、負った傷は浅くはない。
だが、まだ残り八人。まだまだ時間はかかりそうだ。
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結月の能力は『隠蔽』。自身と自身が指定した物を隠すことができる。その間は実体はあるものの、その影響下で発生する音や匂い、妖力の気配など、あらゆるものが認識されなくなる隠密行動に向いた能力。
菜華が撃った『雷撃』その瞬間、私は能力を使い、姿を消した。『雷撃』は一人の犠牲者を出しただけで、残りの人はまだ地面に倒れてはいなかった。だが、今の一撃で相手は私のことを一瞬だが、意識から外す。次の瞬間には、手前の方にいた二人に蹴りをお見舞いした。
(あと六人、それなら…)
結月は菜華に近づき、手を握る。そうすると、結月の姿だけでなく、菜華の姿までも消えた。
「周囲の警戒を怠るな!」
合計で三人が倒れたというのに、指揮官らしき人物は慌てずに指示を出した。これで誰を最初に倒せばいいかがわかった。指揮系統を潰せば統率は崩れる。
(菜華、囮)
(アイアイサー!)
私が出した声は、菜華にだけ届く。私が手を離すと、菜華は地面を強く蹴り相手の視線を誘導する。いきなり現れた菜華に、意図せず視線を送ってしまう。
(ここだ!)
一気に近づき、腹を渾身の力で殴る。そいつが倒れると、さっきまで一切の隙はなかった相手は一瞬ほころんだ。だが、向こうも素人ではなかった。
「『炎縛』」
炎の鎖が私のことを縛り付けた。周りを見ると、いつの間にか囲まれている。
「んっ!んんん〜〜!」
抵抗するが全く解けない。喋ろうにも口も鎖で塞がれている。
「囮に無事かかったか。残念だが、それは副隊長だ」
後ろから男が語りかけてきた。
(読まれていた?)
視線誘導からの攻撃、それを予測できないような相手ではなかったようだ。見れば、菜華も同じように捕まっている。指揮官だと思っていた人物は別で、本当の指揮官は今後ろにいるらしい。
「あとはそこのお前だけだ。降伏するなら手荒な真似はしないが、抵抗するのならこの二人がどうなるのかわかっているんだろうな?」
指揮官は、涼介に問いかけた。
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(いや〜、どうすっかな〜?拓真先輩は向こうでやり合ってるし、菜華と結月の二人は捕まってしまった。相棒の紅はどっかで修行中。俺がなんとかするしかないのか)
残念ながら今の俺の気分はあまり乗っていない。拓真先輩の力になりたい気持ちはあるのだが、正直なところ、今の俺達はあの人の足手まといだ。さっきあった先輩は数週間前の雰囲気とは全く違っていた。前から強そうではあったが、なんというかふわふわしていた。紗黄先輩がああなってからは、思い詰めたような雰囲気がすごく、話しかけられなかったが、今あの人の雰囲気は鋭く研ぎ澄まされた刃物のようなものに変わっている。
あの様子だと、先輩の問題はもう解決したと言ってもいいだろう。問題はこっちだ。菜華と結月、あの二人が無駄に突っ走るせいで今人質となっている。見捨てるという選択肢はないが、ただただ面倒だ。
(それにしてもえっぐい一撃かましたな…)
菜華の攻撃を傍から見ていた俺だが、さっきのは凄かった。それもそうだが、反応したやつが一番化け物だ。陰陽師は基本、妖力で体を覆っており、あの雷でも致命傷一歩手前レベルまで威力は落ちているが、それでも雷を真正面で受けることには変わりない。
(どうやってこの状況を突破するか…やっぱり天恵使うか〜)
涼介のそれは『固定』。一定の条件はあるが、触れたものを『固定』させる、支援型の能力。空間に右手を伸ばし、あるものを右手の小指にはめる。
「お前、何をしてる!それ以上変なことをすると、こいつを…」
男が脅すために鉄パイプを菜華に振りかざそうとしたが、菜華の頭上から三十cmほどの位置で動かなくなる。
「一個で十分か?」
まだ俺の奥の手は九個残っている。まあ、全部使える訳ではないのだが、ハッタリとしては十分だろう。今使ったのは、天恵を一時的に一段階発展させる指輪。それにより天恵は『覚醒』し、今は触れなくても空間を固定できる。
『神祝』であるこの指輪は祖父が俺に残してくれた物だ。神祝を持ったものは天恵が『神化』するらしいが、俺が使えるのは今はまだ三つが限界。全ての指輪を同時に使用できるようになるまでは『神化』はしないのだろう。こんなものを俺が持っててもいいのだろうか。とは言っても、所有者はもう俺になっているため使うしかない。
「このッ!」
今度は男が力を込めて殴るが、壁を殴ったかのように、カーンという音とともにパイプは弾き返された。
「だから無駄っつーの」
諦めない相手に俺は言った。
「本体から狙え」
指揮官は仲間に指示を出す。指揮官と、菜華と柚月を捉えている二人以外の三人が別々に走り出してくる。
(右手にはつけたから、あとは左手のこれか?)
今度は左手を空間に差し込み、小指に指輪をはめて唱える。
「『空解』」
一時的に覚醒していた『固定』は指輪の効果により『反転』し、『分解』となった。『空解』、空間を分解するそれは、今男たちそれぞれの空間を分断した。空間ごと違えたその正方形の中から出るには空間に干渉することが必要であるが、三人はその術を持ち合わせてはいなかった。
「形勢逆転だ、指揮官さん?お前は二人を攻撃できないが、こっちはできるぞ?これ以上やるなら三人を犠牲にする覚悟があるってんだろうな。だが、俺は嘘はつかない、お前らが開放するならこっちも開放してやる」
俺の問いかけに、指揮官は苦味を噛むような顔をした。
「くっ……分かった、降参する。お前たち、その二人を解いてやれ。」
諦めた表情をして指揮官はそう言った。
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涼介たちが足止めをしてくれているため、俺は苦もなく山崎に近づく。あいつはこちらを確認すると話しかけてきた。
「なんでここが分かるんだよ」
山崎はここに俺が来るとは微塵たりとも思っていなかったようだ。
「勘」
「マジでめんどくせーな、お前」
実際にはお前の姿を見たからなのだが、まぁ、気分を害したなら得だ。
「めんどくせーのはそっちだよ。何のために紗黄を連れ去ろうとした?」
「僕が欲しいから以外無いでしょ?こいつ、元々僕のことを害虫を見るような目で見てきやがった。それにムカついてたある日、変な男が話しかけてきたんだよ。この本を学校に置いたら全て解決するって」
「なるほどな。あのいばら姫の本、持ち込んだのはお前か」
学校にあの本があった理由に納得した。紗黄が記憶をなくしたその元凶、それが今、目の前にいる。怒りが限界を通り越し、むしろ冷静になってきた。
「そうさ!そしたら彼女の記憶はなくなり、僕に好意を持った!それを見てお前も身を引いてくれたと思った。だというのに、またここにお前が来た。」
酷く残念そうに山崎は言う。
「俺が退院後に初めて学校に来た日の帰り道、紗黄の居場所がわかったのはカバンに発信機でも仕掛けたか?それにお前、俺にも同じの仕掛けただろ」
謎だった盗聴器と帰り道の件、流れ的に怪しいのが山崎のため、質問した。
「そうさ、全部俺だよ!!!!そのおかげで色々とスムーズに進んだよ」
予想通り、犯人は山崎だったようだ。
「お前の好きにはさせない、って言ったらどうする?」
「俺の邪魔をするものは、潰す!!」
山崎はその言葉を放ち、手元で何かをすると頬から血が流れる。
(何をされた!?)
「来いよ、拓真!」
テンションが狂ったような声で山崎は叫んだ。
山崎が飛ばしたのは、釘。金属であるそれは、本来人間の手で長距離まで攻撃できる威力のものを飛ばすことが不可能に近いもの。投げればそれは違うが、山崎がした行動は手元のみ。となれば、原因と考えれるのは
(能力か。でも、今までの訓練から考えるに、あいつの能力は向きを操作する天恵のはず……ここまでの変化、まさかだが『神化』?)
前までとは明らかに変わっている天恵。『覚醒』が起こったとしても、ここまでの変化は起こらない。となれば、考えられるのはそれだけである。しかし、拓真自身も瑞稀から初めて聞いた言葉のため、同じくただの高校生である山崎が知っているとは考えにくい。誰に教わったのか、考えられるのはただ一つ。グリードが本と同時に、山崎自身になにか仕掛けたというもの。
「外したか。ん?どうした、拓真!お前お得意の『無効化』はしないのか!」
無効化できるなら、迷わずにしている。いまの俺はさっきまでの戦闘で妖力を使い切る寸前の状態だ。
「貰い物の力で天恵が『神化』したみたいで、随分上機嫌だな!」
一度話をすり替えるのと同時に、腹から声をだしてカマをかけてみる。
「ああそうさ、あの後にあいつが俺に力を貸してやるって言って僕に触れたら、力が溢れてきた!力のある俺が、欲しい物を、紗黄を手に入れるのは当然だろぉ!」
「ハイになってやがる…」
思い返してみれば、山崎に持った第一印象は誠実そうだった。なかなかクラスでは絡まなかったため、紗黄に絡んできた時には忘れていたが今とは正反対のもの。話を聞くに、神化はしてると見て間違いない。それと、何やらグリードから精神に影響、いわゆる洗脳ってやつを受けている可能性がありそうだ。
「んでさぁ、天恵は使えないのかい?」
さっきまでのテンションから一転、落ち着いた様子で山崎は問う。
「────」
(ここは何も言わないほうがいいだろう)
使えないわけではないのだが、油断してくれるなら、こっちにとってもプラスでしかない。
「何も言わないってことは、図星か?なら存分に叩き潰してやるよ!」
(消えた、早すぎる。どこから攻撃してくるのか、全くわからない)
山崎は能力を使い、どこからか攻撃を仕掛けてこようとしている。山崎の進化した能力は『増加』。加えた力によって働く仕事のエネルギー、それを何十倍にも膨れ上がらせるもの。山崎が地面を一度蹴るだけで、自身の肉体は前へと加速する。
本当に妖力がないと思った山崎は近接戦闘に転じた。一直線に加速した自分は本来であればコントロールできない、だが、山崎の元の能力は向きを操作するものであり、運動エネルギーの向きを一瞬にして変えることで細かな動きを可能としている。
それに対し、俺は妖力が残っていると言っても、刀を開放してたった数撃を繰り出せる分だけ。はずしたら終わりだ。二度目はない。
自分の置かれている状況を整理するのに集中していた俺は、反応が一瞬遅れた。意識外からの攻撃をみぞおちに食らい、大きく後ろに吹き飛ばされた。
「やっぱり本当に能力を使えないみたいだな!ほらほらもっと行くぞ!」
山崎のテンションは最高潮を迎えていた。
設定:
・山崎は拓真の予想通り、『改変』によって操られている状態。
作者のコメント:
さっき最終話を書き終わりました。なんだか、体から何かが消えた感覚があります。ここ数ヶ月、ほんとに生活の一部でした。かけがえのないものでした。
次書く世界も、また同じように私のかけがえのないものです。それが誰かと分かち合えると良いです。




